前世がゾルディックな私の来世(全23話)
杯戸町に新しく大きな本屋ができたことを知ったコナンは電車に乗って本屋へと訪れればそこには沖矢昴の姿もあり思わず「昴さん」なんて声をかけてしまった。そうすれば昴はコナンを振り返り「おや、コナン君」なんてニコリと笑った。
「コナン君もこの本屋へ?」
そう問われたため素直に頷けば二人して推理物が置いてある棚に行こうとすれば海外書籍の棚に一人の目立つ少女、カルラがいて本棚の上の方を見上げている。
一瞬どうしようかと悩みコナンが立ち止まったことに気付いた昴もコナンの視線の先に目を向け見やった。
「知り合いかいコナン君」
「……少し前に転校してきた黒澤カルラって子なんだけど…」
「ハーフか?」
それは本人もよく分かっていないようだがあの緑の瞳はジンと同じもののように思え、怪しい行動をしているし気付かれる確率が恐ろしく低かったのにバレた盗聴器を壊してくれて。
そのことをそっと昴に教えれば昴はそっと瞳を大きく開き黒澤カルラという少女を見つめる。
見る限りでは怪しげな雰囲気はないがしかし坊やが気にするということは恐らく何かあっての事だろう。カルラはしばらく棚を見上げていたが手を伸ばし目当てであろう本を取ろうとしているがあと一歩届かず、昴はカルラの背後から本を取りカルラに差し出した。
カルラは多少驚いてはいたようだが昴が取ってくれた本を持つと昴を見上げ「ありがとうございます」と頭を下げ行こうとしたので昴は「あの」と声をかけ、カルラは昴を振り返った。
「何ですか」
「それはフランス語だが、読めるのかい?」
それともお使いかな?と首をかしげればカルラは昴の顔を、いや、正確には昴の瞳を見つめ
「読める」
と小さく呟くと行ってしまい会計を済ましたカルラはもう一度昴に頭を下げ本屋を出て行ってしまった。
「昴さん、どう思う?」
「フランス語が読めるという以外はハーフの少女にしか見えないが」
「じゃあやっぱり…」
そうコナンは顎に手をあて考えると
「電話で話している言語はやっぱりフランス語かな…」
しかし相手は分からないが。
「とりあえず家に戻り話そう」
「…うん……」
そうして二人は本屋を出ると昴の車に乗り、歩いているカルラの背を見つつ車は工藤邸へと動き出した。
「調べてみるか?坊や」
「できる?昴さん」
「ああ」
その返答にコナンは知りたいようなそうでないような表情をしているのだがこの子が気になるというのならよっぽどだ。
そうしている二人の乗った車は既にカルラから遠く過ぎ去っていきジンの車に乗り込んでいるのは知るよしもなく。
「カルラ、何を探してた」
「フランス語の拷問の本」
煙草を咥えたまま本の少し動きを止めたジンだがカルラは笑顔を浮かべると
「ウソ」
と。そしてフランス人作家の名を教え何の本かも素直に教えた。この本はまだ日本語訳されていないので原本を手に入れる事しかできなかった戸まで口にすればジンは煙草の煙を吐き出し「そうか」と呟いた。
この後どこに行くのかと聞けばジンは杯戸町にある廃ビルだ、と。
「取り引き?」
「お前は車にいろ」
「はい」
そうしてカルラは本を開き流れるように書かれているフランス語に目を滑らせていく。
車は淀みなく進み、一旦道路の脇に止めるとウォッカが乗り込んできて、そういえば助手席に誰もいなかったなと思いつつも本の世界へと入り込む。そのまま30分ほどしてからジンの言った通り廃ビルへと入り込み車を停止させた。
「誰か来ても出るんじゃねぇぞ」
「分かった。行ってらっしゃい父さん、ウォッカ」
二人が行ってしまったしまったのを見るともう一度本に視線を移し読み進めていく。
スマホが軽く震えたのでそちらを見ればスマホガチャの確率アップの通知であり、本を閉じるとスマホをいじる。
「3連ガチャか……」
そう1人呟いて課金しようか悩むがそれをやめ、いつものゲームアプリを開いてモンスターを倒していく。
しばらくの間ポチポチとしていれば父さんとウォッカが戻ってきて、その手にはスーツケースがあり今度はウォッカが運転席に座り、父さんが助手席へ。そのまま廃ビルから抜け出て米花町まで走る車に揺られながらたどり着いたのは私の家。正確には私と父さんの住むマンション。
「カルラ」
「はい」
「何もなかったな?」
「うん」
その返事にジンは満足そうに笑うと煙草に火をつけ紫煙を吐き出した。
「父さん」
「なんだ」
カルラは少しだけ黙るがすぐ顔をあげスマホゲームのガチャに課金してもいいのか尋ねてきたので、一瞬何の事かは分からなかったがすぐ何がしかのゲームと聞き
「好きにしろ」
と言われたため、カルラは笑うとスマホを取り出しゲームをやり始めた。そんなジンの車を見て硬直している少女に気付くこともなく、そしてカルラの姿を見ることもなく車は静かにマンションの駐車場に止まった。