この世界で迷子の僕を(全80話)



日本とアメリカの時差にリレの生活リズムが狂ってしまったけれどジンとウォッカの後は絶対に追いかける。

昼の便でアメリカ出たが日本に着いたのは夜、飛行機の中でウトウトした睡眠を繰り返していれば体内リズムがおかしくなるのは当然であろう。
飛行場を出てゲートでアメリカで渡された例の粉……は無事通過し向かった先はシェリーのいるラボ。
本の少しも休むこともなく動くジンのコートを掴みながらうとうとしてればジンは車の中、ウォッカが運転する車の後部座席に座る時にジンの髪をスルリと撫でればジンは本の少し笑い小さく振り向くと

「少し寝ていろ、着いたら起こす」

そう言われリレはうんと頷き横になった。

ジンの香りはずっと鼻にしていたが今は久しぶりのジンの車。ジンの香りにジンの吸うタバコの香りに安心してしまい、車の中を照らしている光の目をすぼめてしまう。
それを避けるように片腕で顔をおおい光を避ける。そうしてスルスルと動いていく振動に心地よ眠気が襲いかかってきてそれに抗うことなくリレはストンと眠りの中へと落ちていってしまった。

どれくらい経っただろうか、不意にに車が止まり「リレ」という低い声が耳の奥を刺激してきてリレはハッと目を覚まし声の主は見つめそこにいたのは当然だがジンであり、リレは小さく欠伸をしながら体を起こし車を降りた。

空港を出た時に人工的な光が入っていてが今もわずかな明かりがジンを照らしている。

ラボの外にある駐車場であるがまだまだ、というより昼夜交代で研究が続けられているのだろうどこの階からも光が漏れてきている。
リレが車の扉を閉めたそれを確認したウォッカが鍵をかけ歩き出すジンに二人してついていく。だいぶ寝たためもう眠くはないので黙ってついていけばウォッカがジンにそっと耳打ちをし、ジンはそれに対し低く笑い返している。

そうしてラボの入り口でパスを通し入っていく。ここに来るのは2度目の為、色々気になってしまうがキョロキョロしていると怪しい人物だと認識されてしまう。そうするとジンに対する信用に問題が出てしまう、それはリレの望むところではない。気にはなるが、なるべく見ないようジンとウォッカにぴったりひっつきレベル3と表示されているそこに入り込む。

時刻はもうすでに夜中の3時を回っているがシェリーがパソコンに向かっておりジンとウォッカ、そしてリレに気づくとジェリーはパソコン画面 から目を離し3人に向き直り


「随分と人を待たせるわね」


と口にして大きく息を吐き出している。 しかしジンはそんなシェリーの言葉はどうでもいいらしくコートのポケットからアメリカのコーヒー店のあの男から受け取ったコーヒーの袋を差し出し

「解析しろ」

と口にする。シェリーはそれを受け取りながら外装を見て立ち上がると奥の部屋へと消えてしまう。それを見送りながらジンを見上げればシェリーのパソコンを見て、薬の進み具合を確認しているが専門ではないので早々に顔を上げシェリーが戻ってきた。その手にはコーヒーの袋があり開けられた形跡も伺える。


「なかなか上等なものね、助かるわと」


呟いたシェリーに ジンは同じく呟いたのは

「次のステージに進めておけ」


そうしてさっさと背中を向けて歩き出しをリレはチラリとシェリーを振り返り

「お疲れ様、睡眠とってね」

なんて余計なお世話であったであろうが、シェリーはキョトンとしても小さく笑い、「ありがとう」と送り出してくれた。
今日は他にどこかに行くのだろうかと思いつつラボの外へと出たジンに問おうとそっとコートを引き振り返ったジンは

「なんだ」

とリレに問いかけてきてリレは小さく首を傾げながら

「次はどこの行くの?」

というそれ。今までにリレがジンの行動の先を尋ねることが少なく、ジンはリレを見下ろすと

「家だ」

と呟いた。

「家」

ジンって、家あったんだ。ずっとホテル暮らしだと思っていたという感想を持っていればジンは目を細めリレの言葉を聞かずとも理解してくれたようで

「組織が管理している部屋がある」

と教えてくれた。僕はジンと同じ部屋にしてくれるのかなと考えながら車に乗り込む。ジンとウォッカ二人とも同じマンションなのかなと考えつつ夜中の道を走り抜けていく。

どれほど走ったのかジンが運転する車が大きなマンションの駐車場にたどり着きそれはもう慣れたように駐車し、ジンとウォッカは車を降りそれに倣いリレも車を降りマンションのエントランスを抜ける。
タワーマンションのエレベーターの最上階のボタンを押したウォッカであるがジンがボタンを押さないところ見ると二人とも同じ階に住んでいるんだなと一人納得し上昇するエレベーターはあっという間に最上階。ポーンという高い音が真夜中の、いや既に朝方の5時を示しているその空気の中で響き渡り二人の後エレベーター降りた。

そのままウォッカは目の前の部屋へ、そしてジンは一番奥の部屋へと進んでいく。
ジンもウォッカも何も言わないけど僕はこのままジンの後をついて行ってもいいのだろうか。そんな不安に思いつつ 今部屋の鍵を開けて戻っているジンを見ると

「どうした」

問いかけられ、僕はジンと同じ部屋でいいのかとホッとしてしまう。ジンが扉を開けリレも玄関に足を踏み入れれば生活感がほんの少しもないただただ広いだけの空間がその場を支配している。
と言うか1ヶ月も一緒にいて自宅(?)に連れて行かれたのは初めてとは一体どうなってるんだろうか、しかしそれは僕のことを完全に信用してくれたということなのかもしれない、嬉しい限りだ。

靴を脱ぎジンはコートと帽子をソファーに投げかけ
「好きにしていろ」

と声をかけてきて、そして恐らくはバスルームに入ってしまったのであろうでリレも同じようにコートを脱ぎつつカーテンもな無い、ただとにかく広いリビングの窓に近寄り下を眺める。
もうすぐ夜明けだが街はもう活動が始まっていて車がちらほらと流れていて今度は奥の部屋へと向かう。

そこにはあけっぱなしのクローゼットにこちらの部屋は黒いカーテンが引かれておりそして大きなベッドが置かれているそのシーツはグシャグシャに丸まっている。まあジンがベッドメイキングなんてしないだろうことよく分かるし、なんとなくそれがジンらしいとも思える。
余計でもあるだろうがジンがシャワーを浴びているうちにとベッドを整え窓を開け放つ。1ヶ月戻らなかった部屋の空気を変えようとしていれば「リレ」という声がリレの耳の奥に響き振り返ればタオルを肩にかけ下着一枚のジンがそこに立っていた。
たった一度だけだかジンの裸を見ていたあの時は正直それどころではなかった不健康な顔に似合わず身体は鍛えられていて、その所々には傷跡が残っている。
ジンってどんな人生送って行ったんだろうと考えていれば

「お前もシャワーを浴びてこい」

そう言われうんと頷きつつシャワーを浴びるためジンの脇を通ろうとすればジンはリレの腕を掴みしばらく見下ろしていたかと思うとすぐその手は離され

「洗浄してこい」

と。

「せんじょう…?」

一瞬何のことかわからなかったがすぐその言葉の意味を悟るとリレの顔に熱が集まっているのを感じたじろいでしまうが、ジンは楽し気に笑ったままでありらリレは頑張って小さく頷くとバスルームへと足を動かした。その背中をなおもジンは笑って見つめておりリレはどうしようもない気持ちで行ったのは、それである。








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