花は桜、君は美し
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先輩。
そう呼べば、あの人は困ったように笑いながら俺のところへ来てくれる。
「おうおう、“先輩”だけじゃ誰か分からんぜ」
「何せこの教室にいる奴ァ全員おめーの“先輩”じゃからのう!」
やかましい、離れろ。あんたらじゃねえ。確かに学年がひとつ上だから先輩ではあるが、俺の“先輩”はあの人だけだ。
「お前ら、よさねえか」
力強いながらも透き通った声。長ランの群れをかき分けて、“先輩”がやってきた。
「俺のダチがいつもすまねえな、東郷」
「…… 桜木先輩」
男塾2号生・桜木マヤ先輩。総代に決闘を申し込んで完敗した俺を医務室へ運び込んで手当てしてくれたのが先輩だった。この世の地獄と名高い男塾でよく今まで生きてこられたと思わずにはいられない、中性的な顔立ちと華奢な身体。何もかもが鮮烈で、一瞬で惹きつけられた。それからというもの、俺は何かしらの理由をつけて(いや、特に理由は無くても)先輩に会いに行っている。
***
教室から連れ出した桜木先輩をバイクに乗せ、男塾から少し離れた河川敷にやって来た。いつからか、行きたい場所が特に無いときは毎回ここに来るようになっていた。
芝生に寝そべったまま横目で先輩の様子を伺うと、手持ち無沙汰なのかその辺に生えている花を摘んで編んでいる。男塾の中では小柄とはいえそれなりに体格の良い長ランの男が花冠を編んでいるのは何とも奇妙な光景だが、陽に照らされた真剣な横顔が綺麗で、目が離せなくなる。
「なぁ東郷」
突然先輩から声をかけられて、肩がびくりと跳ねる。
「お前、同級生とうまくいってねえのか?」
「は?」
予想外の質問に、思わず間の抜けた声が出た。
「授業終わるといっつも俺んとこくるじゃろ、だから……」
手元から視線を上げた先輩と目が合う。と同時に、学帽の上に何かが乗っかった。あぁ、花冠か。何で俺に被せんだよ、あんたの方が似合うだろ。
「お前がこうして一緒にいてくれるのは嬉しいがよ、もうちょいダチとつるむ時間も作った方がいいと思うぜ。何せ俺らは先に卒業──」
「──だからだよ」
引っ込めようとした手を掴み、先輩の身体を地面に押し倒す。そのまま覆い被されば、俺の頭に乗っていた花冠が先輩の頭に落ちる。ほら、やっぱりあんたの方が似合う。
「あんた、もうちょい自覚した方がいいぜ」
「じ、自覚……?」
何のことだかさっぱり分からないといった様子に、苛立ちが募る。勢いに任せて先輩の顎に指をかけ、そのまま自分の方へ引き寄せ──
「──痛ってェ!」
触れたのは唇じゃなく、学帽の鍔と先輩の額だった。痛え痛えと喚く先輩の姿に、一気に現実に引き戻される。
「とにかく、あんたにこういうことをしたいって思ってる奴がわんさかいる、ってことだ。気をつけな」
「バッカでぇ、野郎同士でンなこと……」
「少なくとも俺は、そうしたいと思ってる」
正面切って言ってやれば、整った顔がたちまち真っ赤に染まる。ダメ押しとばかりに近くに生えていた花を1本摘み取り、先輩の薬指に括りつけてやる。
「覚悟しとけよ、先輩」
そう呼べば、あの人は困ったように笑いながら俺のところへ来てくれる。
「おうおう、“先輩”だけじゃ誰か分からんぜ」
「何せこの教室にいる奴ァ全員おめーの“先輩”じゃからのう!」
やかましい、離れろ。あんたらじゃねえ。確かに学年がひとつ上だから先輩ではあるが、俺の“先輩”はあの人だけだ。
「お前ら、よさねえか」
力強いながらも透き通った声。長ランの群れをかき分けて、“先輩”がやってきた。
「俺のダチがいつもすまねえな、東郷」
「…… 桜木先輩」
男塾2号生・桜木マヤ先輩。総代に決闘を申し込んで完敗した俺を医務室へ運び込んで手当てしてくれたのが先輩だった。この世の地獄と名高い男塾でよく今まで生きてこられたと思わずにはいられない、中性的な顔立ちと華奢な身体。何もかもが鮮烈で、一瞬で惹きつけられた。それからというもの、俺は何かしらの理由をつけて(いや、特に理由は無くても)先輩に会いに行っている。
***
教室から連れ出した桜木先輩をバイクに乗せ、男塾から少し離れた河川敷にやって来た。いつからか、行きたい場所が特に無いときは毎回ここに来るようになっていた。
芝生に寝そべったまま横目で先輩の様子を伺うと、手持ち無沙汰なのかその辺に生えている花を摘んで編んでいる。男塾の中では小柄とはいえそれなりに体格の良い長ランの男が花冠を編んでいるのは何とも奇妙な光景だが、陽に照らされた真剣な横顔が綺麗で、目が離せなくなる。
「なぁ東郷」
突然先輩から声をかけられて、肩がびくりと跳ねる。
「お前、同級生とうまくいってねえのか?」
「は?」
予想外の質問に、思わず間の抜けた声が出た。
「授業終わるといっつも俺んとこくるじゃろ、だから……」
手元から視線を上げた先輩と目が合う。と同時に、学帽の上に何かが乗っかった。あぁ、花冠か。何で俺に被せんだよ、あんたの方が似合うだろ。
「お前がこうして一緒にいてくれるのは嬉しいがよ、もうちょいダチとつるむ時間も作った方がいいと思うぜ。何せ俺らは先に卒業──」
「──だからだよ」
引っ込めようとした手を掴み、先輩の身体を地面に押し倒す。そのまま覆い被されば、俺の頭に乗っていた花冠が先輩の頭に落ちる。ほら、やっぱりあんたの方が似合う。
「あんた、もうちょい自覚した方がいいぜ」
「じ、自覚……?」
何のことだかさっぱり分からないといった様子に、苛立ちが募る。勢いに任せて先輩の顎に指をかけ、そのまま自分の方へ引き寄せ──
「──痛ってェ!」
触れたのは唇じゃなく、学帽の鍔と先輩の額だった。痛え痛えと喚く先輩の姿に、一気に現実に引き戻される。
「とにかく、あんたにこういうことをしたいって思ってる奴がわんさかいる、ってことだ。気をつけな」
「バッカでぇ、野郎同士でンなこと……」
「少なくとも俺は、そうしたいと思ってる」
正面切って言ってやれば、整った顔がたちまち真っ赤に染まる。ダメ押しとばかりに近くに生えていた花を1本摘み取り、先輩の薬指に括りつけてやる。
「覚悟しとけよ、先輩」
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