欲のままに動くだけ(全13話)


「ジン、最近 ご機嫌ね。いいことでもあったの?」


夜バーで飲んでいたジンとウォッカの元にベルモットがやってきて、仕事の打ち合わせを兼ねて話していれば不意にこの魔女はつぶやき、ジンはグラスを置いた。

アンシャンテを抱くようになってから体の調子が果てしなく良いし感情のバランスも取れている。
なので 気分の良かったジンは小さく笑うと


「いいものを買った」


と答えウォッカもベルモットも「買い物一つでここまで機嫌が良くなるとは一体何を買ったのだ」と考えてしまう。
しかしジンにそれを問いかける勇気はウォッカにはないが ここは酒の力もベルモットがいる、とウォッカは考えつい 問いかけてしまった。


「何を買ったんですかい?」
「私も気になるわ」


そう 二人して尋ねてきたのでジンは酒を喉に流し込み機嫌も気分も害することもなくつぶやいた。


「“clock”だ」と。
「clock?」


役立たずを買った?どういう意味だろうか。
役立たずだが、アニキはその役立たずに随分とご機嫌だし ベルモットでさえも 不思議そうにしている。


「そのclockって」
「ベルモット、黙れ」
「あら?まだ何も言ってないわよ」


頼むからベルモット、アニキの機嫌を悪くさせないでくれと言うに言えずにいるウォッカはグラスを傾け、ジンはショットでおかわりをもらっているが時計を見ると少し考えてから一息で飲み干して立ち上がる。


「ウォッカ、明日はさっき話した通りだ」


ベルモット、くだらねえ詮索はするな、と言い終えるとジンはバーを出て行ってしまいウォッカとベルモットは顔を見合わせてしまう。


「……ベルモット、アニキは一体……?」
「私も知りたいわ、あんなに上機嫌で……ふふ、分かった」
「え?」


と声を漏らしたウォッカは一体何がわかったのかと問いかけようとするもベルモットは小さく笑ってから行ってしまい、1人分からぬウォッカは仕方なく黙って飲むことにした。

ジンは家に帰るとアンシャンテがソファーに座って待っており、ジンを見るとほんの少し笑って見せた。

アンシャンテは「いってらっしゃい」も「お帰りなさい」も言わないが笑って送り出し 笑って迎えてくれる。別にそれはどうでもいい。
アンシャンテは今朝方ジンに抱かれた姿のままでソファに座っておりテレビを見ているわけでも本を読んでいるわけでもない。

今日までずっと一体何をして一人の時間を過ごしているのか疑問に思うがまあいいだろう。

ジンはアンシャンテ所まで行くとジンを見上げているその頬をくすぐるように撫で、アンシャンテンは目を細め嬉しそうに笑った。まるで甘える猫のように。


「俺がいない間に何かあったか」


アンシャンテは無言で首を降りジンに手を伸ばしジンはその唇を重ね合わせた。

そうキスを許してくれたのだ。

アンシャンテを迎えてからしばらく経つがあの店主が言っていたようにジンを殺そうともせず、ジンがいない間も逃げるようなこともなくジンを待っていてくれているし、キスを許しはしないがいくらでもジンの好きにさせていたが ここ数日に、とうとうキスを許してくれたのだ。

これが可愛くないはずがない。

ジンはアンシャンテをソファーに押し倒してその柔肌に触れるとアンシャンテは吐息を漏らしそのままジンのことを受け入れた。

静かに、そして躊躇いがちな 甘い嬌声はすぐジンの欲を煽り、そうしてそのまま二人はベッドに行かずソファーで横になりジンが満足するまで アンシャンテはジンの欲望を受け止め続けた。
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