7年ぶりの初めまして(全39話)
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今日も1日忙しかったとバンドメンバーと別れ一息つこうとポアロへと訪れたは既に7時半を大きく回ってる頃で、ラストオーダーは可能だろうかと思いつつポアロの扉を開けた。
店内にはまだチラホラといるがそんな人達もすぐに帰ってしまうだろう。しかし梓さんが「いらっしゃいませ!」と声をかけてくれたのでお邪魔することにした。安室さんの姿はない。
いらっしゃいませと笑みをくれた梓さんに笑い返しカウンターへと腰を落ち着かせ
「ラストオーダー大丈夫ですか?」
と問いかけた。そうすれば梓さんはにっこりと笑いお冷やとおしぼりを持ってきながら
「奈々さん相手ならもう少しお見せ開けておこうかな?」
なんて言われてしまえば思わず私は苦笑い。
「それで、何時閉店かな?」
「8時ですよ、はい、いつもの」
とダージリンを置いてくれて梓さんは歌うように「今日は安室さんお昼までだったんですけど」残念に思ったりしちゃってる?なんて。その問いにキョトンと梓さんを見つめてしまい
「特になんとも」
と答えてしまう。安室さんに用はないのでとストローでダージリンをすすりつつメニューに視線を移すとチーズスフレに目が行ってしまい
「梓さん」
「はい?」
「チーズスフレあります?」
「はーい!最後の1つです」
と梓さんはすぐ持ってきてくれて、他のお客さんたちも帰っていく。
私は慌ててチーズスフレを食べ始めれば、そんな慌てなくても大丈夫ですよと微笑まれ、だがその言葉に安心なんてできなくてパクパクと食べ進め梓さんが店内のモップかけを始めたので余計に慌ててしまう。
そうして食べていればエプロンをとった梓さんがコーヒー片手に私の横に腰を下ろした。
「仕事上がりのコーヒーって美味しいんですよ」
こうしてコッソリ飲むのは秘密にしておいてくださいね?と梓さんは首をかしげ私もダージリンを飲み干した。
「あ、お代はいらないから」
「え?」
財布を取り出した手は止まり不思議そうに梓さんを見てしまったがそうはいかないでしょうと眉を下げてしまい
「チーズスフレも奈々さんが頼まなかったら私が持ち帰ろうとしてたんだから!」
「うわ、なんか罪悪感」
そう口にすれば梓さんはくすりと笑って「なーんてね!」とコーヒーを飲んでおり私は座り直した。
時計を見れば7時50分を回るところであり不意に梓さんが口を開いたのは
「暁ってバンド知ってますよね?」
ドキリとしながら梓さんに視線を向ければ「今度のライブのチケット取れなくて~!」
「奈々さんは知ってる?知ってますよね?物凄い有名ですからね?!」
そうグイグイくる梓さんに頬を引き吊らせてしまい
「梓さん、暁のファンなの?」
そう問い返してしまった。そうすれば梓さんは拳をグッと握りしめ
「二度目のライブなんだよ?!気にならないの?暁の生歌を聴けるんだよ??!ねえ奈々さん!」
そう言われ引いてしまったがそこまでして行きたいのかと呟きそうになりながらもその言葉を飲み込んでスマホが着信を告げた。
「梓さんごめん!帰らなきゃ」
お釣りはいりませんとテーブルに紙幣を数枚置き電話にでながらポアロを後にした。
「もしもし?どうしたの香月」
『あぁ、さっきいい忘れた事があって、今大丈夫か?』
「大丈夫、知り合いのお店にいただけだから」
もう帰るところ、と。それじゃあと次の言葉を繋げてくる香月の話を聞きつつ歩いていれば見知った赤い車を見つけ歩道の柵に腰を預けうんうんと頷いておく。
そうして続いていく言葉を耳にし赤のRX-7を見つめ通話を切った。
立ち上がり車に近寄れば車内には誰もおらず調度すぐ前のラーメン屋から美和子と男の人が連れたって出てきて
「あら奈々じゃない!」
とバッチリ目があってしまった。いや、見たんだから目が合うのは当然だし「やあ美和子」と声をかけあった。そして美和子の隣にいる男の人へと視線を移し
「こんばんは、お久し振りですね、えぇと、…高木さん?」
「確か以前女性を受け止めた西澤さん、ですよね?」
と。
私はふふっと笑い、そうですよと答え二人とも仕事あけ?と聞けば
「そーなの!もーお腹すいちゃってラーメンと炒飯にギョウザまで食べちゃったわよ!」
そう笑っており
「そうだ美和子、もう暇なんだよね?」
「ええ、緊急要請が来なければ今日はもう終わりよー!」
と笑い、私もにっこりと笑ってみせると
「家まで送ってくれない?」
そう打診してみた。そうすれば美和子は不思議そうに首をかしげ「今日は電車だったの?」と。それに頷けば美和子は顎に手をあて少し考える素振りを見せると
「交換条件ならその話聞こうかしら」
と笑われてしまった。
「うーわー嫌な予感」
「え、えっと佐藤さん、自分はここで…」
「あ、いいのいいの高木さん、一緒にいてくれて大丈夫ですから」
と声をかけ美和子の車の後部座席に腰を落ち着け車はゆっくりと動き出した。そして次に美和子が口にしたのは
「2週間後の暁のライブなんだけどさぁ、お願い、聞いてくれる?」
それきたものかと呟けば美和子は笑い高木さんは首をかしげ
「休みは取れたけどチケット無くってさぁ」
なんとかならない?と。やはりそれかと言葉を紡いでいきそして高木さんはキョトンとする。
「そういえば佐藤さんって暁のファンでしたよね」
と口にして、高木さんは美和子と私を交互に見やるとハッとすると「もしかして…」そう言葉を濁し
「あら、高木君、気付くの遅いわよ」
と。まあそうだろう、歌の時とは声を変えているのだから早々に気付かれる筈もないけれど
「ひゃー!?」
なんて声を出され
「ぼぼぼ、僕も暁のファンなんですよ!!」
と嬉し恥ずかしに苦笑をひとつ「秘密ですよ?本当に」と低く低く呟いてから美和子に
「二人分のチケット用意すればいいんでしょー?」
仕方無いなあと。
そうすれば美和子はガッツポーズをし
「高木君、次のデート先決まったわよ!」
と明るく言い放ちキッチリと自宅前道場まで送ってもらった。
高木さんは道場の大きさに表情を引き吊らせ
「チケットは美和子に郵送するから、二人ともよろしく」
送ってくれてありがとう、その言葉を最後に手を振り道場の門をくぐり抜けた。
「…あーしんどい……」
そう呟いたのは仕方あるまい。