この世界で迷子の僕を(全80話)
この所ジンとウォッカは昼ではなく夜の動き回っているのはなぜなのか。まあ昼の似合わない二人だからなんとなく納得しそうになる、いやできる。そして必然的にリレも夜に動いているし完全に昼夜逆転してしまい10日ほどがたってしまう。
最初こそ眠気でどうにかなるかもしれないと思っていたリレだが、リレにとってジンがいるそれだけが重要であり、それだけで十分問題ないのだ。
昼間はホテルで過ごし夜を闇に紛れて動きまる様は何とも言えず怪しすぎるが気にとめるほどに気配が薄い。
そうしていればしかしジンはリレに休むようにと視線を流してくれるがその間にジンがどこ入ってしまうのでは、とヒヤヒヤしているリレに気付かないはずがなく、ソファーでタバコを吸っているジンにぴったりと張り付いている。
酒こそ飲まないものの資料に目を通しながらもリレを伺い見、そして
「少し寝ていろ」
というジンの言葉にも曖昧に頷いているがその言葉にはあまり従っている様子もない。リレはジンの機嫌を悪くすることもないギリギリの間にいるがそれは中々の技であろう ウォッカが感心してるのは2人の知らぬところ。
リレはジンの持つ資料を見ることもなくジンの横に座りつつ携帯をいじっている。
一体誰とやり取りをしているのか。
そう尋ねかけてきたジンにリレは笑って「シェリーさんと、」メル友になったと答えてくれた。
「シェリーと……?」
聞かなくてもジンならリレの携帯に対して全てを把握しているのではないのだろうかと疑問に思ってしまったが、そう問いかけてきたということはずっと監視まがいのことをしてはいないということで相違いない。
わりと自由だな、僕。
そんなことを考えながらもリレはソファーに深く座り膝を抱え携帯に視線を落としシェリーのメールに返事を出す。
シェリーの返信は速いというわけじゃないが時間を置いてでも必ずと言っていいほどにしっかりと帰ってくる。
その内容なんて本当に些細なものであり
「ジンに何かされてないでしょうね」
「今度食事でもしない?」
「あなたいつも何してるの?」
そんな質問にも差し当たりないよう返事を返している。そして今も研究の合間の休憩なのだろうか、携帯が着信を告げメール画面に視線を戻す。その内容は
「お姉ちゃんにリレを会わせてあげたいの」
というもの。リレとシェリー 、シェリーとはジンやウォッカによく連れられ顔を合わせる頻度が高いため必然的に仲良くなってしまった。
そんなシェリーの誘いはとてつもなく嬉しいのだけれど、残念で申し訳ないことにジンの側を離れられないし離れる気もない。
「ごめんなさいらお姉さんと2人で楽しんでくださいね」
そう返せば「お姉ちゃんもあなたに会いたがってるのよね」
そんな言葉に苦笑いしか浮かばない。メールを打ち込んでいれば資料から目を離したジンがリレのことを見、そして視線を携帯に向けるが角度的にその内容がわからない。
まあ、問題ないだろう。
携帯をパタリと閉じ大きく背を伸ばしながら息を吐き出し吐き出しジンとしっかりと目が合った。
「ご、ごめん…何か邪魔しちゃった」
リレは姿勢を正しジンを見つめればジンは小さく笑って
「いや、何も」
と答えてくれる。
その言葉に リレはホッと息を吐き
「今日もいつもの時間に出かけるの?」
「ああ、そのことだが」
そう言葉を区切ったジンに心臓が冷やりとし緊張していればジンは低く笑い
「今日は特に用事はねぇ」
と言ってきた。
もう一度ホッと息を吐き全身の力を抜いてソファに寄りかかれば不意に眠気がずんと襲いかかってきて大きく欠伸をもらし、グッとと背を伸ばし ジンの肩にコテンと頭を預けた。
そんな甘える行為に最初こそ 多少の遠慮はしていたが今では気にもせず、目いっぱい、とまではいかないがジンに甘え身を寄せていく。
もしこれが別の人間であっても受け入れているのだろうか 。そんなことをぼんやりと考えても組織内にいる女性たちはジンに甘い声や仕草を出していてもジンは全く気にしない。それはリレを特別に思ってくれるということを、リレはいまいち理解していない。が、それくらいで丁度いい距離感には違いないだろう。
ウォッカとジンの仲をきちんと見れていない他の人たちはリレがジンに引っ付いて離れず、様々な言葉をかけまくっているリレにある種の尊敬を送っているが2人は気づいていない。いや、気づいていないのはリレだけだろう。
この組織内でのジンの立場、そしてその横に立ちたい女達は数多いるのだが、まあイケメンに分類されているジンのその横にいたいと思う人間がいるの確かであり当然だろう。
その横に、リレがいる。
自然リレを疎ましく思う奴らはたくさんいるのも確かだ。
そんなことをジンは一瞬考えたが俺の側から離れなければ問題などないだろう、そう一人納得してるジンがいる。
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