この世界で迷子の僕を(全80話)
ジンとウォッカが2人で何事かを話しており、それを聞いているようないないような表情でストローを口に咥えリレはコップの中のものを吸い込んでいる。
そしてポテトも口に含み咀嚼して、チラとリレを見やったウォッカと目が合い、口の中のものを飲み込みながら首をかしげたリレは
「何?」
という言葉を口にする。
そうしてリレを見やったのはウォッカだけでなくジンもであり、もしかして今の2人の会話を聞いていなければならなかったのかと緊張してしまったがそうではないらしい。
そうして2人と見つめあって数秒、腕時計に視線を移しもう一度リレを見つめると
「少し、お前についてやるべきことがある」
その一言にリレはドキリと心臓を脈打たせ、手の中のコップの中身が溢れないように、しかししっかりと握りしめた。
「 僕、何かした?」
そんな言葉はかすか震え、金の瞳は不安気に揺れるがジンは低く笑って
「お前が考えていることとは少し違う」
と呟かれる。僕が考えていることはただ一つ、ジンの側を離れ 1人でも活動できるようにするということ。
まあそれが世間一般の理であるのだが、今のリレにとってはそれができない。
ならばそれ以外でのこととなると皆目検討もつかない。、
いや、でもジンは「少し違う」と言ってるのだからそれに関することであるのだろうと考えられる。そしてジンの次の言葉を待っていればジンはタバコの煙を吐き出しながらリレに伝えたのはそう、
「俺と離れて10分の限度を超えるようにしろ」
というそれ。今日までの3ヶ月できちんと離れて待機した回数は割とあったが、そう10分。10分が限界。
ほんの数度、その時間を超えて一人で待機していたリレはジンが姿を見せても涙と空気を吐き出し続け、それが落ち着くまでしばらくかかったりもしていたが、そう確かにもう少し耐えられるようにならなければいけないだろう。
しかし そんなことを言われても10分の壁を超えられるのに一体どれほどの日数がかかるだろう。そんな不安な気持ちでいればジンはチラリと笑い
「 ちょうど今から30分後にある人間と会う。その間、お前はこの部屋で待機できるな?」
いや、してもらう。
そう 言い切ったジンの言葉。たったそれだけで 一気に気持ちが悪くなってくる。
こみ上げる胃液を飲み込みながらストローを咥えカップの中身をすする。
何というか、とても虚しい。
コクンと小さく飲み込み自然 垂れてしまった眉にジンは笑い、ウォッカはどこか心配気にリレとジンのやり取りを見ており
「待っていられるな?」
無理だ、と言ってやりたい。言い切りたい。しかしジンの手を煩わせるのは本意ではないし。確かに僕もジンと距離を置いても吐き出さないようになりたい。
けれど 今は少し心の準備が整っていないと訴えようにもジンはリレを置いて行ってしまうのであろう。
なんだかすごく泣きそうだ。
そうして肩を落とし視線も足元に落とせばウォッカはジンを見つめ、ジンはリレから視線を反らさず「リレ」と。
リレはそれでも震える視線をジンに向け、
「どれくらい?」
と尋ねてしまったのちょっとした覚悟であり、その意図を汲み取ってくるたジンは薄く笑い、
「30分だ。 」
「……30、分……」
10分でも限界、しかも扉1枚 隔てて10分が限界であるというのに、それはいくら何でも少し長すぎる。
「…どうしても、ダメ、だよね…」
そうぽつり呟いたリレの声は酷く無機質なのであり、それに驚いたのはウォッカだけでなくリレ自身も驚いてしまったが、それ以上に
「たった一人きり」
「30分」
「部屋で待つ」
その3つはハードルが高すぎる。
ジンが妥協してくれることを祈りつつ視線を落とし息をのみ
「…絶対、戻ってくるよね…?」
震えるリレの言葉にジンは少し黙り込みリレを見つめれば、何も言わぬジンをしっかりと見つめリレの両の瞳から涙がこぼれ落ちそうになる。
「リレ」
「……っ、じん……」
僕の名を呼ぶジンに言葉を返そうにもうまい言葉は見つからず、とうとう両の瞳から涙がこぼれ落ちてしまった。
「無理か…」
そんなジンの小さく低い呟きにリレは肩を揺らし
「ごめんなさい」
と叫びそうになる。
そんな言葉も勢いも飲み込んで 両の瞳をぎゅっと閉じると小さく震える声で
「まつ……まちます……」
そう呟いた。
「できるのか?」
「わかんない…でも、ジンの迷惑になりたくないから、待つ……」
ジンが帰ってくる、それは目標だとしていれば多分、少しはいけるかもしれないけど、ところでジン、どこへ行くの?
そんな小さな疑問を浮かべ問いかければジンは一言、
「このホテルの別室で少しやることがある」
「この、ホテル」
なんだ、どこか別の場所まで移動するわけでもないというなら頑張れるかもしれない。
それを希望にしリレは涙を拭い
「頑張るね!」
そうしっかりと口にした。
ジンは満足そうに笑うとリレの頭をぐしゃりと撫で、いつものように
「いい子だ」
と言ってくれた。
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