この世界で迷子の僕を(全80話)



ベルモットはジンとウォッカと一言二言言葉を交わした後、部屋を出ていってしまいどうやらグースカ寝転けている間に3人お話を済ませてしまっていたようだ。

ソファの背にかかっているリレのコート。そういえば僕はどうやってこのホテルの部屋に入っただろう?歩いた記憶もないのだからジンかウォッカが運んでくれたのだろうか、申し訳なさすぎる。

僕は一体どれくらい眠っていたのか、それを聞こうとジンを見上げれば、ジンは何となく苛立だっている様子でありベルモットとの間で何かあったのだろうか。僕に知る術ははない。

そうしてジンはウォッカに何事かを囁きかけウォッカは小さく頷くとリレを見下ろし

「アニキが少し出かけることになるが」
「どこへ?」

ウォッカの言葉を遮るように口を出してしまったがウォッカは気にすることもなく

「最上階にあるラウンジ」

そこで再びベルモットと顔を合わせることになる。もちろんリレも一緒に、と。その一言にリレはほっと一息、ジンのコートをぎゅっと握りしめ


「いつ?」
「10時だ」


今は8時を少し回ったころ。まだ2時間もあるがどうやって過ごすのだろうか。 けれどそんなにリレの考えは他所に、ウォッカは

「おやすみなせぇアニキ、リレ」

と言葉を発し部屋から出て行ってしまい
「ウォッカは来ないの?」
そうジンに問いかけてしまった。
ジンはチラリとリレを見下ろすと「ああ」と頷き、

「お前はもう少し寝てろ」

そう頭をぐしゃりと撫でられリレはそれに対し目元を緩ませるとコートを引き

「ジンは起きてるの?」

そう首を傾げてしまう。ジンはしかしリレの頭をくしゃりと撫でながら本の少し思案すると

「ベルモットの言葉の全てを信じるな」

それは忠告なのだろうか、ジンとベルモットの関係って一体何なんだろう。マティーニを作る中だということは覚えているけれど、でもジンはベルモットに対しあまりいい感情は持っていないただ同じ組織の近い位置にいる人間としか見ていない気もする。リレはむんと黙り込みジンを見上げるがそれ以上何も得られないと感じるとジンのコートを離し、ホテルの部屋に備えてあるグラスに水を注ぎ、こくりこくりと飲み干し息を吐き出した。

そんなことをしている間にジンは煙草を加え火を点けながらベランダへと消えていき、慌ててリレもその背中を追いかけた。

風が頬を撫でひんやりとした空気に背筋を震わせ冷たい空気を吸い込んでいればジンが視線で部屋に戻っていろと訴えかけてきたが、そんなことをしたくないとジンにひっつき前のタバコの煙を吸ってしまった。思わず咳き込めばジンは低く笑い煙草を一本吸い終えリレの腕を掴んで部屋へと戻っていく。まだ8時半にも満たない。本当に寝ていようかな。

ジンは部屋に備えてあるコーヒーを淹れ口に含んでいるが美味しくはなかったようで眉間にしわを寄せるとテーブルに置き唯一の持ち物であったパソコンを操作している。
パソコン、あったんだ。

そんな背中を見つめながらリレはジンの横に座り軽く寄りかかりながらもそっと目を閉じる。
ジンの側は安心する。ジンの香りとほんの少しの温もりに落ちる目蓋をそのままにしてリレは再びストンと眠りの世界に行ってしまった。


「ーーーリレ」


そんな低い音がリレの鼓膜を揺らしハッと目を開いたそこにいたのはジンであり、キョトンとする瞳でジンとジンの向こうにある時計を見れば時刻はもうすでに10時を回っている。


「ご、ごめん、ジン!ちょっと顔洗ってくる!」


とそう宣言し、小走りで洗面台に向かえば少しまだ眠そうな顔が鏡に映り冷たい水で眠気を覚まし顔を洗い完全に目を覚ました。
タオルで顔を拭くとジンのもとへ行けばジンがリレのコートを持って立っておりそれに礼を述べながらコートに手を通しジンの後を追いホテルの一室を後にした。

本当にウォッカはいないんだなと考えつつどこか不機嫌なジンを見上げてエレベーターに乗り込み最上階のボタン押す。エレベーター内では互いに無言ではあるが別段その空気が気まずいなんてこともなく、サッとラウンジへとたどり着く。

絞りに絞った照明と、蝋燭の灯りだけがそこを支配しており窓際のカウンターに腰を降ろしカクテルを傾けているベルモットの姿を見つけた。それはジンもであり、ジンはまっすぐベルモットの横に歩み寄り何の躊躇いもなく椅子へと腰を落ち着けてリレはジンの横に腰を降ろす。


「あら、眠り姫まで来てくれたの?」


そんなおどけた様子のベルモットの言葉にリレはジン越しにベルモットを見てへラリと笑い頭を下げた。さっきも会ったが挨拶はしていなかったと


「リレです」


と頭を下げ、ベルモットは小さく笑い「よろしくね、」と。

そして互いに挨拶を交わし終えるリレとベルモットを見たジンは小声でベルモットに話しかけ初め、リレは目の前に置かれたカル―アミルクに口をつけた。そしてベルモットがジンに囁きかけた言葉が耳に入ったのは


「1801号室のターゲット、お願いね、ジン」


と一体なんのことだろうと思ったがとりあえず飲み干そう。これおいしいな、と。









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