この世界で迷子の僕を(全80話)
モゾリと身動ぐその感覚にハッと目を覚ませばジンが体を起こしており軽く髪をかきあげて欠伸をしている。
「ジン、おはよ」
そう声をかけつつ身体を起こせばジンはチラリとリレを見つめ「ああ」と頭をグシャリと撫でてくる。 そしてジンはベッドを抜けでると洗面台に消え、僕はバスローブを脱ぎジンとウォッカが揃えてくれた黒い服を身にまとう。
もしかして全てジンとお揃いではと思っていたがそうではないらしい。黒いシャツに黒いジーンズ、黒いジャケット。なんとなく僕はこのまま組織に染まっていてしまうのだろうかと考えてしまうが別に問題などない。
服を着替えてからジンを追いかけ洗面台に向かえばジンは顔を洗っており僕もそれにならうように歯を磨く。
朝の支度をするリレの頭を軽く撫でたジンは「早くしろ」とだけ残し寝室へ消えリレはその通り素早く済ます。
そしてジンはコートと帽子を身に付け煙草を咥えつつ携帯をいじりどこか不機嫌そうにしている。
「ジン?」
ポツリと呼びかければジンは顔を上げリレの名を呼び煙草を灰皿に押し付け立ち上がる。
「行くぞ」
「うん」
ジンは携帯をポケットにしまいリレを伴いホテルのロビーに向かう。4時50分、ウォッカがいるはずだ。
ロビーのソファーには時間違わずウォッカがおりジンとリレに気付くと煙草を捨て立ち上がり二人に向かって
「おはようございやす」
と口にした。勿論ジンは答えないがそれはいつものことでありリレは「ウォッカ、おはよう」と笑いかけてきた。
「ジンもおはようって、」
「……」
ジンは難しい表情を浮かべウォッカはギョッとするが、ジンは何かをいったり行動することもなくそれでも淡々と
「おはよう」
と低く小さく呟いた。ウォッカは驚きリレは嬉しそうにジンを見つめ「行くぞ」とジンは歩き出す。
ロビーからホームの扉を抜けそしてウォッカが小さく呟いたのは「リレ、恐いもの知らずだな」というもの。それはあまりにも小さな呟きであったため二人には届きもせず、既に用意してあったジンの愛車に乗り込んだ。
今日はジンが運転するらしい。
が、リレからしたらジンから離れなければどちらが運転しようが構わない。
早朝の車道には車はおらずスルスルと走っていくが、そういえば遠出をすると言っていたような、どこに行くのだろうか。二人のなされる会話の途切れを待ち、その会話の中でとあるラボの誰かを訪ねるということだけは理解できた。からの、会話が終えたところでリレはジンとウォッカの横顔を見つめそっと「どこに行くの?」かを尋ねかけた。
「軽井沢だ」
「軽井沢……」
信州か。時刻は既に五時半を回っており、首都高から高速に乗り走っていく。今の時期の軽井沢って少し寒いのではないのだろうかと思いつつ、不意にジンは携帯を取り出しウォッカに渡している。
なんだろう、何をしているのだろう。そう首をかしげ疑問に思っていればウォッカはジンの指示を受け携帯を操作すると
「リレ」
と携帯を差し出されてしまった。ますます疑問に思いつつ携帯を受け取り視線を携帯の画面に移すと、なるほど、と思って頷いてしまった。
「訳せ」
というものらしい。
口答で述べるのかを考えていればウォッカは録音機を持っており「リレ」と声をかけられる。
「言うよ?」
「ああ」
ウォッカがカチリと録音機のスイッチを入れ、リレはジンの携帯に表示されている言語(恐らくスペイン語)を訳していく。
しばらく、口答で訳していればあっという間に時間は経ちパーキングエリアにジンは車をとめ「朝飯だ」とエンジンを切る。そういえば何も食べていない。
翻訳も終えているので、と携帯をジンに渡しウォッカは録音機のスイッチを切った。
車を降りたジンの後を追いかけウォッカと共に朝食を購入し車に戻る。
「食ってろ」
と口にしたジンに頷いた僕はおにぎりを口に含み頬張った。美味しい。
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