荒涼たる新世界
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朱の軍団の城から離れたとある街が野盗に荒らされているとの噂を耳にしたシュレンは、自ら平定に赴くことにした。
「……えっ、私も……ですか?」
驚きを含んだ声で返したのは、マヤ──シュレン率いる朱の軍団の紅一点だ。軍の物資管理に才を発揮し、今では後方支援全体を担いつつある。
「今回の遠征は長くなりそうだ。留守中にお前に何かあっては困るので俺の目の届く範囲に置いておきたい」
今まで前線に出たことの無い自分が、よりにもよってシュレン自ら赴くほどの戦いに同行するのは足手まといになるのではないか。それに、後方支援部隊から目を離すのも心配だ。そう思ったマヤは、なかなか頷くことができなかった。
「それに、」
シュレンは付け加える。
「最近はマヤ抜きでも支援部隊が機能するように色々と工夫しているだろう?その予行演習だと思えばいい」
自分1人が業務を掌握している今の状態では有事の際に総崩れになってしまう。それを危惧してマニュアルを作成したり、人員配置の見直しを行っていたのは事実だ。後方部隊のこんな試行錯誤まで把握しているとは……
マヤは戸惑いながらも、「承知しました」と返事を返した。
シュレンが運転するバイクの後ろに跨り、荒野を進む。両手は彼の肩に添えているが、舗装されていない道を速度制限無しで走るのだから心許ない。思わず上着を掴む手に力を入れると、それに気づいたシュレンがマヤの手を取り、自身の腰に回すよう誘導する。
シュレンの腰に後ろから抱きつく姿勢になっていることを理解した瞬間、マヤの頬は一気に熱を持った。彼にとっては落ちないようにと只の気遣いのつもりだろう。なのに。恋人みたいだなんて考えてしまう自分が恥ずかしい。
(フルフェイスのメットで良かった……)
「見えてきたな」
いつの間にやら前方に街が見えてきた。背の高い建物が並んでいて、なかなか大きな街のようだ──が、その予想はすぐに覆された。
街に入って暫くバイクを走らせても、人の気配が全くしないのだ。野盗を恐れて屋内に閉じこもっているのだろうか。
「きゃあぁあっ!!」
「俺の妻を……や、やめっ……ぎゃあぁ────ッッ!!」
突如、街中に断末魔が響く。中心部の広場を見やると、どことなく品の無い大男が若い女の髪を引っ掴んでいる。大男の足元には、女の夫と思しき男が血みどろで倒れ伏している。こいつがこの街を荒らしている奴か。
兵士の1人が、大男に向かって火矢を放つ。怯んだ隙に人質の女を奪還し、野盗達の前に立ちはだかる。
「あぁ?何だァテメェら」
「我らは朱の軍団!これ以上貴様らの好きにはさせぬ!」
路地からぞろぞろと野盗が現れ、まさに一触即発。
「マヤ、住民を安全な場所へ」
「はい!」
マヤはバイクからぴょこんと降りると、
「皆さん、こちらへ」
手慣れた様子で住民を鉄筋コンクリート造のビルに誘導する。全員の無事を確認したところで、塀の影からシュレンにハンドサインを送る。
「総員、戦闘態勢に入れ!」
シュレンが号令をかけると、兵士たちは一斉に武器を取り出し、エンジンを空吹かしする。
「かかれ!」
シュレン達は次々に襲い来る野盗を蹴散らし、ついに賊の頭らしい男の前に降り立った。
「貴様の穢れた野望、このシュレンが灰にしてくれるわ!!五車炎情拳!!」
野盗を鎮圧した後、住民から感謝のもてなしをしたいのでしばらく滞在してほしいとの要望を受け、シュレン達は街に数日滞在した。その間に怪我人の手当てや戦闘で崩壊した建物の修復を行い、街を去る頃には活気が戻りつつあった。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
マヤは街の出口まで見送りに来た住民たちと言葉を交わし、シュレンのバイクの後ろに乗り込む。
「よし、これより城へ帰還する!!」
城への帰路も後半に差し掛かった頃、突然雨が降ってきた。通り雨かと思ったが雨足は強さを増すばかりで、これ以上進むのは危険だという判断を下した。
「今日はこれ以上進めないな。あの洞窟で休むか」
(さ、寒い……!)
持参した上着に包まるが、降り続く雨に加えて完全に日が落ちた荒野には敵わない。他の兵士たちはすでに寝付いており、洞窟の中は静まり返っている。隣に座るシュレンを見上げると、こちらに気付いたのか目が合った。
「寒いか」
「す、少しだけ……」
少しで済んでいないのは一目瞭然だ。暗闇でも分かるくらい青ざめた顔に、ガタガタと震える歯の音まで聞こえている。シュレンは思わずマヤの肩を抱いて、自分の傍まで引き寄せた。それだけではなく、
「きゃっ……!シュ、シュレン様……!?」
肩と膝の裏に腕を回して抱き上げると、胡座の上にすっぽりと収める。
「こうしていた方が寒さが和らぐだろう」
「で、でもシュレン様のお身体が冷えてしまいます」
「問題ない。それより風邪でもひかれては帰路に差し障る」
シュレンは自分の身体を気遣ってくれるが、進軍に差し支えがあってはならないからであって、別に私に思うところがあるわけではないのだ。いちいちときめいてしまう自分が恥ずかしい。別に男に免疫が無いわけではない。核戦争以前はそれなりに付き合いもあったのに、この男には調子を狂わされてばかりだ。
(あったかい……)
マヤは様々な思いを巡らすも、人肌の温もりには勝てず、程なくしてシュレンの腕の中で眠りについた。
(あ、危なかった…)
シュレンは柄にも無く動揺した。あまりに寒そうにしていたものだから暖めてやろうと抱き上げた身体は羽のように軽く、自分の腕の中に収めてもまだ余裕があるほど小さかった。動揺を隠すために突き放すような言葉を吐いたが、マヤは傷ついてないだろうか。すやすやと眠る彼女を抱き締め、肩口に顔を埋めた。
「ん……」
洞窟の奥まで差し込んでくる柔らかい朝日にマヤは目を細めた。
後ろから自分を抱く逞しい腕と、背中に感じるぬくもりの持ち主は勿論。
「シュレン様、朝ですよ」
「ん……あぁ」
掠れた声で呟くと、まだ完全に覚醒していないのかマヤの二の腕をすりすりと擦る。
(こっ、この方はどこまで私を……!)
突然の行動にマヤが頬を赤く染めていると、シュレンが己の膝から彼女を下ろす。そして
「……おはよう」
マヤにしか聞こえないくらいの声で囁くや否や、彼女が挨拶を返す前に
「お前たち!!起きろ!!雨が上がったぞ!!」
よく通る声で兵士たちを叩き起し、出発の準備を始める。
「これより城へ帰還する!!マヤ、しっかり掴まっていろよ!!」
「は、はい!!」
「……えっ、私も……ですか?」
驚きを含んだ声で返したのは、マヤ──シュレン率いる朱の軍団の紅一点だ。軍の物資管理に才を発揮し、今では後方支援全体を担いつつある。
「今回の遠征は長くなりそうだ。留守中にお前に何かあっては困るので俺の目の届く範囲に置いておきたい」
今まで前線に出たことの無い自分が、よりにもよってシュレン自ら赴くほどの戦いに同行するのは足手まといになるのではないか。それに、後方支援部隊から目を離すのも心配だ。そう思ったマヤは、なかなか頷くことができなかった。
「それに、」
シュレンは付け加える。
「最近はマヤ抜きでも支援部隊が機能するように色々と工夫しているだろう?その予行演習だと思えばいい」
自分1人が業務を掌握している今の状態では有事の際に総崩れになってしまう。それを危惧してマニュアルを作成したり、人員配置の見直しを行っていたのは事実だ。後方部隊のこんな試行錯誤まで把握しているとは……
マヤは戸惑いながらも、「承知しました」と返事を返した。
シュレンが運転するバイクの後ろに跨り、荒野を進む。両手は彼の肩に添えているが、舗装されていない道を速度制限無しで走るのだから心許ない。思わず上着を掴む手に力を入れると、それに気づいたシュレンがマヤの手を取り、自身の腰に回すよう誘導する。
シュレンの腰に後ろから抱きつく姿勢になっていることを理解した瞬間、マヤの頬は一気に熱を持った。彼にとっては落ちないようにと只の気遣いのつもりだろう。なのに。恋人みたいだなんて考えてしまう自分が恥ずかしい。
(フルフェイスのメットで良かった……)
「見えてきたな」
いつの間にやら前方に街が見えてきた。背の高い建物が並んでいて、なかなか大きな街のようだ──が、その予想はすぐに覆された。
街に入って暫くバイクを走らせても、人の気配が全くしないのだ。野盗を恐れて屋内に閉じこもっているのだろうか。
「きゃあぁあっ!!」
「俺の妻を……や、やめっ……ぎゃあぁ────ッッ!!」
突如、街中に断末魔が響く。中心部の広場を見やると、どことなく品の無い大男が若い女の髪を引っ掴んでいる。大男の足元には、女の夫と思しき男が血みどろで倒れ伏している。こいつがこの街を荒らしている奴か。
兵士の1人が、大男に向かって火矢を放つ。怯んだ隙に人質の女を奪還し、野盗達の前に立ちはだかる。
「あぁ?何だァテメェら」
「我らは朱の軍団!これ以上貴様らの好きにはさせぬ!」
路地からぞろぞろと野盗が現れ、まさに一触即発。
「マヤ、住民を安全な場所へ」
「はい!」
マヤはバイクからぴょこんと降りると、
「皆さん、こちらへ」
手慣れた様子で住民を鉄筋コンクリート造のビルに誘導する。全員の無事を確認したところで、塀の影からシュレンにハンドサインを送る。
「総員、戦闘態勢に入れ!」
シュレンが号令をかけると、兵士たちは一斉に武器を取り出し、エンジンを空吹かしする。
「かかれ!」
シュレン達は次々に襲い来る野盗を蹴散らし、ついに賊の頭らしい男の前に降り立った。
「貴様の穢れた野望、このシュレンが灰にしてくれるわ!!五車炎情拳!!」
野盗を鎮圧した後、住民から感謝のもてなしをしたいのでしばらく滞在してほしいとの要望を受け、シュレン達は街に数日滞在した。その間に怪我人の手当てや戦闘で崩壊した建物の修復を行い、街を去る頃には活気が戻りつつあった。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
マヤは街の出口まで見送りに来た住民たちと言葉を交わし、シュレンのバイクの後ろに乗り込む。
「よし、これより城へ帰還する!!」
城への帰路も後半に差し掛かった頃、突然雨が降ってきた。通り雨かと思ったが雨足は強さを増すばかりで、これ以上進むのは危険だという判断を下した。
「今日はこれ以上進めないな。あの洞窟で休むか」
(さ、寒い……!)
持参した上着に包まるが、降り続く雨に加えて完全に日が落ちた荒野には敵わない。他の兵士たちはすでに寝付いており、洞窟の中は静まり返っている。隣に座るシュレンを見上げると、こちらに気付いたのか目が合った。
「寒いか」
「す、少しだけ……」
少しで済んでいないのは一目瞭然だ。暗闇でも分かるくらい青ざめた顔に、ガタガタと震える歯の音まで聞こえている。シュレンは思わずマヤの肩を抱いて、自分の傍まで引き寄せた。それだけではなく、
「きゃっ……!シュ、シュレン様……!?」
肩と膝の裏に腕を回して抱き上げると、胡座の上にすっぽりと収める。
「こうしていた方が寒さが和らぐだろう」
「で、でもシュレン様のお身体が冷えてしまいます」
「問題ない。それより風邪でもひかれては帰路に差し障る」
シュレンは自分の身体を気遣ってくれるが、進軍に差し支えがあってはならないからであって、別に私に思うところがあるわけではないのだ。いちいちときめいてしまう自分が恥ずかしい。別に男に免疫が無いわけではない。核戦争以前はそれなりに付き合いもあったのに、この男には調子を狂わされてばかりだ。
(あったかい……)
マヤは様々な思いを巡らすも、人肌の温もりには勝てず、程なくしてシュレンの腕の中で眠りについた。
(あ、危なかった…)
シュレンは柄にも無く動揺した。あまりに寒そうにしていたものだから暖めてやろうと抱き上げた身体は羽のように軽く、自分の腕の中に収めてもまだ余裕があるほど小さかった。動揺を隠すために突き放すような言葉を吐いたが、マヤは傷ついてないだろうか。すやすやと眠る彼女を抱き締め、肩口に顔を埋めた。
「ん……」
洞窟の奥まで差し込んでくる柔らかい朝日にマヤは目を細めた。
後ろから自分を抱く逞しい腕と、背中に感じるぬくもりの持ち主は勿論。
「シュレン様、朝ですよ」
「ん……あぁ」
掠れた声で呟くと、まだ完全に覚醒していないのかマヤの二の腕をすりすりと擦る。
(こっ、この方はどこまで私を……!)
突然の行動にマヤが頬を赤く染めていると、シュレンが己の膝から彼女を下ろす。そして
「……おはよう」
マヤにしか聞こえないくらいの声で囁くや否や、彼女が挨拶を返す前に
「お前たち!!起きろ!!雨が上がったぞ!!」
よく通る声で兵士たちを叩き起し、出発の準備を始める。
「これより城へ帰還する!!マヤ、しっかり掴まっていろよ!!」
「は、はい!!」
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