この世界で迷子の僕を(全80話)



フライトは何の問題もなく終え、リレ、ジン、ウォッカはアメリカの地へと足をつけた。
僕の戸籍がないのにパスポートなってどうやって手に入れたんだろう、まあそこは何も聞くまいとそれを忘れることにした。ゲートを通る時は捕まるのではとヒヤヒヤしてしまったが日本もアメリカもそんなリレの心配をよそ他所にとてもにこやかに「空の旅をお疲れ様でした、」ようこそ
、と笑って声をかけてくれる。
それにしても荷物もなく身一つでアメリカ、というか国外へ出るなんてジンもウォッカもすごいなと感心しながらも、リレだって荷物なんて一つもない。いや、そうではなくリレは元々の持ち物が一切ないのだ、身一つなのは当然だ。そしてジンの後にひっついて歩いていればもあっという間に空港を出てしまいそして、空港の外に待機している車に乗り込んだ。ジンは助手席に、リレとウォッカは後部座席に腰を落ち着け


「久しぶりだな、ジン」


そんな声が耳を揺らし、ジンも同じように答えているが

「ベルモットは夜合流できんだろうな」

と問いかけており運転席の男がミラー越しにチラリとリレを見るがすぐ視線は前を向き「今のところベルモットの予定は狂っていないが」もう一度リレを見やり

「そのガキは一体……?」


言葉を濁すようになったその理由は至極簡単なもの。ジンに睨まれたからである。男は小さく息を飲み黙り込むと視線はまっすぐ前を向いたまま

「ホテル1403号室を取ってあるので待機してくれ」

とジンは頷きタバコを加え火をつけ深く吸い込んでいる。それを男はチラリと見たが何事かを追求することもなく男はポケットから鍵を取り出しジンに差し出してきて、ジンはそれを受け取るともう一度深く煙草を吸い煙を吐き出しその煙は、薄く開いた窓の隙間から外へと消えていった。


「リレ」
「何?」
「こいつはカルヴァドスだ」


なんかちょっとだけ聞いたことのある名前だと一人驚きそうになったが、何でもないを装い「初めましてカルヴァドスさん」と口にする。カルヴァドスはそんなリレを見つつ

「ああ、、、」

それだけを返してくる。まあリレもそんなカルヴァドスとつらつらと会話をしたいわけでもないし知りたいわけでもない。確かこいつはベルモットに惚れていてどうのこうので赤井秀一に足を折られて自害したんだよね。

顔も声も知らなかったけどへーこんな人だったんだ。

そう考えていればジンとウォッカがカルヴァドスと話し始めておりリレはそんな3人に構うことなく夕方であろう赤い陽が周囲を照らしていて、この空はどこに行っても同じ空。どこもかしこも同じだ。
そんな感傷に浸りながら窓から外を見つめ
「天気いいな」

なんてそれはもう場違いなことを呟いてしまう。そんなリレの呟きにしかし、3人は特にリレに気を向けることもなく色々と話し込んでおりリレはジンの髪に手を伸ばし触れるとひんやりとしているが指をするりと流れていく柔らかい髪が気持ちよく何度も何度も指を流していく。
ジンもウォッカも慣れたリレの行動だが、それを初めて見た組織の人間は表情を引きつらせ息を飲み引いてしまう。
それはカルヴァドスも同じだったらしい。ギョッとしつつリレをちらちらと見つめ何事かを言いそうになってるけれど少しも気にしていないジンに声をかけるかを考えているが、まあ何も言わない方がカルヴァドスのためであろう 。
カルヴァドスはそれに気づいたようで、リレとジンの戯れに似たそれを見なかったことにして長い橋、アクセルを踏み込み車を走らせていく。

低いような高いような音とともに走る車は先ほどよりも景色は流れる速度は格段に上がったが広く長い橋から夕日が沈む海が視界いっぱいに入り込み「綺麗だな」なんてつぶやいてしまう。

ウォッカはそんなリレの頭を軽く撫で
「何が食いたいものはあるか」

と。
正直ジンといられればそれ以外はどうでもいいので二人が出入りしても何も言われないお店、と、そして僕は翻訳したりすることはあるとかな?とら。

ジンとウォッカはチラリと視線を絡ませ

「今の所そんな予定はねぇ」

そうジンが口にし、リレは「そっか」とジンの髪を梳くように撫でながら言葉を返し座席に思いきりに背中を預け大きく息を吐き出した。


「退屈か?」
「ううん、飛行機で寝てなかったから」


なるほど時差ボケかとウォッカは頷き、

「ホテルに着いたらお前は寝てろ」

とジンは呟いたがリレは欠伸をしながら首を振り、起きてる、でも今は少し寝たいと答え態勢を崩すとちょっと目を閉じる。そうすれば暖かく柔らかな眠りがゆっくりと訪れてきてリレはそのままストンと眠りに落ちてしまった。

ジンもウォッカもカルヴァドスもそんなリレをちょっと見ると先ほどとは打って変わって空気を変え低く話し始めたのは今ロスのどこかで逃げ回っている組織の末端の中の末端でいる人間のこと。
薬の被験体として使おうと思っていたが下らない犯罪を犯し逃げ回っているので、本当に役に立たない奴だとジンの命令で 始末することになっている。
辺りはすでに薄闇が世界を包み込みしばらく走り続けた車は街中に入り一等大きなホテルへとたどり着く。それでもリレは寝たままでありウォッカはそっとリレの身体を抱き上げようとしたが、ジンが制止しジンがリレを抱き上げた。

前にも思ったが軽すぎると眉間にシワを寄せそうになったがそれでもウォッカに任せることもせず、カルヴァドスは何とも言えないような表情でジンを見つめジンの腕の中にいたリレは抱き上げられたそれに小さく声をもらし目を開けた。
ぼんやりとしながらリレはジンを見上げ

「起きたか?」
「ん……」

リレはまた小さく声を漏らして再びジンの肩に額を押しつけ目を閉じ規則正しい寝息を立て眠ってしまった。

ここまで来ると黙ってしまっていたカルヴァドスもジンに問いかけてしまいそうになってしまうのも仕方ないだろう。


「その子は一体…」
「俺専用の翻訳家、とでも言っておくか」


といっても組織に送られてくる様々な国の翻訳を行ってるので俺専用とは言い難いがいちいちそう深くまで教える必要もないだろう。
ホテルに入る前にカルヴァドスはウォッカに耳打ちをし4人は別れた。いや別れたのはカルヴァドスだけだがエレベーターに乗り込んだジンとウォッカ、そしてジンの腕の中で眠ってリレはスルスルとホテルの上階まで上昇しあっという間に1403号室へと歩き、ウォッカは部屋の鍵を開け扉は開け3人はその部屋の中へと姿を消した。

ジンはリレをベッドに寝かせソファに腰を下ろすとウォッカと話し始めリレは一人深い夢の中。


「あら、随分可愛い眠り姫ね」


そんな甘い声が耳を揺るがしソロリと頬を撫でられたその感触に、リレはゆっくりとまぶたを持ち上げた。そこにいたのは美しい金髪の女、そうベルモットではないだろうか。

ぼーっとした意識の中でベルモットを見つめていればベルモットはチラリと笑い

「綺麗な目ね」

なんて言ってくれるそんなベルモットの手がもう一度スルリとリレの撫でてくると、ジンが「リレ」と呼んできた。


「ジン、おはよ」


そう欠伸をしながらリレは頬を撫でてきたベルモットをチラリと見ながら体を起こし目をこするね。

眠いけど起きるべきなんだろうな。

ベルモットはベッドの端に座っていたようだが起きたリレを見つめるともう一度笑い

「ねぇ、この子私に貸してくれない?」

と一言。僕は貸し借りされる人間なんだろうかと思っていても残念ながらベルモットさん、僕はジンの側を離れる気も離れられるつもりもありません。
もぞもぞとベットから降りてジンの脇に立てばジンはリレの頭を軽く撫で


「断る」


と一言だけ。
しかしその一言はとてつもなく大きなものでありリレは笑い、ベルモットは肩をすくめ

「つれない人」

なんて笑っている。つまり冗談だっただろうか、ジンはそっと眉を寄せを息を吐き出した。









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