この世界で迷子の僕を(全80話)


ジェイコブ・ロウの言葉は僕にとっては衝撃な事ばかりであり、ジンの要望通りジンの言葉を強い口調と言い回しで伝えていけば最初こそリレのことを軽く見ていたらしい視線であったが次第に表情を険しくさせ眉間にしわを寄せている。


『それでそのパーティーで私は君たちの護衛を受けるということなのかな?』
『大きく纏めればそういうことだが、ジェイコブ、お前が向こうの手に落ちそうになれば分かるな?』


ジンの言葉にジェイコブ・ロウは黙り込み探るようにジンとリレを見つめそれはもう大きく息を吐き出した。

『全く君たちのやり方は酷いんだな』
『今更だ。それ以上戯れ言を抜かすようなら俺にもやり方がある』
『ふん、分かったよ』


ジェイコブ・ロウは椅子に腰を下ろしてパソコンを操作して何かの画面を表示させた。


『これが今月の私のスケジュールだ、好きに見ろ。ああ、そうだジン、お前が今言った内容が確かならしっかり守ってもらうからな?互いに利益にならないことは好きじゃないだろう』


そこでジェイコブ・ロウは息を吐き、リレはその画面に写っているスケジュールを日本語に訳し終えるとその紙をジンに差し出した。


『ジェイコブ、しばらくは組織の人間と行動してもらう。拒否すれば即ち“死”だと思え』


そこまでジンは口にしリレをチラリと見下ろすと

「行くぞリレ」

そしてジンとリレがジェイコブ・ロウの部屋を出ようとした瞬間ジェイコブの手がリレの手を掴み

『君が私と行動をしてくれれば一番嬉しいんだかね、どうかな?』


含みいっぱいで嫌なモノを感じ、その手を振り払うようにして手を払い退け、ジンのコートをギュッと掴み不快感に眉間のシワを濃くしてしまう。

バタンと閉まった扉を背に感じジンはリレを見下ろすと「何を言われたんだ」と問いかけられリレは去り際にジェイコブ・ロウがリレに対して投げかけてきた言葉をそのまま伝えれば、ジンもそれはもう不快気に眉間のシワを濃くしている。


「リレ、何を言われても俺から離れるんじゃねえぞ」
「うん」

そう口にされる。ジンから離れるなんてそんなこと頼まれてもお断りだし、例え離れてしまってもきっと僕は吐き戻してしまうのだろうな。だから無理。
そんなことを考えながらジンのコートを少し掴んだままエレベーターに乗り込みジンは眉間のシワを濃くして何事かを考えており、その真意は分からぬもの。
リレはジンを見上げたがジンは視線を絡めることもなく煙草を口に咥えようとしたが建物内、しかもエレベーターであることは思い出したかのよう仕草を見せ、ジンの不機嫌度がさらに上がっていく。 しかしリレはそんなことは気にせずジンのコートをただただ握りしめ携帯を取り出した。

実は今の会話の内容全て携帯で録音してました。

それを伝えるべくジンを見上げエレベーターの天井の隅を見つめカメラがあるのを確認すると携帯をポケットにしまい込みエレベーターが高い音を立てするすると扉が開く。

ジンに続きエレベーターを降りると建物からも出て、停車している車は先ほどの女が運転していたそれ。ずっと待っていたのだろう女は、車に寄りかかりながらジンを見ると顔をほころばせ

「どうだった?」と問いかけてきたがどうも何もこの女はジンのやろうとしてることを理解しているはずもなく、ジンはタバコを咥えなおし火をつける。
深く吸い込み煙を吐き出すとジンはリレ下を見下ろし
「今から俺が許可するまで口を開くな、誰に何を言われても話すな、声を出すな、答えるな」
「うん」


そう頷けばジンは目を細め「いい子だ」と頭をぐしゃりと撫でられる。女はそんなジンとリレを見つめると

「ねえジン、その子そんなに大切なの?」

何処の誰かなんて誰も知らないらしいじゃない、教えて? そう媚びを含んだような甘ったるい声にリレは顔をしかめそうになるが何とか押しとどめ何でもないという表情で女を見つめる。
そう、リレは耐えたがジンはそうではないらしい。それはもう不快だという気持ちを抑えることもなく眉間にしわを寄せタバコの煙を吐き出して一言


「それ以上下らねえお喋りするなら消えてもらっても構わねえんだがな、」


どこで死にたい、とまでは続かなかったがその含みは女に届いたらしい。さすがに女は口を閉ざし運転席に乗り込むとエンジンをかけている。
ジンその場で一本吸い終えると車に乗り込んだ。

「リレ」

とリレにそう呟きかけ、リレはジンに声も出さず頷き後部座席に腰を落ち着け、ジンは行き先を女に告げ、女も無言のまま車を発進させた。
色々と動き回ってから今はもう夜明けの朝日が周囲を照らし出している。車も人影も本の僅かだが、それでも会社などに向けて歩いており心の中でそっとお疲れ様ですと呟いておいた。

走り続ける車だが一つ目の信号で停止した時、何となく窓の外に視線を向ければアレは、もしかして……白い道着にカバンを持ち歩いている毛利蘭。

まさかの人物に驚いてしまったが、漏れそうになった声を押し止め、ジンや女に気づかれぬよう息を潜め、毛利蘭であろう人物の背中を見送った。きっと部活に行くのだろう、朝も早くから大変ですねと手を合わせそうになりそれも押しとどめる。
そうしていれば信号が変わり車は動き出すと毛利蘭を追い越し遠退いていく。女は前を、ジンは煙草を、リレは窓の外を見つめ流れる景色を視界に入れ、辿り着いたのは街のど真ん中にある大きなビル。

「リレ、行くぞ」

そのジンの言葉にこくりと頷きリレはジンと共に車を降り建物の中へと足を踏み入れた。
そこには朝も早くから出勤している人々の姿があり誰もジンに視線を向けはしない。リレはジンの背中にぴったりとくっつきジンの後を追うが、さすがにリレにはチラリとした視線を向けてくるがリレは気にせず、そしてジンはそんな視線にチラリと目を向け他の人たちも慌てて目を反らしている。
本の少しの躊躇もなく歩いて行くジンだが今度は何だろうと思いただ着いて行くだけ。

レベル3と書かれた扉にキーを入れ指紋認証をしているということは、つまりそれほどまでに重要な施設ということであろう。 ジンは本当に僕がついて歩くことに躊躇を見せないのだが、そう信じすぎではないのだろうか。まあいいだろう。僕には何もできないんだから。

レベル3という扉をくぐり抜ければそこにいたのはそうウォッカとシェリー。ウォッカ分かるが何故ジェリー?そう疑問に思っていればバッチリとシェリーと目が合い、シェリーに

「あの後何か具合悪くなったりしてる?」

と問われたが先ほどジンに言われた通り、口を開かなかったけれど小さく頷き問題ないという風に微笑みかけた。

「あら、声を聞かせてくれないの?」

そのシェリーの言葉にもう一度頷き、リレはそっとジン見上げればジンも同じようにリレを見下ろしてきて口端吊りり上げると、小さく、また、いい子だ、と。


「ジン、あなたリレに何を言ったの?」
「お前の知る必要はねえ」
「あら、随分な言葉じゃない」


そんなシェリーの言葉にジンはそれ以上言葉を紡ぐ事もなく

「さっき送ったメール、ウォッカ見たな?」
「へい、見やした」
「シェリー、用意はできているな?」
「この薬でしょ?」


何に使うのかしらと言いながら一つの錠剤をジンの手の中にポロリと3錠、結果は教えてちょうだいね、リレ、またね。そう笑い、仮眠しなくちゃ、何て行ってしまいリレはジンとウォッカを見上げることしかできなくて。










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