この世界で迷子の僕を(全80話)



誰かが主催のパーティーにジェイコブ・ロウとジンとウォッカが動き、そしてリレも一応の通訳として連れられた。
本来ならジェイコブ・ロウ用に通訳を用意しようとしたのだがそんなことよりもジンに絶対の信頼を寄せている「リレに」しようとジンが呟き反対の声を上げる人もおらずウォッカもリレも頷いた。
けれどリレはジンと離れてしまうと嘔吐してしまうのでジェイコブ・ロウとジン、リレは一緒に動き、少し離れたところでウォッカは警戒に当たっている。そしてジェイコブ・ロウは嫌にリレのことを気に入っている節がありジンの機嫌がそれはもう急降下していてウォッカや周囲の人間は気が気ではない。


『やあジェイコブ、随分可愛らしい子を連れているじゃないか』
『君は確かジャック、どうだい?仕事の方は』
『中々にいいよ』


そしてジェイコブ・ロウとジャックという男は話し始めリレは二人が話してる内容をジンに訳していく。大した内容でもないような気もするがそれでも不意にに怪しげな単語が出てきているため本の少しも気が抜けないでいる。


『それじゃあジェイコブ、後で』


ジャックはそう含みを込めて笑いかけチラリとリレを見つめるとうっそりと笑い


『君もまたよかったら話そうじゃないか、キティちゃん?』


ジャックはリレの手をとりチュッと口づけを落とす。 思わず勢いで手を引っ込めてしまえばジャックは『つれない子猫ちゃんだ』と笑って去っていく。そんな二人のやり取りを見たジェイコブ・ロウは笑いジンは不快気な表情を浮かべて

『君、ジャックには気をつけた方がいいよ、不用意に一人ならない方がいい。でも君にはしっかりとした護衛がいるから大丈夫か!』


そうして笑い声を上げグラスに口をつけている。

「リレ、こいつは今何を言った」


そんなジンの低い呟きにありのままを伝え近くに置いてあったおしぼりジャックに口付けられた手の甲を拭っておく。

「…クソが……」

そんな酷く冷たい囁きがジンの口からこぼれ、近くに置いてあるグラスを手に取り喉に流し込み舌打ち一つ。

「絶対に俺から離れるなあいつに呼ばれても俺に従え、いいな?」
「わかった」

そう深く強く頷いてジンの手をぎゅっと握りしめた。


「僕はジンの手伝えることは何でもするから」何でも言ってほしいと伝えようとし、けれど少し黙り込み「もし僕が いらなくなったら、すぐ」、その言葉を続かせはしなかったがジンになら伝わっただろう。

ジンは眉間にしわを寄せ頭をぐしゃりと撫できて

「そんな事いちいち言うんじゃねぇ」

二度と言うな、そう低く呟き

『リレ!来てくれないか』

そうジェイコブ・ロウの言葉がリレの耳に入り、リレはジンを見上げ「呼ばれたよ行こう」と。

なんだか少しだけジンの機嫌が変わったようなそうでないようなそれでもリレはジンの手を引くように歩きジェイコム・ロウとまた別の国の人間との通訳に駆られたのだが、僕が様々な言語を変えする人間だと周囲の人間に知られたら……そこまで考えるが「まぁ」いいだろうとジェイコブ・ロウとの間に入ると同時通訳を行う。

ジンにもウォッカにも会場入りする前に、もし身の危険を感じたらジンのアニキの横にいろと言われている。それと今ジンが言った「俺の側を離れるな、俺に従え」にも、しかと頷いてもありジェイコブ・ロウも、その通訳を担うリレにも会場の至る所からチラリチラリと視線を送られる。
しかしその視線もジンの冷たく刺すようなそれにそそくさと目をそらしていて。そんな ジェイコブ・ロウにかリレにか誘われて、様々な人間が近寄って来てリレは目が回るのを感じてしまう。


『ジェイコブ、その子は誰だい?』
『あら、可愛らしい子ね』
『名前を教えてはくれないかな』


そんな言葉が耳に入り脳に到達する時にはまた別の人間の言葉が耳に入りそしてまた入る。

その繰り返しに目眩を感じていれば窓際からキラリと何か光を反射し、前にホテル最上階でのバーで耳にした話し、そしてジンにも伝えたジェイコブ・ロウを始末するとのことを思い出してリレは慌ててジンに伝えるべく顔を上げ、そして会場の電気が暗くなり、リレはジェイコブ・ロウを振り返った。

このままではジェイコブ・ロウは殺されてしまいそしてジンとウォッカがいる組織に不利益になってしまう。なれば、とリレは一瞬だけジンを見てジェイコブ・ロウの手を引き床に倒した。そして一瞬の間が空き、パン、という乾いた音が響き、そしてテーブルの上のグラスがはじけて割れた。突然のリレの行動と乾いた音、グラスが割れた。
その一瞬で一体何が起こったのかを理解した周囲の人間は悲鳴を上げリレはバクバクなる心臓に手を当てつつ大きく深呼吸をした。


『リレ、もしや今』
「リレ!!」


ジェイコブの言葉の途中でジンの強い声がリレの耳に響き渡り、点いた照明そしてリレの腕は強く掴まれリレは立ち上がされそして思いきり抱きしめられそうになり、しかしジンは深く眉間にしわを寄せたままチラリと視線を窓辺に移しそれはもう小さな声で

「キャンティ、見えるか」

と。
キャンティって、キャンティだよね。この世界の人間で知っている人間はたくさんいるけれどその主要人物に出会えたのはジンとウォッカとシェリーのみ。今更だけど僕は組織のどの立場にいるんだろう、そんなことを考えていれば再び悲鳴が響き渡りそしてジェイコブ・ロウが窓際に視線を向ければ白いシャツに赤い花を咲かせ倒れている人間がいて、ジンのインカムから
「やっりぃ!」
なんて高い声が聞こえてきた、ということは、そういうことだろう。

「引き上げろ」

ジンはそう呟き、僕はジェイコブを立たせ

『助かったよ、ありがとう』

そう思い切り抱き寄せられそうになり、リレは慌ててジンの腕を掴むとジンの背後に身を寄せる。


『つまらない子猫ちゃんだ』


そんなジェイコブ・ロウの言葉に不快な気持ちしか浮かばないリレにジェイコブ・ロウは、やれやれなんて表情を浮かべるがリレはジェイコブ・ロウをチラリと見るとジンを見上げ
「まだ、いるの?」

と呟きかける。ジンはそんなリレを見下ろすとインカムに向かってね何事かの指示を出しておりそして「ジェイコブに伝えろ。約束のブツは例の場所に例の時間で

『あとは俺達が引き継ぐ。大人しく国に帰れ』

と、そこまで訳し伝えればジェイコブ・ロウは少し悩む素振りを見せると赤い舌をチラリと覗かせ笑った。


『ジン、後で私の部屋まで来てくれ。その子を連れてくるのも来ないのは君の自由だ、何、すぐ済む用事だからね』と。


その言葉を耳にしたジンは舌打ち一つ

「来い、リレ」

と背を向け会場の入り口に立っていたウォッカとともにその場を後にした。
ジャックの言葉、ジェイコブ・ロウのリレの扱い方、そしてジェイコブを助けるために動いたリレ、最後のジンに対するジェイコブ・ロウの言葉、その全てにであろうジンは、それはもう最悪な心持ちなのであろうし苦々しげな表情でタバコを口に咥え、リレもウォッカも何も言えずついていくがここは長年付き添っていたのであろうウォッカは、ジンに小声で語りかけジンは何度か小さく頷くとそれはもう深く深く息を吸い込み吐き出しタバコを吸いきるととホテルに戻ってきた。


「リレ、どうする」


その「どうする」は、きっとジェイコブ・ロウの最後の言葉であろう、そんなの、行くに決まっている。そう頷けばジンは小さく息を吐き、ホテルのジンとリレの部屋のソファーに深く腰を下ろした。

ジンって、苦労人なんだ。










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