この世界で迷子の僕を(全80話)
暖かく緩やかな眠りの中、不意に苦しみを感じ小さく呻きながら目を覚ませばそこにあったジンの寝顔。
それはもう穏やかなそれ。驚き息を詰まらせるがジンが起きる様子もなく思わずジンの寝顔を見つめてしまう。
白い、というより青白く不健康にも思える肌に長い睫毛が小さく影を残し前髪と後ろ髪は重力に従いベッドに広がっている。そして目を覚まさせたほどの苦しみが一体何なのかを悟った。
ジンに、それはもう思い切り抱き締められているようだ。そして最後眠りに落ちる前までの行為を思い出してしまった。そうだよ僕ジンに抱かれたんだよ。
媚薬にやられたのであろうジン、ベルモットに問えばリレが、僕が。そこまで考えいたりカッと耳が熱くなるのとジンの目蓋が震えたのはほぼ同時。
ジンが起きる!
そう感じた僕は思わず目を閉じ寝たふりをすることにした。咄嗟すぎてなぜそうしたのかわからないが寝たふりに準じよう、僕は寝ています、僕は起きていません、僕は見ていません。
そうしていればジンが起き上がりベッドが軋むと腰に回されていた手が離れそしてほんの少し目蓋の向こうが暗くなりジンの気配が近づいてきて、
「リレ」
そう呼ばれ口付けを落とされた。しかしそれはほんの僅かであったけれどそれは確かにキスであり頬と髪をさらりと撫でてくるとジンはベッドから出て行ってしまった。
ベッドから遠のく静かな足音が耳を揺るがしパタン、とバスルームへと消えていってしまうそのジンが戻ってこないことを確認するとリレはすぐ身体を起こし、ドキドキと騒ぐ心臓をそっと押さえてしまうのは仕方ないだろう。
そして全身が痛んだ。主に下半身。ズクリと痛む腰に太股に後ろ。
途中からほぼ何も覚えていないけれど、それでも全てを忘れているわけがない忘れるはずもないだろう。
ジンの後を追おうとし、リレがベッドから抜ければ起き上がる時よりもさらにだるい痛みが襲ってきてその場に座り込んでしまう。
「し、しんどい…」
と思わずポツリと呟いていてもバスルームにいるジンには届いていないのはまあ当然だろうが、それでもリレはよろよろと立ち上がり人ジンのいるバスルームへと歩いていき扉をトントンと叩きガチャリと扉を開けた。どうやらジンはシャワーを浴びているのだろう、水音がザーザーと耳に響きは鏡に映る己を見つめてしまった。
目元がほんの少し赤く、首筋や胸元に散っている赤い花びらはジンの執着を感じてしまうのだろうが残念なことにリレには届いていない。そしてカピカピに乾いている白く薄いソレはソレだろう。
再び顔と言わず身体中に熱を感じバスルームにいるジンに声をかける。
「ジン、入ってもいい?」
そう問いかければ、本の少しの沈黙後、「入れ」とジンの声が返ってきてガチャリとシャワールームのドアを開け放った。
そこにいたジンは髪の水気を絞るようにしており昨晩と比べるとそれはもう機嫌がいいらしい。ジンはリレを見つめると口端上げを小さく笑いリレの頭を撫でバスルームから出て行ってしまった。
今の笑顔は何だったのだろうかと思いつつもジンが浴びたシャワールームにはふわっとした湯気が立ち込めほのかに暖かい。そんな中でリレもシャワーを浴びジンのモノが入っていたそこを洗うべきかと思うが洗うべきだよな、一応。
ドキドキと変に緊張しつつ、そろりと指を入れるローションであったソレを掻き出していく。
ぞわぞわゾクゾクしていれば熱いシャワーがそれを流してくれる。大きく息を吐き出し作業を終わらせると全身を洗い水気を抜き取りつつもシャワールームから出た。
洗面台に置いてあるタオルで全身を拭いていれば完全にではないがズボンだけを履いたジンが姿を現しリレを見つめると小さく笑う。髪は依然、しっとりと濡れたままのジンはリレの耳元に唇を寄せ呟いたのは
「良かったな?」
というもの。
一瞬でその内容を悟ったリレは顔を赤くし、はわはわとしてしまうがジンは楽しげに笑ったままでありどうすることもできないでいるリレの反応を楽しんでいるようだ。
ジンの馬鹿!
そう言いたいが言えるはずもなくジンは顔をあげるとドライヤーで髪を乾かし始めているそれを黙って硬直して見ているわけにもいかず、リレは身体を拭くとベッド脇に落ちている服をまとった。
タオルで髪の水気を取ってればじきにドライヤーの音は途絶え、ジンが洗面台から戻ってくるその髪はさらりと揺れなびき上半身裸のままタバコを咥えて火を点けている。
そういえば今は何時だろうと時計を見上げればまだ朝の6時前でありそういえば外の明かりもそれほどないのはそういうことだろう。
タオルドライをしていたリレにジンは煙を吐きながら声をかけ、リレはハッとしてバスルームに向かう。髪を乾かそう。
たった今ジンが使っていたため熱を持っているドライヤーのスイッチを入れ髪を乾かしていくがタオルでほぼ水気は取れているのでさほど時間はかからない。
完全に乾かすとリレはすぐバスルームからベッドルームに戻りジンが完全に着替えを済ましていた。そして新しいタバコを一本咥え
「8時に行くぞ」
と。どこに、なんて言葉は出てこないのは、それがいつもだから。
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