7年ぶりの初めまして(全39話)
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ベルツリー急行が発車する当日、私は朝早くに秀の指示通り工藤邸へと足を運びジックリと見なければ分からない程度に化粧を施され髪の毛もいじられた。
いくら顔を変えてもこの髪色と長さを持つ人間なんて限られる所が一人もいないだろうとして、キレイにまとめ上げられるとその上からウィッグを被せられ帽子をかぶり"あの"工藤有希子に完全に別人へと仕上げられてしまった。
そうして私は鏡を見ながら感動しつつ沖矢の運転する車で三人揃って東京駅へと辿り着く。
私は沖矢の恋人の振りを装い有希子さんは一人さっさと行ってしまい遠くでハシャグ子供たちを見つけてしまった。
知らない振り知らない振り…。
けれどコナン君には一応私が来ることは伝えてあるらしいがまあ気付かないだろう。
まだ安室さんの姿は見えないが、もう既に乗り込んでいるのだろうともう一度コナン君たちを見つめ沖矢と供に7号車へと乗りこんだ。
普段稽古ばかりでこうやって出掛けるのは久し振りすぎて当初の目的を忘れそうになるも気を引き締めていこうと思う。
「発車してしばらくは部屋から出ないで下さい」
そう沖矢に言われ有希子さんが携帯を開いて何事かを打ち込んでいる間に列車は動き出した。
「これでノンストップで名古屋か…」
そうポツリと呟けば沖矢も有希子さんもこちらを見やり「よく執着地点を知っているな」という趣旨の言葉を投げかけられ、ネットの運行時間を調べたからと笑っておいた。
そのままとりとめの無い会話をしながら外の景色を楽しんでいれば不意に扉の外、廊下が騒がしくなり沖矢はそっと扉を開き廊下の様子を伺った。その瞬間、耳に入った声にドキリとしたのはそう"安室透"の声が聴こえたから。
沖矢とともにチラリと伺えば蘭ちゃんや園子ちゃんがおり沖矢はパタンと扉を閉めると呟いたのは
「天は我らに味方をしているようですね」
というもの。
沖矢の考えも有希子さんの考えも分からないがまあ良い方向への言葉なのだろう。
というか、
「殺人って、聞こえたけど…」
「そうらしい」
そうらしいじゃないわアホたれ!なんで二人ともそんな余裕なわけ?私がおかしいの?
そんな疑問を持っていても沖矢にはまだ部屋から出ないように言われているし、そうしている間に廊下は静かになり私は沖矢の顔を伺うと扉を開けそっと廊下を見つめた。誰もいない。いや、安室さんの背中が見えるが、本当に零は誘拐、をするのだろうか。
一抹の寂しさを感じながら扉を閉め息を吐き出すと気持ちを切り替え「まだ?」と沖矢を見上げた。
「ああ」
「でも私はそろそろ動こうかしら」
そんな有希子さんの声に耳をかし有希子さんは行ってしまい私は沖矢とともに椅子に座り直した。
そうしてどれ程が経ったのか不意に沖矢はメールを受信したようでスマホを見つめると笑い、扉を開けた。
沖矢の影になってしまうがチラリと見えたのはそう灰原さん。マスクをしているのだから風邪か何かなのだろう、しかし沖矢が発した言葉は私には理解できない言葉。
「さすがに姉妹だな…行動が手に取るように分かる。さあ、来てもらおうか」
こちらのエリアに、と。
沖矢、いや秀、本当に訳が分からない。
怯えた様子の哀ちゃんはその瞳を大きく開くと走り去って行ってしまった。最後まで私のことは気付かなかったようだが追いかけるべきなのだろうか。チラリと沖矢を見れば小さく頷かれ私は哀ちゃんを追いかけるべく部屋から走り出した。
帽子とウィッグで頭が蒸れそうだがそれ所ではないので
「哀ちゃん!哀ちゃん待って!!」
とそうして追いかけた先は7号車B室。そこには有希子さんがいて、哀ちゃんは驚き走り寄る私を見つめ逃げようとしたが私は「哀ちゃん、私!」と
「哀ちゃん!西澤奈々!」
そう必死で声をかければ後退りながらも私を見つめその唇が私の名を呟いた。
「取り敢えず二人とも入ってちょうだい!後は任せて!」
そうしてB室に入れば有希子さんはニッコリ笑うと行ってしまい哀ちゃんは私を見上げてきた。
「…どういうこと?」
「いや、私もちょっと分からないけど、哀ちゃんが心配なのは本当だから」
「…なんで西澤さんまで変装しているのよ…」
「それは訳ありらしい」
「らしい?」
安室さんのことは言えないが
「私も詳しくは教えてもらっていないしこの変装の意味も今一分からない」
でも哀ちゃんはここにいてね、きっと誰かが来るだろうから。そこまで口にして私は扉を背に振り返りしばらくの騒音の中ガラリと入ってきたのはコナン君で。どこか焦っている様子のコナン君に睨み付けられたが
「コナン君、私西澤奈々」
「…奈々さんか…」
上から下まで見られたが私は気にせず立ち上がり
「コナン君、安室さん…どこ?」
「なんで?」
敵意バリバリだがやはり気にせず
「多分、8号車だろうけど」
「8号車ね、ありがとう」
そうしてその部屋を出れば背後からコナン君の声が私を止めてきたがその驚きの声を無視すると8号車へと走り出した。
今、安室…いや零は何をするつもりなのか理解したくないしするつもりもないのだが私が止めることができるのなら。
そして次の瞬間ベルが鳴り響き煙が立ち込めてきた。なんだこの煙。火事か?
本当に何が起こっているのか分からないが8号車への扉を開けようとした瞬間、向こう側で咳き込む音と、安室の、いや、この男は
「初めまして」
安室でもなく、零でもなく
「バーボン、これが僕の、」
コードネームです
と。
煙と誰かの背を見つめポツリと呟いてしまった。零?と。
そんな私の声に"バーボン"は振り返り
「あなたは……奈々…さん?」
バーボンは驚きに目を見開きよくよく見ればその手には黒いソレが握られており、そしてバーボンの前に立つ女性は哀ちゃんによく似ていて。
混乱する私に同じように戸惑っている"零"は、しかし一瞬で間合いを狭まれ腹部に一発くらいそうになるが私はそれを回避して身構えた。
潜入しているとか、哀ちゃんをどうにかするというか、私という存在に気付いてくれたとか、色々と思考が邪魔をするが不意にグラリと車体が揺れそのわずかな隙を見逃すはずもない零の腕が再び腹部をかすめ、私は足を振り上げ脇腹めがけ身体を回し、身を避けたそこにもう片足を振り落とした。
しかしそれはかわされ足を捕まれるも片足で飛び上がり膝をバーボンの顎めがけ突き入れる。
ガツンとした感触はあり捕まれていた足は離されそして次の瞬間、哀ですによく似た女性の乗っている車両が爆発した。
物凄い爆風と揺れにバランスをとりバーボンと供にその取り残され離れていく8号車以降を見つめポカンとしてしまう。まさに無である。そんな私の隙をあの"零"が見逃すはずもないだろう。すみませんと言う言葉と供に手刀が首に落ちてきてそのままグラリと身体が倒れると零の腕に収まり抱き止められた。
「…見られた……」
どうするか。組織から、いや、ジンからしたら彼女奈々を殺すしかないだろうがそんなこと、できるばずがない。
遠くで二度目の爆発が起こりそれを見ながら腕の中の"別人"に"見える"奈々を見下ろしつつベルモットに連絡をいれた。
「シェリーは吹き飛びました。問題は…ありません」
奈々の肩を抱きつつそう呟きスマホをしまうと奈々を横抱きにし7号車を抜け手頃な部屋に入り横たえると、そっと頬を撫で見下ろし静かにその部屋を後にした。
近くの駅に電車は止まりその揺れとスマホの音に奈々は目を開き起き上がるも誰もおらず、唇を噛み締めると膝を抱え息を吐き出すと、ただただ静かに「零」とだけ呟いた。