7年ぶりの初めまして(全39話)
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「着る服が、ない…」
そうポツリと呟いたのは私であり和服を全てクリーニングに出してしまった私のせいでもある。己の馬鹿さ加減に笑いが漏れつつタンクトップに短パンのわたしは部屋の真ん中で正座をし、腕を組む。
一着は血がついてしまったため再度着ることが嫌で処分して、もう一着は暴君三人によって切り裂かれたためそちらも処分した。いや、するしかなかったのだが。
着物がわずか数着しかない、という訳ではなかったのだがクリーニングに出すならいっそ全部と考えた私の馬鹿。
思わず深く息を吐き出してしまっても着物は出現しないしタンスを開いてもあるはずもなく、以前母に買い渡されたオフホワイトのワンピースに袖を通した。
私には全く似合わないだろうと思いつつ絶対に手を出さないであろう色と形にゲンナリしつつその格好のまま居間に行く。そうすれば母が私を見て「あらぁ~」なんて嬉しそうに笑い父も父で新聞を読みながらこちらに視線を寄越し「珍しいな」と呟いていて。
そんな2人の視線に苦笑いを浮かべつつ
「ちょっと着物と帯仕立ててもらってくる」
と声をかけ
「行ってらっしゃい」
と母が笑い
「車か?」
と父に問いかけられたためそれに首を振ると
「今日は電車」
と答え化粧をし髪を結い上げるとサンダルを突っ掛け家を後にした。
暖かな日差しの中スカートがふわりと揺れスカートの中に入ってきた風に違和感を覚え電車に乗り込んだ。
行き先は江古田市の和服屋さん。
一着だとしても中々の出費だが二着で、しかも加えて帯もである。
これは少々音楽活動で稼がねばと思いつつ電車に揺られ江古田市へ。
電車を降り改札を抜けるとまた日差しが私を照らし和服屋へと足を運んだ。
そこで二言三言店主とやり取りをすると柄を選びどれにでも合いそうな帯を選び見繕うと
「来週までには」
と言われ私は笑顔で店を後にした。
さてこの後どうしようかとしていればどこかで見たことのある男の子、と言っても高校生位だろうか、その子が目に入り見つめていく。そうすればその男の子も私の視線に気付いたようでこちらを振り返ると一瞬驚いたような表情を見せたがすぐ顔をそらし行ってしまうが、なんとなく追いかけて信号で止まっている男の子の手をクイッと引いてしまえば男の子はなんとも渋い表情で私を振り返り私が呟きそうになったのは
「怪盗キッドに似ているね」
というもの。
しかし男の子は私が呟く前に私の口を塞ぎ、変わった信号の中引っ張られ連れていかれたのは手近にある喫茶店。
その店内に入れば店員さんは私とキッド君をテーブルまで案内し二人して椅子に腰を下ろすとキッド君だと思わしき彼はにこりと微笑んできた。
それはあの晩見たものと寸分違わず
「やっぱり君」
そうなんだと言葉を濁し呟けば「帽子を取られましたからねぇ」なんて酷く諦めたような声をだし私は小さく笑ってしまう。
「キッド」
なんて呼ぶわけにもいかず、二度目まして西澤奈々ですと頭を下げ名乗ればキッドは少し悩むと
「俺の事は"快"でよろしくお願いします」
という笑みに頷いて注文を取ることにした。
そうして無言で見つめあっていても仕方無いので会話をしようと口を開けば快君も同じように口を開き
「俺の事はトップシークレットで」
と言われてしまい、私の周りにはトップシークレットを持つ人間が多くいるなと考えてしまう。それでも秘密を暴いたり言いふらしたりする人間ではないので
「はいはい」
と頷きながら今しがた注文した紅茶が運ばれてきてそれに口をつけ飲み込んだ。
「美味しい」
そうポツリと呟けば快君も同じように「ですね」と答えつつ尋ねかけられたのは
「江古田市へは何をしに?」
と。そして「道場はけっこう向こうですよね?」なんて聞かれてしまったため
「ちょっと着物を仕立てにもらいに来たんだよ。色々あって二着駄目にしちゃったから」
「着物?」
快君はキョトンとしたがまあそんな反応はよくあるので大して気にもせず小さく頷き
「私基本和服の人間だから」
と返しておいた。だがそうか快君は私の寝間着姿しか見たことがない上にこの髪色である。疑問に思われても無理はない。それに和服でいる人間だってそうはいないのだから尚更である。それでも大したことではないのでカップを傾けていれば
「あんまり想像できないな」
と言われてしまったので、また近いうちに会えば和装見れるかもよなんて言っておいて。
「何で今日は和服じゃないんですな?」
「…うっかり全部クリーニングに出しちゃった…しばらくは洋装だ…」
そんな私の言葉に快君は笑いそれをジットリと見てしまったのは仕方無いだろう。
そうしてしばらく談笑を楽しんだ後なんとなく連絡先を交換して別れることとなり、私は再び電車に乗ると米花町へと向かった。
特に何事かの用事はないのだが安室さんに「今からポアロに向かうから」とメールを送れば電車を下りた頃にスマホが着信を告げメール画面には安室さんの文字。
『お待ちしてます』
のそれに小さく笑うと鞄にスマホをしまい肩にかけ直し歩いていくその瞬間、鞄を勢いよく引っ張られよろめきそうになるが踏ん張ってすぐ引ったくりだと理解するとその手を掴み捻り上げるとその場に押し倒した。
周囲の人が手伝って男を取り押さえてくれて駅員が駆けてくると男を捕らえ行ってしまった。
にしても着物と洋服の動きやすさの違いに驚いきつつも軽い事情聴取を受け終わらせ私はポアロへと真っ直ぐに進んでいった。
そうしてポアロに入れば客足のピークが過ぎた頃であり店内には梓さんと安室さんしかおらず、ちょっとした貸し切りみたいだなぁなんて感想を持ってしまった。
「いらっしゃいま、え?奈々さん??」
そんな疑問たっぷりの梓さんの声に笑ってしまいカウンターに腰を下ろせば安室さんも驚いているが気にもせず
「いつもの」
と頼みつつ二人の疑問にも似た困惑を解消してあげようと
「着物、全部クリーニングに出しちゃって」
着れる服が無くなっちゃったんだと笑い二人は納得したように頷いて、安室さんはダージリンを淹れてくれながら、梓さんはパンケーキを焼きながら
「奈々さんって、めちゃくちゃスタイル良いですね?!」
そのワンピースすっごい似合ってる!と笑顔で言われ安室さんも「ええ、とってもお似合いですよ」見とれてしまいそいになりましたよ言われてしまうと浮かんでしまうのは苦笑い。
程なくして目の前に紅茶とパンケーキを置かれ手を合わせるとそれに口をつけた。
本日二杯目の紅茶だが、やはりポアロの紅茶は美味しいなんてしていれば来店の音を聴きそして
「西澤先生、ですか?」
というその声は蘭さんのもので。本日三度目になる言葉を口にしてまったりと寛いだあと上がりだという安室さんと連れたってポアロを出ればしげしげと全身を見られ
「すっごく似合ってますね!」
と言われ苦笑いをしつつ私の自宅までドライブをして
「また」
と別れ帰宅した。