この世界で迷子の僕を(全80話)


軽井沢に来て6日が経ちジンとウォッカと共に訪れた研究施設にいた数人の人間に何事かを告げているが、リレは部屋の外で待つようにと言われていたけれどジンから離れジンを視界に入れずに過ごす限界は約10分。
それを越すとえづき涙を流し蹲って戻してしまう、それを2、3回繰り返していればジンはリレに近くにいても話を聞くなと指示をし、リレはこくりと頷いたが、まあ、聞いたところで意味もわからないのだから側にいても関係ないだろう。それでもリレはジンの側にいながらも色々なところへ視線を向けたりと本の少し落ち着かないがジンもウォッカも気にしないでいる。だからリレも気にしない。
そして一緒にいれば別の国から来ている職員の通訳を数度も任されているのでジンの側にリレを置く意味を成しているのだろう。だがやはり、リレを側においてしたくない話もあるのは必然的であり、リレはグッと息を飲むとジンから離れて部屋の外へ出る。

ジンはリレの頭をグシャリと撫でジッポを渡すのは、絶対戻る、すぐ戻るという意味でありそれを意識したリレはそれでも硬い表情のまま部屋の外扉のすぐ脇にしゃがみ込みジンのジッポを握りしめている。

限界は10分。何度も言うが10分が限度である。
部屋の外で待つリレはジッポを強く握りしめ、ジンからもらった携帯の時刻を見つめ待っていればジンは10分以内に戻ってきてくれる。そうして今、部屋の外で待っていれば何人かの職員に見られ声をかけられるが、リレ視線を落としたまま答えもせずジンが中に入ってからもうすぐ8分になるがジンは「すぐ戻る」とは言ってくれたかったからきっと10分以上はかかるのだろう。

来るよね、ジン。来るよね?来るはずだ。だって扉ここにしかないんだから絶対に来る。

それでもだんだんと吐き気が込み上がってきて全身がガタガタと震えてしまいリレは下唇を強く噛み締め固く目を閉じる。
ジン、早く戻ってきて、ジン、

「気持ち悪い……」

カタカタと身を震わせジッポを握りしめながら体を丸め腹部を押さえるがジンはまだ来ない。
無理だ。もう無理だ。
溢れる涙と込み上げる胃液を吐かないようにしていても耐えられるものではない。しかしこんなところで吐いてしまえば果てしなく人にも、もとより様々なこの施設に研究員たちに迷惑がかかってしまう。

蹲るリレを見かけた職員の1人が 小走りで歩み寄り背を支えられる。

「大丈夫?歩ける?」


そう問われた時点では答えられる余裕もないし背を支えられ立ち上がらされると連れて行かれたの近くのトイレであり個室に連れられて背を撫でられて、リレはそのまま嘔吐してしまった。
朝食は食べたが今は確か昼の1時少し前。胃の内容物はほぼ溶けていってるだめ出てくるのは胃液のみ。えづき、吐き戻し、涙を流す。そうして3度ほど戻し荒く息を吐き吸っていれば携帯が鳴り響き職員もリレも顔を上げる。

職員は携帯を取り出しリレも震えながら携帯を取り出せば着信はジンからであって鼻をすすりながらすぐに電話に出ればそれはもう荒々しい声で

「どこにいる」

と聞こえリレは泣きながらも答えたのは

「近くのトイレ」

とだけ。手は相も変わらずカタカタと震えておりトイレの外で足音が聞こえてきたのは

「リレ」

というもので、携帯と外とで音が響き耳に入りトイレの水を流しながら職員の人に背を支えられ個室から顔を出せばそこにはジンがおり、リレは携帯とジッポを握りしめつつジンに勢いよく抱きついてしまった。それに驚いたのは職員のみで、ウォッカもジンものリレといるのは一か月に満たないが慣れてしまった故の無反応。


「吐いたのか?」


そう問いかけてきたジンにリレは鼻をすすりながら小さく頷いて「ごめんなさい」と。

何に対してだと考えたのはウォッカであり職員であり続いたリレの言葉にそれかと頷いた。

ジンを待っていたかったけど無理だった、迷惑かけたよね、いなくて驚いたよね、ごめんなさい、と。ジンはそんなリレを見下ろしポンポンとリレの頭を撫で

「ギリギリまで我慢したんだな」

そう呟き行くぞと口にした。リレは少し待ってとジンを見上げ洗面台に立つと口をゆすぎ職員に目を向け小さく頭を下げ
「ありがとうございました」と声を出した。

職員は驚いたままだがそれでももう平気なんだねと問いかけリレは笑って大丈夫ですと ジンのコートをちょっと掴みジンは歩き出す。リレはそれでももう一度軽く頭を下げジンにぴったりとくっついてウォッカと共に入ってしまった。

あの子すっごいな。

そんな言葉は3人には届いてはいなかったが気にするところもなく

「ジン、これ」

そうリレはジンにジッポを差し出し、ジンはそれを受け取った。

「10分か…」

そんなジンの呟きにウォッカとリレの耳に入り、リレは視線を落とし「うん」と。


「アニキ…」
「……」


ウォッカの呼びかけにジンは目を向けることもなく何事かを考えている。 恐らくリレが扉を隔てたそこで耐えられる時間についてだろう。
リレに見せることができないこともあるし見せたくもないけれどジンから離れるとリレは吐き戻してしまう。リレがジンの側は離れ情報をリークすることはできるはずはない。なんせリレの携帯にはジンとウォッカの連絡先しか入っていないしリレが二人以外に連絡したらすぐわかるよう組織内で末端に使われるアプリが入っているしこの様子でも誰でも連絡をしていないことは分かっている。
そして施設を出てウォッカは運転席に乗り込みジンは助手席へそしてリレは当然だが後部座席に腰を落ち着けウォッカはエンジンをかけた。


「リレ、何か食いたいものはあるか?」


そんなウォッカの問いかけにリレは首をふり何も無いよと示し、少し考えると

「ここにはもう用はないの?」

と。それにウォッカはジンを見てリレを見て頷いた。


「なら、お蕎麦、食べたい」


長野県は蕎麦の国。もう用がないのならこの真っ黒な3人が訪れても問題はないだろう。ジンは煙草を咥えながら「好きにしろ」と言い置き火をつけた。








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