この世界で迷子の僕を(全80話)
酷く切ない心待ちでいてもジンとウォッカは行ってしまうのだが、ジンはリレに愛用の ジッポを渡しぐしゃりと頭を撫で一言。
「誰か来ても部屋から出るな、 答えるな」
そう口にしジンとウォッカは行ってしまった。
30分。同じホテル内。ジンのジッポ。
それを心の拠り所にしてリレは2人を見送った。
ジッポをしっかりと手に持ち 握りしめ、大きく息を吐き出しながらソファに座り込む。
豪華な広い部屋のソファーには大きなテレビがあり、リレは深呼吸をしながらテレビの電源を入れた。
パッと 映し出された画面ではちょうどなのかニュース 画面が目に入る、そう、そこにいるのはキールこと水無怜奈であろうレポーター。
何事かのニュースを流しているのだろうがリレの頭には対して入ってはこず、膝を抱えながらチャンネルを変え別の番組を映す。
今日はこれから雨が降るのかと天気予報を見つつも意識はすぐジンとウォッカに向いてしまう。
向くと言っても2人はいないので本当に心に思うだけ。
2人が行ってしまったからまだ10分どころか5分も経っていないが、ジンが戻ってくるのを必死に待つリレの手の中のジッポは既にリレの体温でぬるくなっているがリレの気にはそれほどとまらない。
テレビのニュースをぼんやりと眺めながら小さく小さく呟いたのは「ジン」というもの。
しかし その声は誰かに届いてるはずもなく、もう一度「ジン」と呟くとそれとともに 息も吐き出して抱え込んだ膝に額を押し付け体を縮こませてしまう。
そうしていながらもチラチラと時計を見つめる視線を落とし床を見つめ、ふと冷蔵庫が目に入りリレはフラフラと立ち上がりながらガチャリと開けた。
そこにあったのはよく冷えているだろう茶色の瓶。
そのラベルにはジンと書いてあり、ほんの少しの好奇心でその茶色の瓶を取り出し置いてあるグラスにそっと 注ぐ。
これはストレートで飲む場合 氷なんてものを浮かべるのであろうけれど、この部屋にそんなものなど存在しない。
茶色の瓶を冷蔵庫にしまい、ほんのわずかだけ注がれたグラスを持ちソファーへと戻る。
これを飲んだところでジンもウォッカも何も言わないだろうけど悪いことをしている気持ちになりつつグラスに鼻を寄せて香りを楽しむ。
今まで飲んだことはないが十分に楽しめる。しかしそこでグラスを置いてはいおしまい なんていい子ではない。
リレは相も変わらずジッポを握りしめてはいるがグラスの中身をじっと見つめ、口につけ、傾けた。
強い香りと焼けるような刺激に多少噎せながら、たった一口分だけのそれを飲み干しグラスをテーブルに置いた 。
たった一口だけのソレであったがすでに頭はフラフラ状態である。
これは、ちょっと、ジンがいないということを紛らわすにはとてもいいものではないだろうかと考えるが揺れる思考で「いやいやダメだろ」なんて理性が訴えかけてきている。
そうしていながらもジンは体の隅々にまで回っていき目の前はクラクラとしてきたリレは立ち上がりグラスをすすぎ、ベッドルームまで戻るとリレはそのままベッドに倒れ込んでしまった。
ふわふわの布団からほんの少し ジンの香りが鼻をかすめたがそれは一瞬のものであり、再びそれを求め枕に顔を押し付けるがもう香らない。
体が熱くなり、視界が回り、ふわふわとする。
靴を脱ぎ、這うようにベッドに潜り込むとそっと目を閉じた。
ジンは今頃何事かの用を済ませているのだろう。そんなことを考えられたのはその一瞬だけ。突然グンと襲ってきた 眠気に抗うこともできず欲望のままに眠りについてしまった。それはジンとウォッカが行ってしまってから約15分でのこと。
たった一口のジンによって眠っているリルの携帯が小さく震えたが、リレが起きることもなくスヤスヤと眠り続けて、それでも ジッポをぎゅうと握りしめる力だけは変わらない。
そうしていれば携帯は1度止まり、数秒置いて再びリレの携帯が震えておりリレは小さく呻きながら5分ほどの睡眠から目を覚ましてぼんやりとする。
「……?」
疑問符を浮かべながら体を起こして耳をすませるがふわふわとしている思考ではうまく回らない。
そうしているうちに携帯の振動は止まり静寂が部屋を支配していてリレは欠伸を1つ、 再びベッドに横たわる。
ゆったりとして呼吸と共に肩が上下しリレの髪が重力に従いそれほど長いわけでもないが布団に落ち、前髪が目元に影を落としている。
一度、二度と来た着信であるが三度目は鳴ることも震えることもなくリレのコートのポケットで黙り込んでいる。
リレ眠ること10分。
不意にホテルのリレのいる部屋の扉の鍵が開く音がし、そして荒々しく扉が開けられた。
「リレ!」
そんな怒鳴るようなジンの声にリレは、ハッと覚醒し体を起こした。
「リレ!」
もう一度そんな声が耳に入り ジンとベッドにいるリレの視線が交わった。
「ジン!」
そうリレは顔を綻ばせベッドを下りようとすれば、荒々しく近寄ってくるジンにキョトンと首をかしげるのはほぼ同時であり、ジンはリレがベッドから立ち上がる前にリレの元へと歩み寄る。
その表情はどこか怒ったような、焦ったようなもの。そのジンのモスグリーンの瞳を見上げ首をかしげればそこでジンは息を吐き出しリレの肩に手を置き、小さく何事かを呟いた。
それはあまりにも小さな呟きすぎるがリレの耳にはそれはもうしっかり入ってきたのは
「無事か」
というもの。無事……って言われるほど僕は何か危険な目にあっていたのだろうかと首を傾げるがジンは大きく息を吐き出しベッドの端に腰を下ろした。
ベッドは軽く軋みジンを見つめるリレの視線にジンは気付き、少し眉間にシワを寄せたがそれでももう一度ジンは息を吐き出しリレから視線を外した。
僕は本当に何かしたのだろうか、
「リレ」
「何?」
「携帯」
「ケイタイ……あ!携帯!」
ハッとしたリレにジンは息を吐き捨てるのと同時にリレの頭を思いきりかき回しぐしゃりと撫でてきた。
「出なきゃ意味ねぇだろ」
「もっともです……」
呆れたようなジンの言葉に肩を落とし申し訳なく思っていればジンは口を開き
「吐いてはいないんだな?」
その優し気な問いかけに笑って頷き、しかしリレもそういえば平気だったなぁなんて思ってしまう。いや、でもそれもお酒でやり過ごしただけであり、ジンがそっと顔を寄せてきて呟いた。
「飲んだのか?」
「……うん」
黙秘しようかと思ったが、なんとなくジンに嘘はつきたくないので素直に頷きを答えることにした。
「冷蔵庫にあったやつを一口だけ……」
「それで寝たのか」
「うん」
ジンは「そうか」と呟き、今度は優しく頭をぐしゃりと撫でリレを見つめた。
「怒ってる?」
「少しな」
「少し……」
それはきっと携帯に出なかったことに対する怒りだよな。
「ごめんなさい…」
そう ポツリと呟けばそれ以上 ジンが何事かを言ってくることもなくリレは躊躇いながらもずっと握りしめてたジッポをジンし出し、ジンはそれを受け取りコートのポケットにしまい何かを悩んでいる。
何を言われるのだろう。そのドキドキとしていればジンはリレを見つめてきて一言。
「もし飲むなら俺かウォッカがいる時だけにしろ」
それって、保護者同伴…みたいな?
今一よくわからず首をかしげてしまったがジンの言うことは絶対に従うのは当然だとしっかりとリレは頷いた。
しかしジンの本音は、うっすら熱を帯び揺れるリレの瞳にぐらついてしまったということである。
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