この世界で迷子の僕を(全80話)


去り際にベルモットと連絡先を交換し合い、ベルモットは手をひらひらと振りながら

「楽しんでね、ごゆっくり」

なんて笑って行ってしまいジンはそれはもう恐ろしいほどまでの苛立ちのオーラを醸し出している。そしてベルモットの言っていた「1801号室よろしくね」とはどういう意味なのか僕には分からない。

そしてジンに伴いラウンジから廊下に戻ればその明るさにほんの少し目がチカチカとしてしまい少しだけ目をぎゅっと閉じ開ける。そうしながらジンはリレを連れでエレベーターに乗り18階まで下りて行き1801号室の前まで歩いて行く。


「ここで待ってろ、すぐ終わる」


そうジンに頭を撫でられリレは小さく頷きジンは1801号室のドアをノックして入っていく。そこでチラリと見えたのはスタイリッシュ白髪の叔父様。ジンはこの人の何が嫌なのだろうか、そして扉の中へとジンを見送りも見送り扉の前にズルズルと座りこむ。

たった1枚隔たれたそれだけの空間に、しかしリレからしたら途方もない距離である。困った。

室内からは何の物音も話し声も聞こえてこないが、まあそうだろう。外に声なりなんなり聞こえてしまってはプライバシーの問題にもなると思う。

本の10分、そろそろ限界にも近かったその時ガチャッと音がしてジンが静かに出てきたが様子がおかしい。いや、めちゃくちゃに機嫌が悪い。
一体扉の向こうで何があったのだろうかと鼻先をかすめた甘い香り、首をかしげスンと吸えば

「やめろ」

と言う低く冷たい声。ジンはそんな声を僕に向けて発したことはなく、驚き、小さくごめんなさいと呟けばジンば少しバツが悪そうに眉を寄せ舌打ち一つ

「違うそうじゃねえ」と。


じゃあ何だと思ったがジンはさっと歩き始め僕は慌てて後を追いかける。そしてジンと共にエレベーターに乗り込みホテルの自室に戻っていくジンからは、やはり甘い香りがずっと漂ってくる。

ジンは荒々しく帽子をとりコートを脱ぎ捨てるとバスルームに消えてしまったが、リレの一瞬の見間違いでなければ頬がうっすらと赤かったし呼吸も荒い。本当に何があったのだろうか。

ジンがシャワーを浴びている僅かな時間にジンからもらった携帯を取り出しベルモットにメールを送った。

こんなことがあってジンの様子がおかしい、そしてほんの少し甘い香りがしていてそれを嗅ごうとしたら怒られたがジンは一体どうしたのだろう僕に何かできることはないでしょうか。

ベルモットの返事は早かった。
「あるわ、ジンのところへ行って好きにしてと言ってみなさい、粘り強くね?」
とそれを読んでリレは一瞬で何があったのかで気づいてしまった。ジンは薬を盛られてしまっただろう、そして興奮状態にあるということ。性的な方で。

しかし好きにしてと言ってもリレは男だしジンが男を相手にするとは思えない。むしろベルモットが相手をすれば良いのではと思う。
ねぇベルモット?

メールはきっと読まれたであろうが返事はなくベルモットとを信じてみようと服を脱ぎ下着一枚になって、高鳴る心臓を落ち着かせバスルームに向かえば鍵がかかっていない。
もう一度深呼吸。
一度扉の前で「ジン」と呼びかけつつバスルームの浴室の扉をノックしてもジンからの返事は来ずもう一度「ジン、入るよ」そう声をかけて扉を開ければジンを見つめ硬直してしまった。

冷水を頭からかぶり、長い銀の髪がペタリと体に張りつき、手は、その、ジンの、あれを握る、と言うか……

ジンが自慰をしているところなんてほんの少しも想像できなかったのだが

「えっと、あの……ジン

そう呟いたリレにジンは人を殺すほどの目でリレを睨み付け
「出ていけ」と。

もしここで出ていったらジンはまた再び行為を再開するのだろうか。 一向に出て行こうとしないリレにジンは苛立たしげにリレの腕をを掴むとバスルームから押し出そうとしたがリレはぐっと堪え、

「ジン」

と。

「ジン、僕を使って」

と。間違えた。使ってじゃなくて「好きにして」だわ馬鹿め。
けれどジンはすぐどういった意味なのかを理解し、悟り、眉間にしわを寄せると

「出て行け」

と低く低く。
しかし僕だって引かない。僕で役に立つと言うならいくらでも使って欲しい。ジンのために何かしてあげたい。もらってばかりではなくもらって欲しい。ねぇ、僕はジンのものだよ?

そうした無言の攻防はリレが勝利した。ジンはリレの腕をを離すと

「来い」

と呟き、リレは嬉しくてぎゅうとジンに抱きついた。









次へ、読まなくてもいい裏(パスあり)→
20/81ページ
スキ