前世がゾルディックな私の来世(全23話)
カルラは下駄箱で靴を履き変えると校舎を後にして、校門を出ていきながらジンにメールを送りどこで私を回収するのかを尋ねかけ歩いていく。
もちろんこんな朝方(と言っても9時半頃だが)にこうして一人歩く少女の姿は珍しくそしてその容姿も相まって目立ちそうになるが生憎とカルラは気配を消す術をもっているため誰にも視線を向けられることもなく、裏通りへと行くとジンのポルシェに近付いた。
「父さん」
そうカルラはポルシェの助手席をノックして声を出せば窓が開き煙草の煙を吐き出しながら「乗れ」とだけ口にし、カルラは頷いて後部座席に腰を落ち着けた。
「父さん、ウォッカ、おはよう」
二人は「ああ」と呟き車がゆるりと動き出す。
今日はなんの仕事だろうかと考えていれば「しばらく走らせる、好きにしていろ」と声をかけられたためカルラは頷いてスマホのゲームアプリを立ち上げた。
こんな時間だがプレイしている人はいて、ごくたまに一緒にモンスター討伐に行くREIちゃんやユーヤ君もいて、三人で"会話"しながら2つ向こうの山まで進んでいく。
しばらくそうしていればユーヤ君が仕事のために抜けREIちゃんも退出したため、カルラも上がることにした。その間に車は高速を走っておりなんとなく
「どこへ行くの?」
と問いかけてしまった。
ジンは煙草を吸い終わったらしくシガレットケースに押し付け消してミラー越しにカルラを見やった。
薄暗いモスグリーンの瞳と目が合うとカルラはジンのことをじっと見ておりジンは少し考えるととある県の別荘地に行くと答えておいた。
東都からそこへ。大体飛ばしても三時間くらいかかるだろうがとスマホを見れば学校をでてから既に二時間は経過している。
明日は学校は欠席かななんてぼんやりと考えた。別にいいけど。
「カルラ」
「はい」
「仕事は夜までかかるが明日は昼までには東都へと戻る」
つまり昼には学校にいけという事だろう、カルラは小さく頷くと鞄の中からフランス語の本を開き読むことにして、ジンはそんなカルラを見たが納得したらしいと判断したようでウォッカはアクセルを踏み込んだ。
具体的な用事は口にする必要もないと考えたジンは煙草を咥え携帯で誰かに連絡をいれると車は高速を下り目的地まで進んでいく。
そこでちょっとした取り引きがある。
カルラを呼んだ理由はその取り引きの間の人質として"差し出す"からであり詳しく言わずともカルラは理解してくれるであろう。
七歳にしてここまでこちらの思い通りに動いてくれるのは思うところもあるが役に立つのならそれに越したことはないとウォッカもカルラを見ることもなく、カルラは本を読んでおり。
あの後更に二時間かけて別荘地までつくと林の中を走り一つのペンションへと辿り着いた。
停止した車にカルラは顔を上げ本を閉じジンに「降りろ」と指示されたので本を持ちながら車を降りペンションの鍵を開け中に入る二人の背中をおった。
「これを持ってろ、一時間で戻る」
「はい。誰か来ますか」
「ああ、だが渡すな」
「はい」
ジンとやり取りを済ませるとカルラは室内の椅子に座り膝の上に黒いスーツケースを置きその上で本を開いた。
ジンとウォッカの乗った車は去っていきその音を耳で聴くとスマホを机に置き、一応として時間を確認しながらも本を読み進め、10分もせずペンションのベルが鳴った。
ジンは鍵をかけていかなかった。出ていいものなのかと考えていれば扉がガチャリと開き数人の足音が聞こえるとカルラのいる部屋の扉が開かれた。
「なんだこのガキ」
そんな第一声にカルラは黙って男たちを見、男たちはカルラの膝のスーツケースを見て手を伸ばしてきたのでその手を払いどけた。
「ジンに渡すなと言われてます。触らないで下さい」
「あん?いいから黙ってよこせ」
そうして再び伸ばされた手を叩き落としスマホをチラリと見やり男たちから視線を外すも一言呟いた。
「"そういう"取り引きでしょう?ジンから連絡が来るまで渡すわけにはいきません。その許可が下りるまで放しません」
そう言い切ったカルラは本を読み始めしかし男たちは納得いかないような表情を見せるもカルラの前の椅子に一人が座り
「随分とクールなガキだな」
そんな言葉を無視していればしばらく、誰かのスマホが着信を告げ、そしてカルラのスマホも着信を告げた。ジンからだ。
『もしもし、父さん』
『スーツケースを"黒岩"に渡して出てこい。すぐだ』
『はい』
フランス語のやり取りに男たちはカルラを見つめ首をかしげておりカルラは「黒岩って、誰」と呟きカルラの前に座っていた男が「俺だ」と笑った。
「はい、これ」
そうスーツケースを渡すとカルラは本とスマホを持ちペンションを出ようとしたが二人の男が扉の前にたち防ぎニヤニヤと笑っており「どいて」というも男たちは通すこともなく。
「取り引きは終わったでしょう?どいてちょうだい」
ジンに何かを言われる前に退いた方が身のためだと思うけどとまで言えば、しかし男たちは笑っているだけで、カルラは息を吐き出すとペンションのその窓から飛び降りた。
「何してる……」
「ドアの前から退いてもらえなかったから窓からでたの」
ジンは黙りこみ、男たちは窓からこちらを見ており、ジンは舌打ちを一つするもカルラにはそれ以上何も言わず、カルラが車に乗り込むと無言で車は動き出した。
みるみる遠ざかるペンションをチラリと見ればジンが煙草を吸いながら腕時計を見つめ口端を吊り上げると背後のペンションが爆発した。
どうやら私は爆弾を抱えていたらしい。ジンが何かボタンや機械を持っていないと見ると時限式だろうか。
燃え行くペンションから離れていき時限式なのかを問いかけてしまった。
「ああ、あいつらにはもう何の用もねぇからな」
私が一緒に吹き飛んだとしたら、どうするの?
そんなことを思ってしまったがそれを口にはせず読み終わった本を鞄にしまいこむとジンがミラー越しにこちらを見ており首をかしげてしまう。
「どうしたの?」
「いや、間に合ったと思っただけだ」
つまり私のことは一応心配してくれていたらしく、そっと息を吐き出せばウォッカに暖かいミルクティーを渡されて「ありがとう」と言いながらそれに口をつけ、車は東都へと戻っていった。