欲のままに動くだけ(全13話)




女を抱きたい、と思った。
別に己が男色ではない上での思いであり後腐れなく、かついい女。
日によって何度でも抱いても文句のない女。
そんな女が抱きたかった。

ベルモットが“マティーニ”を作らないかと声をかけてくることがあるのだが正直な話、あの女とは相性は良くない。

1人バーを訪れ口の固い老いたバーテンはそんなに俺のつぶやきに耳は傾け、ジンのお代わりを注ぎながら一枚の名刺をそっと隠すように差し出してきて俺はそれに目を走らせる。
日本の都会の中にある、とある町の裏に入ったところの店。
男も女もガキから大人まで揃えてある人身売買の店。

組織の被験体はわざわざ買いもをしないけれど、俺はジンを一息に煽って飲んでから立ち上がり、名刺を懐に入れ   


「チェック」


と代金を置いてバーを出た。

翌朝 車を出して例の住所まで行くと車を隠すように止め、裏通りに入るとすぐ廃れた香りが鼻につき、空を見ても布がはためき影を作っている。

チラチラと見ながら歩いていればいろんな店から店主が顔を出し手を揉み笑っていて、1つの店の前に立った。
昨晩もらった名刺の店。

立ち寄った店はこんな通りなのにやけに綺麗に整っており 一見様はお断りのそこから1人の男が顔を見せ俺は名刺を渡して店内に通された。


「お兄さん朝から早いねぇ、どんな子が好みでしょうか?0から30まで揃ってますよ」


そして店主がニコニコと笑い店の地下へと続く階段まで誘導してきて降りた階には白い廊下。等間隔に扉がありその一つ一つに覗き窓がある。

店主は俺「どんな子が、」と問いかけてきたので俺は

「見た目はどうでもいいが、20代、無口で背の高い女」


といえば覗き窓を見てからどこから一つの冊子を取り出し 開いて見せてくる。今提案した女に当てはまるそれ。

媚びたように笑っている写真のうちの1枚がハラリと落ち俺はそれを拾った。そしてかすか目を見開いてしまう。


「この女を」
「あー……お兄さん。こいつはやめたほうがいい」
「当てはまるのになぜ断る」


小さな顔に小ぶりの鼻、アーモンド型の大きな黒い瞳に朱で引いたような赤い唇に鎖骨を通り越してどこまで長いのかわからないが恐らくロングヘア。


「こいつはどこの部屋にいる」


店主はほんの少し口ごもってから「前もって言っておきますが、」とつぶやいて歩き出すのでそれについて行く。


「この子はこの店で一番の美人だかclock…いや、手に余るものがあって過去5回、売り戻されているんだ。だから買い取りはせず、例えしても保証はしかないから、これくらい出してもらいたい」


そして店主は指を2本立ててきて俺はまた尋ねる。


「なぜ5回も売り物された?」
「ーー……買い取った男を全員殺してこようとしたんだ」

今は手錠でベッドにくくり付け猿轡で噛みつかないようにしてあるし、店から出さないようにしている。
今も昨晩からの客が遊んでるが…


「見せろ」


と俺は鍵の多い扉の前まで来ると覗き込めば、薄明るい中で女は男に貫かれているが一切の表情もなく、されるがままで、見えるはずもないのに女と目があった気がして俺は店主にアタッシュケースを押し付けて


「億だ、こいつにする」


そう呟いた。
女は呻き声 一つあげもしない。









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