欲のままに動くだけ(全13話)



「アンシャンテ」
「?」
「出かけるぞ」


それは初めてのジンからの外出のお誘い。それに対してアンシャンテは驚いた様子も拒む様子も見せずただ淡々と無言で頷いた。

朝からジンとの行為に動き、ジンがシャワーを浴びている間にアンシャンテはティッシュで互いの雫を拭うとジンが脱ぎ捨てたシャツ1枚を羽織って待っていたのだがそのジンの言葉にアンシャンテは立ち上がりジンに次いでシャワーを浴びた。

アンシャンテの服は一着しかない。そのことにようやく気づいてのジンの誘いであったのだが外出させるつもりもなかったしアンシャンテはほぼ毎日、裸、もしくはさっきのようにジンの脱ぎ捨てた服をまとっていたのだが、ふとそのことに最近気づいたことでの誘い。

長期で出かけるようなことは今日までなかったが、しばらく後に少々出かけることになる。それにアンシャンテを連れて行く事を考えてはいなかったが、ずっと出かけている間にアンシャンテをどうするかには悩んでしまっていた。
が、まあ近くに置いておけばいいだろうと服を購入することを思い立ったのだが。

アンシャンテは風呂から上がるとタオルで体を拭っておりそれを見てジンはドライヤーでアンシャンテの髪を乾かした。
それに対してアンシャンテは黙って立ち尽くし大人しく待っており、柔らかで細い毛が指の間をサラリと抜けていき ジンは目を細めてしまう。
アンシャンテの身体中にはジンの欲の証がいくつも散りばめられておりイヤに毒々しくてジンは笑ってしまった。

首を傾げるアンシャンテだが尻までをも覆い隠した髪は乾ききりサラサラと揺れている。


「着替えろ」


という言葉にアンシャンテは小さく頷き、初めて、そして 1着しかない己の服に身体を通しジンは背中のファスナー を上げアンシャンテを伴って自宅を後にした。

下の駐車場ではウォッカが待っているため2人してエレベーターに乗り込むとジンはアンシャンテの覆われた首元を撫でてから呟いた。


「出かけた先で俺がいいと言うまで誰とも話すな、話を聞くな、目を合わせるな。」

わかったか、と問えばアンシャンテはコクリと頷いた。

マンションの地下駐車場まで向かった二人は、というかジンは車の脇で立つウォッカに声をかけウォッカはジンに頭を下げジンの横にいるアンシャンテに首をかしげて見せた。

サングラス越しにアンシャンテを見たがしかしアンシャンテは視線をジンに向けたまま ウォッカを見ることも尋ねることもしない。なのでウォッカから問いかけることにした。
少々 恐ろしいのだが、と


「アニキ、その、女は…?」


ジンはチラリとアンシャンテを見下ろすとアンシャンテはジンのことを見上げておりウォッカを見ようともしない。
そのことに笑ってしまいそうになりアンシャンテの背を軽く押しウォッカに近寄せた。
そうすればアンシャンテは疑問のある視線をジンに向けジンは頷いた。


「アンシャンテ」


とアンシャンテはウォッカを見てつぶやき、それ以上もそれ以外の話はせずジンは満足気に口端を吊り上げてしまう。


「 こいつの服をいくつか見繕ってから仕事だ」
「は、はあ……あ、いや、分かりやした」


ジンは扉を開けアンシャンテ は後部座席に腰を下ろし足と手を揃えると俯いて座り、ジンは運転席に乗りウォッカが助手席に乗ったところで車は動き出した。

ウォッカはジンとしばらく話をしたがジンの機嫌は随分と良いし、ふとこの間ベルモットと話していた
「買った」
という話を思い出した。
役立たずを買ったと言っていたが、このアンシャンテという女がジンアニキの役に立っている役立たず。

全く持って意味が分からない。

ウォッカは考えるのは諦めて 仕事の話を始めることにした。









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