勝利の女神様に口づけを
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2月14日、バレンタインデー。誰もが浮かれてカーニバルのスペシャル・デイは、超人委員会にも多大な影響を及ぼしていた。
宇宙超人委員会日本支部のとある一室で、苗字名前はチョコレートの山と対峙していた。
「ええと、キン肉マンにロビンマスク、バッファローマンでしょ……ぶ、ブラックホール多いな……!?」
趣向を凝らしたラッピングに添えられたメッセージをもとに、大量のチョコを宛先別に仕分けていく。バレンタイン以外にも超人たちに贈り物が届くことは度々あったが、この日は別格だ。特に三属性超人不可侵条約が締結された直後というだけあって悪魔超人への贈り物も増加し、名前はその仕分けと発送手続きに追われていた。
チョコレートの山が幾分か小さくなった頃、ひとつの包みが名前の目に留まる。シンプルながらも品の良い包装には、「ノックさんへ」と書き添えられていた。へえ、選手以外にも贈られてくるんだ。少し驚いたが、委員長やミートくんにも届いていたのでそういうこともあるのだろうと納得した。しかし──
(なーんか複雑かも……)
箱に掛けられたリボンを指でつつきながら、名前は面白くない気持ちになる。たしかにリングサイドで試合展開を見極める真剣な様子は恋人であるという贔屓目を抜きにしても格好良くて、各属性超人の存亡がかかった全面対抗戦に無くてはならない存在だ。そんなノックが人間たちに好意的に受け入れられているのは喜ばしいことだが、正直、恋人としては複雑な気持ちになってしまう。かといってこのチョコがノックの手に渡るのを阻止するのは送り主の思いを踏みにじることになる。それはそれ、これはこれだ。超人委員会の一員としての責任で気持ちに区切りをつけた名前が仕分け作業に戻ると、部屋の扉がガチャリと開いた。
「お疲れ様です」
声のする方に目をやると、そこにはノックが立っていた。今日は終日外出だと聞いていたから会えないだろうと思っていたのに。思わず立ち上がって駆け寄ると、ノックは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに微笑を浮かべる。
「直帰じゃなかったんですか?」
「そのつもりだったんですが、予定より早く用事が片付いたので……ほんの少しでも、名前さんに会えたらと思いまして」
不意に投げかけられた甘い言葉に、名前の頬が赤く染まる。
「もう……そんな調子の良いこと言っても何も出ませんよ」
誤魔化すようにそっけなく言ってみてもノックは優しく笑うだけで、ますます顔が熱くなる。手で頬を覆う名前を不思議そうに見つめてから、ノックは机に積み上げられたチョコレートの山に視線を移す。
「すごい量ですね」
「そうですね……超人たちの人気ぶりがよく分かります」
取り留めのない会話を交わしていると、ノックが「あっ!」と声を上げた。
「こ、これ、私宛ですか!?」
そう言って手に取ったのは、先程名前が見つけたチョコだった。
「バレンタインなんて、超人委員会で義理チョコ廃止されて以来貰ってませんでしたから……嬉しいなあ」
愛おしそうに包みを見つめるノックの姿に、胸の奥がざわめく。
「どうかしましたか?」
名前の様子がいつもと違うことに気づいたノックが首を傾げる。
「……何でもありません」
「何でもなかったらそんな顔しないでしょう。あっそうだ、よかったらお一つどうぞ」
いつの間に開封したのか、ノックは箱の中に整然と並んだチョコレートをつまんで名前に差し出す。しかも「はい、あーん」などと言って、完全に浮かれている。いくら恋人が自分の意思でやっているとはいえ、他の女(女と決まったわけではないが)から贈られたプレゼントを分け与えられるのは当然良い気分ではない。しかし労働で消耗した体が目の前の甘味を拒否できるはずもなく、名前は差し出されたチョコを口に含んだ。ほんのささやかな抵抗としてチョコをつまむ指先を軽く噛んでやると、ノックは僅かに顔を顰めた。
「痛っ……何するんですか」
「別に」
ふいとそっぽを向いた名前が再び仕分け作業に取り掛かる。ノックはぽかんとした様子で、彼女と自分の手元にあるチョコレートを交互に見やる。やがて合点がいったようで、ふ、と笑みを零した。
「名前さん……もしかして妬いてます?」
名前は背を向けたままだが、長い髪の隙間から覗く耳はほんのり赤い。ノックは口元を緩ませながら彼女の隣に立ち、顔を覗き込んだ。
「顔、真っ赤ですよ」
「うっ……」
図星を突かれてさらに赤くなる名前に、ノックはますます嬉しそうに笑う。
「いや〜、こんな匿名のチョコにやきもち妬くなんて、名前さんは可愛いなぁ」
「ち、違いますってば!」
照れ隠しに抗議の声を上げても、ノックはただ「可愛い可愛い」と笑っているだけで。
「もうっ!いい加減にしてください!」
なおもデレデレと頬を緩めるノックに思わず掴みかかろうと手を伸ばすが、その手はあっさりと絡め取られてしまう。
「確かに地球の人々から好意的に受け入れられているのは喜ばしいことですが、名前さんが好きでいてくれたら、私はそれで充分です」
「あ……」
ズルい、ズルすぎる。
真正面からそんなことを言われてしまえば、もう反撃する術は残されていない。今にも沸騰しそうな頭をフル回転させて、消え入りそうな声で必死に言葉を絞り出す。
「……ま、参りました……」
「な、何でギブアップしてるんですか!?名前さん、名前さーーん!!」
慌てふためくノックに両肩を揺さぶられながら、もう嫉妬なんてしない……と誓った名前であった。
宇宙超人委員会日本支部のとある一室で、苗字名前はチョコレートの山と対峙していた。
「ええと、キン肉マンにロビンマスク、バッファローマンでしょ……ぶ、ブラックホール多いな……!?」
趣向を凝らしたラッピングに添えられたメッセージをもとに、大量のチョコを宛先別に仕分けていく。バレンタイン以外にも超人たちに贈り物が届くことは度々あったが、この日は別格だ。特に三属性超人不可侵条約が締結された直後というだけあって悪魔超人への贈り物も増加し、名前はその仕分けと発送手続きに追われていた。
チョコレートの山が幾分か小さくなった頃、ひとつの包みが名前の目に留まる。シンプルながらも品の良い包装には、「ノックさんへ」と書き添えられていた。へえ、選手以外にも贈られてくるんだ。少し驚いたが、委員長やミートくんにも届いていたのでそういうこともあるのだろうと納得した。しかし──
(なーんか複雑かも……)
箱に掛けられたリボンを指でつつきながら、名前は面白くない気持ちになる。たしかにリングサイドで試合展開を見極める真剣な様子は恋人であるという贔屓目を抜きにしても格好良くて、各属性超人の存亡がかかった全面対抗戦に無くてはならない存在だ。そんなノックが人間たちに好意的に受け入れられているのは喜ばしいことだが、正直、恋人としては複雑な気持ちになってしまう。かといってこのチョコがノックの手に渡るのを阻止するのは送り主の思いを踏みにじることになる。それはそれ、これはこれだ。超人委員会の一員としての責任で気持ちに区切りをつけた名前が仕分け作業に戻ると、部屋の扉がガチャリと開いた。
「お疲れ様です」
声のする方に目をやると、そこにはノックが立っていた。今日は終日外出だと聞いていたから会えないだろうと思っていたのに。思わず立ち上がって駆け寄ると、ノックは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに微笑を浮かべる。
「直帰じゃなかったんですか?」
「そのつもりだったんですが、予定より早く用事が片付いたので……ほんの少しでも、名前さんに会えたらと思いまして」
不意に投げかけられた甘い言葉に、名前の頬が赤く染まる。
「もう……そんな調子の良いこと言っても何も出ませんよ」
誤魔化すようにそっけなく言ってみてもノックは優しく笑うだけで、ますます顔が熱くなる。手で頬を覆う名前を不思議そうに見つめてから、ノックは机に積み上げられたチョコレートの山に視線を移す。
「すごい量ですね」
「そうですね……超人たちの人気ぶりがよく分かります」
取り留めのない会話を交わしていると、ノックが「あっ!」と声を上げた。
「こ、これ、私宛ですか!?」
そう言って手に取ったのは、先程名前が見つけたチョコだった。
「バレンタインなんて、超人委員会で義理チョコ廃止されて以来貰ってませんでしたから……嬉しいなあ」
愛おしそうに包みを見つめるノックの姿に、胸の奥がざわめく。
「どうかしましたか?」
名前の様子がいつもと違うことに気づいたノックが首を傾げる。
「……何でもありません」
「何でもなかったらそんな顔しないでしょう。あっそうだ、よかったらお一つどうぞ」
いつの間に開封したのか、ノックは箱の中に整然と並んだチョコレートをつまんで名前に差し出す。しかも「はい、あーん」などと言って、完全に浮かれている。いくら恋人が自分の意思でやっているとはいえ、他の女(女と決まったわけではないが)から贈られたプレゼントを分け与えられるのは当然良い気分ではない。しかし労働で消耗した体が目の前の甘味を拒否できるはずもなく、名前は差し出されたチョコを口に含んだ。ほんのささやかな抵抗としてチョコをつまむ指先を軽く噛んでやると、ノックは僅かに顔を顰めた。
「痛っ……何するんですか」
「別に」
ふいとそっぽを向いた名前が再び仕分け作業に取り掛かる。ノックはぽかんとした様子で、彼女と自分の手元にあるチョコレートを交互に見やる。やがて合点がいったようで、ふ、と笑みを零した。
「名前さん……もしかして妬いてます?」
名前は背を向けたままだが、長い髪の隙間から覗く耳はほんのり赤い。ノックは口元を緩ませながら彼女の隣に立ち、顔を覗き込んだ。
「顔、真っ赤ですよ」
「うっ……」
図星を突かれてさらに赤くなる名前に、ノックはますます嬉しそうに笑う。
「いや〜、こんな匿名のチョコにやきもち妬くなんて、名前さんは可愛いなぁ」
「ち、違いますってば!」
照れ隠しに抗議の声を上げても、ノックはただ「可愛い可愛い」と笑っているだけで。
「もうっ!いい加減にしてください!」
なおもデレデレと頬を緩めるノックに思わず掴みかかろうと手を伸ばすが、その手はあっさりと絡め取られてしまう。
「確かに地球の人々から好意的に受け入れられているのは喜ばしいことですが、名前さんが好きでいてくれたら、私はそれで充分です」
「あ……」
ズルい、ズルすぎる。
真正面からそんなことを言われてしまえば、もう反撃する術は残されていない。今にも沸騰しそうな頭をフル回転させて、消え入りそうな声で必死に言葉を絞り出す。
「……ま、参りました……」
「な、何でギブアップしてるんですか!?名前さん、名前さーーん!!」
慌てふためくノックに両肩を揺さぶられながら、もう嫉妬なんてしない……と誓った名前であった。
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