欲のままに動くだけ(全13話)



ジンが、あのジンが、気を使ってくれて旅行に連れて行ってくれて、そして帰宅してからアンシャンテはジンに買ってもらったお土産をずっと眺めている。

また行きたいと言われたら面倒だなと思いつつも「もし」言われたら連れて行ってもいいだろうな、とも思ってしまう。
しかしアンシャンテはただイルカのお土産を見るだけで満足しているらしく何も言っては来ないけれどもまた出かけて家を数日空けることになると、その旨をアンシャンテに伝えればアンシャンテは頷いて着替えてくれる。
そのまま地下駐車場でウォッカと合流して外へと出ればアンシャンテは何も言わず、いつも通りジン以外とは口もきかないし目を合わせもしない。

ある程度走らせたところで車を歩道脇に止めるとジンとウォッカは車を降りアンシャンテもなんとなく車を降りる。

それでもジンの後を追いもせず黒のポルシェに寄りかかった。それをコナンが見かけてしまい、いつしかのお店にてのアンシャンテをすぐさま思い出し灰原に

「フードをかぶってここをされ」

と言いおいて、駆けて行った。


「お姉さん、こんにちは」


そう見上げると女はコナンを見下ろすこともなく視線も意識も向けず、けれどコナンは女のスカートを引いて意識を向かせ女は眉をひそめた。

ジンと過ごしてからアンシャンテの表情はいくらも増えていて、多少、こうして意識を向けてくれるようになったことにジン以外は気づいていないし、そもそもウォッカ以外はアンシャンテを知らないでいる。

コナンは己を見下ろしてくる女にニコリと笑うと「前に」洋服屋さんで会ったよね、と笑ってみても女は何も言わず 、攻め方を真正面からにしてみようと声を小さくし囁きのように、けれど女に聞こえるように尋ねかけたのは


「ジンって男の人、知ってる?」


女は無言で首を横に振り無言で否定してみせた。事実アンシャンテはジンの名前を今になっても知らないのだ。
知っているのは「ウォッカ」と「アニキ」の2つだけ。


「じゃあ、ウォッカって、知ってる?」


女は否定もせず頷いてからさっさと視線をそらして欠伸をしておりコナンは目を細めてしまう。
そこにかぶせるように「その2人って」悪い人なんだよ?と問いかければ女はほんの少し口角を上げるとコナンを見下し


「知ってるよ」


だから何?と。
そもそも私を買い入れた人間がいい人間のはずもなく、何かの取引で銃弾を腹に受けたし殺したし。

そんなことを思い出しつつまた少年を見下ろすとアンシャンテは笑い


「何を知りたいか知らないけど、私にはあの人だけが全てだよ」


だからもうバイバイ。
そう手を振られ歯ぎしりをする少年はふとした気配に身を引いて女を睨むように見上げてから行ってしまい、女は顔を上げる。

ジンと合流したアンシャンテ はしかし今の少年のことをジンに伝えることもなく、そういえば私この「アニキ」の名前を聞いたことないなと考えてしまう。


「どうした?」
「私、あなたの名前知らない」


「えっ」と呟いたのはウォッカであり、ジンはアンシャンテの言葉にそう言えばと小さく笑ってしまった。


「ジンだ」


と伝えてから2人と共に車に乗り込んで、アンシャンテは一度口の中で「ジン」とつぶやき少年の言葉を思い出す。

この人がジン?まあいいか。
あの少年が探している人がこの目の前の銀髪の男かはわからないが私にはこの男が全てなので特に聞きたいとも思わず、そうして アンシャンテはご機嫌に窓の外を眺めてみた。








Answerーー、?
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