欲のままに動くだけ(全13話)



「このお店よ蘭!可愛い服、いっぱいあるんだから!」


と園子は蘭の腕を引き店に入り、ついでに連れてこられたコナンはため息を吐いてしまうもそれは園子には届いていない。

明るい店内に明るい店員は三人を迎え、そしてコナンは店内にある椅子とテーブルについて座っている全身黒ずくめの美しい女を見た。

全体的にほっそりとし、机に出されたコップにも触れず俯いて座っているその女は腰をも越す長い黒髪を流しジッとしている。
もう少し何らかの表情を浮かべたり店内を見て回ったりするのが普通ではないだろうか。 それに全身黒ずくめの女に、ふっ、とジンやウォッカのことを思い出してしまう。だが全身を黒で固めた人間なんて星の数ほどいるだろうと 頭を振る。この女もその一人だろう。

そうしてコナンは黒ずくめの女から視線を逸らし蘭と園子に付き合おうと意識を固めそちらに向かう。いや……向かいたくない。
そりゃあ蘭が可愛い服を着るのを見るのは楽しいが女の特に園子の買い物は長い。

早々に諦めて椅子に座ってうつむいてる女の側まで歩み寄り女がいる机を挟んで椅子に座り、ニッコリと笑うと


「お姉さん!」


と声をかけた。
しかし女からの反応は、なかった。
それに疑問を抱いたコナンは思考を回らせ椅子から降りると女の近くまで行き顔を覗きこむともう一度


「こんにちは!」


と声をかけるも女はコナンから視線を反らし顔を背けた。
手足はしっかりと閉じられ姿勢よく座っているのがなんだか歪であり、キラリとメガネを光らせて


「ねえ、」と。
「お姉さん、一人?誰か待ってるの?」


安いナンパのような言葉になってしまったが女は少しも気にする様子もなく、ただとにかく黙ってコナンやそれ以外の人からの視線にも気を向けないでいる。

そんな頑なな女にコナンは眉を寄せ女の手を軽く引いて「ねえ、」と声をひそめようとした瞬間、女はパッとコナンの手を振り払い、軽く睨みつけてきたがすぐに顔を反らし触るなというオーラを醸し出してきた。


「こら!ガキンチョ!何してんの!!」
「コナン君、知り合い?」
「あー…えっと……」


とやり取りが始まり、しどろもどろになりながらも女を見ても女はずっと視点を壁に向けたまま 一言も外さずにジッとしている。


「すみません…この子、すぐ話しかけちゃって…」


そう頭を下げた蘭だがしかし 女はその言葉にも顔を向けず 蘭も園子もコナンでさえも困ってしまう。
女は困った様子を見せもしない。

そうして3人で顔を見合わせると店員がそっ近付いてきて 3人に声をかけてきたのは


「こちらの方は人をお持ちでいらっしゃいますので」


そう場を納めてきて蘭と園子は謝りながらコナンを引きずって女から距離を取らせた。
蘭にもう一度怒られてからコナンは「ごめんなさい」とつぶやき女を横目で見る。

女は少しもこちらを見ないし聞いてもいないようだ。

もう女に近寄ることができなくなったコナンはしばらく蘭たちの買い物に付き合い1時間ほどして店を去ろうとして出入り口を出た、ら、入れ替わるように、黒ずくめの、男が、ジンが、店内に入っていき、あの女の元へと近寄って いき声をかけている。
女は袋を持って立ち上がった。
やはり黒ずくめの女は怪しい所かジンの仲間だったのか。

激しく高鳴り苦しくなる心臓を押さえつけ、女の顔を頭に刻み込んだ。
次あったら、また、と。









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