この世界で迷子の僕を(全80話)



ザアザアとした水音が耳に入りリレはパッと目を開くと、そこにはジンもジンの温もりもなく慌てて焦ったようにリレは身体を起こし室内を見渡した。そうすればソファーに座って携帯は弄りながらいつ来たのかウォッカと話をしている。


「ジン、ウォッカ…」


ベットの上でそうポツリと呟けばジンとウォッカがリレに視線を向け

「起きたか」

と。それに対しリレは「おはよう」と返した。

もちろんジンが「おはよう」なんて言葉を口にすることはないしウォッカからも来ないだろうと思い、別におはようと言ってもらいたいわけでもないただ自分が伝えたいだけ、それだけだ。

小さく欠伸をしながらベッドを出れば相も変わらずザアザアとした水音が響きカーテンが開きっぱなしのそこから伺い見ることができる。

そうか「雨…」ポツリとしたリレの呟きは しかとジンとウォッカの耳に入ったようだがそれがリレの独り言だと認識したらしい二人は再び会話を始めており、リレも歩いて洗面台まで行き顔を洗い歯を磨く。ついでに寝間着を脱ぎ着替えて思ったのは今日で一週間というもの。

ジェイコブとの取引は終了してジェイコブはすでに日本からに本国へと帰っている、それからの一週間だ。
ジンもウォッカも色々と動き回り、それにリレも従って歩いていればやはりリレという存在は珍しいのだろう、遠慮も混ざるが不躾な視線さえも慣れたもの。しかしジンの側からほんの少しも離れないため、どれが誰がしかが声をかけてくることもない。

タオルで髪の水気を拭いつつジンとウォッカのいる部屋に戻るとジンの横に腰を落とした。ジンはそんなリレの頭をぐしゃりと撫でながらもウォッカとの会話を終わらせない。
聞いていてもいなくてもリレには全くもっていいほど考える必要の無い気もするし、気になることもなく、そしてジンもウォッカも構わず話している。そしてジンの手はリレの頭から離れタバコを口に咥え火を点け煙を思い切り吐き出したジンだが、リレはそんな二人から視線を窓に向け雨が降っている空をみつめて息を吐く。

今日はジンどうするのかな。このところ、それ程忙しいわけではなかったが知らない場所、知らない人間と会いまくっていたため気疲れというものを感じているリレ。ジンもウォッカもそうしてぼんやり外を見つめているリレをチラリと見ると一言

「今日はラボに行く」

と、どこのラボだろうか。

「シェリーに話がある」


なるほど。

「その後は特に何か用事があるわけでもねぇ、ホテルでくつろいでいろ」


と口にしたジンにリレは小さく頷いた。

「ラボには何時に?」
「昼少し前だ」

今の時刻は8時を少し回ったところで昼少し前だというのが11時前後だろう。その前にお腹空いたと伝えれば、ジンは少し悩みと時計を見上げると立ち上がり
「ホテルでバイキングをしている、行くぞ」
「 ほんと?二人とも何か話でもあるんでしょう?」

二人の会話が終わるまで待っているよと言うが一人で行くという選択肢は微塵もない。そう問いかければ、飯食った後でも問題ない、と立ち上がりジンとウォッカ とともにホテルの部屋を後にした。

ここのホテルのバイキング料理、どれも美味しいんだよなとテンションを上げながらジンとウォッカの後ろは歩きつつエレベーターに乗り込む。
さすがにこんな場所で何事かの話はしないがそれでも会話がないわけでもない。
ジンから話をするわけでもないがそれでも会話が始まり、終わり、エレベーターはあっという間にロビーへ降りていく。
ジンとウォッカの後ろで呑気にもお腹がグゥと鳴り、ウォッカは小さく笑っており、リレは恥ずかしいのと何だよと文句を言いたい表情でウォッカを睨み上げるがウォッカはどこ吹く風でありジンにまでも小さく笑われた。
それにもムスッとした表情を浮かべてもやはりジンもやはり気にすることもなくロビーから右手にあるバイキング場へと歩いていく。

そこはまぁ時間が時間でありなかなかに混み合っている。
ジンとウォッカ、いやウォッカはリレと肩を並べ皿に食事を盛っていくがジンは食べようという気はないらしくバイキングコーナーから離れた隅にあるテーブルに腰を落ち着けている。
リレは一旦戻ってもう一度バイキングコーナーに行き今度はジンが食べて来るそうなものも軽く持っていく。といってもそれもジンが食べてくれる保証が少しもない。
ジンって本当にご飯を食べているイメージはない。せいぜいカクテルを飲みながらお高そうなナッツをつまんでいるイメージで、でもやはりジンだって生きているんだ、人前ではあまり食べないがルームサービスやこうしてバイキングに連れて行けば一応食べてくれる。だからリレはジンの分まで用意する。

リレが来るまでジンもウォッカも待っており

「はい、ジンの」

そう差し出せばジンは大きく息を吐き3人して朝食へと口ををつけた。

「いただきます」

そう言ったのはリレだけだがそこまでは強要しない。
オムレツをもぐもぐしていればジンの指が視界に入り顔を向ければリレの口端を拭うように動き


「ガキじゃあるまいし」


そう低く笑い、指先をペロリと舐め思わずドキリとしてしまったのは、一体……。









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