この世界で迷子の僕を(全80話)



もう夜中に近い頃、パーティーは騒がしさと共に終了し、ジンはジェイコブ・ロウの部屋を訪れた。しかしウォッカは呼ばれていないために連れては行かなかったがウォッカは心配気にジンとリレを見つめたが

「どうせくだらないおしゃべりをするだけだ、ウォッカ、お前は部屋に戻ってろ」


と。ウォッカは小さく悩みながらも

「分かりやした」

と頷き、リレ行くぞ、とジンに誘われる。


「ウォッカ、また明日」


そうリレは手を振りジンの後を追いかけジェイコブの滞在している部屋を訪れる。
ジンはチラリとリレを見下ろし、数度ジェイコブ・ロウの部屋のドアをノックし


『ロウ、ジンだ』

そうリレは声をかけ本の数秒の後、ドアがそっと開かれる。


『やあジン、やはりリレを連れてきたな』


そう含み笑いリレを下から上へと舐めるように見るもリレよりジンの方が不快気に眉間にシワを寄せ、リレを己の背中に隠すように動く。が、 けれどリレが通訳をするしかないのだろうことは当然のようにわかっている。それでも、だ。この男の視界にリレを入れさせるのはものすごく嫌だが介するしかない。


『中に入ってくれ』


そうジェイコブは口を開き誘うように身をずらし、リレはジンのコートをギュッと掴むとその意味をジンは理解してくれたらしい。ジェイコブはそんなリレを見ると小さく

『君がジンの側を離れることはあるのかな?』

そう楽しげに。そんな言葉をジンに伝える必要はないだろうが言いたくなるのも仕方ないと言って欲しいけれど、リレは黙ったままジェイコブを見やり、ジンはリレを見下ろした。

「何を言われた?」
「……僕がジンの側を離れることはあるのかって」


それを聞いたジンは眉間にシワを寄せ

『関係ねぇお喋りだったら俺はもう戻るぞ』


「てめえの顔を見るのは好きじゃねぇ」その一言は訳さず黙っていればジェイコブはリレを見つめニヤリと微笑んだ。 それは一体どういう意味なのだろうか、ただとにかく二人の気分が不快になるだけでありジェイコブはジンの目の前に立つと

『君と二人きりになりたいんだが、』
『俺と?』
『ああ、リレ、君は待っていてくれ、部屋の外でな』


その言葉の意味が理解できなかったがジンの眉間のシワが濃くなっているということはきっと嫌なことに違いない。けれどリレが従うのはジェイコブではなくジンである。
黙ったままジンを見上げジェイコブは少し不快そうに眉を寄せ


『どうしたんだいリレ、早く出ていってくれ』
『……気安く僕の名前を呼ばないで下さい』


思わずポツリと出てしまいハッとしてしまったがもう遅い。

『そんなことを言うのか?君の言動がジンに迷惑をかけているのかもしれないぞ?』
『……』


リレは黙りジンのコートを言うと握りしめジンの指示を仰ぐためにジンを見上げた。

『さあ、リレ、出ていけ』
「ジン……」
『…ジェイコブ、英語は話せるな?』


ジンはそう小さく口にし、ジェイコブはジンを見ると目を細め「多少ならな」と。

ジンはそうして少し悩むとリレを見下ろし「部屋の外で待てるな」と問いかけてくる。つまりそういうことだろう。リレは唇を少し噛むともう一度ジンを見つめ小さくこくりと頷いた。
ジンはリレにジッポを渡し、リレはそれを両手で包むように握りしめジェイコブとジンの二人がいる部屋のドアを閉めながらも本の一瞬だけジンの背中を見つめ静かに部屋を後にしズルズルとその場に座り込む 。英語話せるなら僕の通訳って必要あったのかな。そんなことを考えながら体育座りで廊下に座り聞こえるはずもない会話を聞こうとしても 当然だか聞こえるわけがない。

一体二人は、いや、ジェイコブはジンに何を言うのだろうかとドキドキとしていてもジンが出てくることもなく、膝に頭を預けた。そうして黙って待っていると不意に部屋の中で何かが落ちるようなドン、という低い音が聞こえ、リレは立ち上がり扉から離れ後ずさる。

そして1秒2秒3秒…経過して行く時間に、それ以上に部屋からは何の物音もせず体を硬くさせそして5分が経ち、リレはグラリとし目眩を感じその場にしゃがみ込む。
これはまずい。気持ち悪い。グッとしたものが腹部を刺激し口の中に唾液ぐ込み上がってきている。腹部を押さえ、リレは全身を縮こませて耐えていく。

ジン…早く…ジン、ジン……


「ぅぐっ……」


吐きそうになり滲んでいく涙が目の端に溜まりジッポを強く強く握りしめた。

「ジン…」

と丸まる背中、溢れる涙、込み上がってくる胃液。そういえば今日は何も食べてないから出てくるものなんてそう本当に胃液だけだ。

もうそろそろ限界だ。ならばと立ち上がり部屋から離れようと足に力を入れればガチャリと扉が開きそれはもう随分と機嫌の悪そうなジンが姿を現してリレは反射的にジンに抱きついてしまった。


「ジン!」


と口にしたリレの身体をジンは勢いよくはがし

「触るんじゃねぇ」

と低く低く呟かれたその表情は今まで一度も見たことの無い凶悪なものであり、ジンの顔はうっすらと赤く銀の前髪と帽子から覗いた瞳はどこか熱く強く切羽詰まったようなもの。
訳も分からずそしてジンに勢いよく剥がされたそれに驚いていればジンは小さく舌打ちをし

「戻るぞ」

と歩き出す。閉まりかかる扉からジェイコブの顔が目に入るがジェイコブはどこか厭らしく笑っておりドアが閉まる一瞬だけちらりと見つめたが最優先事項はジンであるとリレは大股で歩いて行くジンに小走りでついていく。

エレベーターで一回下の部屋に戻り部屋の扉を開けたジンに続き部屋に入ればジンは荒々しく帽子とコートをソファーに投げ掛けるとバスルームに消えていってしまった。ジンは一体ジェイコブに何を言われたのだろうか訳も分からず混乱していてもジンは教えてくれないと思う。

バスルームに消えたジンに、僕に何かできることはないだろうか、そう考えつつもリレもコートを脱ぎソファーに投げ掛かけ小さくバスルームへの扉をノックして返事を待つがジンが返事をくれることは無く、リレは扉の前に座り込み膝を抱え俯いてしまう。

扉の向こうでシャワーと流れる水の音が聞こえてきてそれを耳にしながらリレは大きく息を吐き出した。そうしいれば音が止み、パタンと音がする。それに伴い立ち上がれば先ほどよりは目つきがおとなしく、というよりは普段の調子に戻ったジンがタオルで頭を乱暴に拭いながらリレを見つめ、その瞳は不意に熱いものが伺い見え、すぐに顔を反らし

「お前もさっさとシャワーを浴びて寝ろ」

と口にする。何だかジンのことが気になるがシャワーを浴びろと言ったのだから従うのは当然だろう。それでも一瞬だけを見つめるのは仕方無い。しかしジンは窓を開けベランダへと去って行ってしまいその背中は伺い見れない。

すぐ、出よう。

そう決意してリレはバスルームに入り服を脱ぎ、たった今ジンが入っていたので暖かいと思いきや、シャワーは冷水状態である。ジン、暑かったのかな。それでも今の季節は冷水を浴びるにしてはまだ早い。本当に一体どうしたんだろうかとも考えつつシャワーを浴びバスルームを後にした。

髪をぐしゃぐしゃとタオルで拭いながらジンがいるであろうベランダに視線を向ければジンは夜風に吹かれながらタバコを吸っていてリレはジンの背後に近寄るとジンの背中をつんとつつき、ジンは振り返るとリレの頭をぐしゃりと撫で


「寝るぞ」


そう口にし、リレも笑って頷いた。









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