全部終わったら
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『テュオハリム様、このあとレネギス第一地区で地区長さまと面会です』
「ああ、わかっている。もう出る時間か?」
『はい』
「では、行こうか」
アルフェン一行との旅を終えたあと、テュオハリムは休む間もなくレナとダナの共存に向けて動き始めた。
アルフェンとシオンのように少しはゆっくりすればいいのにと思ったものの、「動いていないと落ち着かない」と言って聞かなかった。
じっとしていると罪ばかり思い出して死にたくなるのだという。
動くことで、自分の生きる意味を、生きていい意味を実感できるのだという
彼に罪なんてないのに
そう言っても、「レナ人にダナへの罪が消えることはない」とおそらく彼は言うだろう
『すみません、留守をお願いします。』
「ええ、任せてください!テュオハリム様とヤスユキさんもお気をつけて。」
『ああ、あとごめんなさい、昨日テュオハリム様が使ったグラス洗っておいてもらって良いですか?夜中にワインあけてたみたいで、グラス置きっぱなしなのもさっき気づいて…』
「承知しました、やっておきますよ。完璧秘書のヤスユキさんでも、夜中にされちゃあお世話しきれませんよね!」
はははと笑いながら同僚に雑務を頼んだ
私はというと、アルフェン一行との旅のあと、テュオハリムと共にダナとレナの共存に向けて動いていた
表向きはただの秘書
テュオハリムは弁が立つし、得意のたらし技で皆を飲み込むことで目的はとても順調に進んでいる
ただ細かいことが少々苦手なのと、たまに卑屈になるので、私が彼自身をサポートしているのだ
「ヤスユキ」
『なんですか、テュオハリム様』
「私と2人きりではないか、テュオと呼んでおくれよ」
『…誰が聞いてるか分からないじゃないですか』
「うむ…そうか。」
テュオハリムは少し不満そうに私から視線を外した
テュオハリムと私の関係は公にはしていない
テュオハリム自身の人気が下がるし、面倒だし、なにより世間に私自身が「テュオハリムの女」として批評されるのが怖い
「私も大概であるから人のことを言えたものではないが、君は相当卑屈だな」
『何の話ですか?』
「私の女としてもっと堂々としてよいということよ」
『っっは…!?』
テュオハリムは笑みを浮かべながら、歩調を落とす私を尻目にさっさと歩き出す
「私も面倒なのだぞ、レナの事務所にも、ダナのそれにも、陳情書に混ざって愛を綴った文が絶えん。」
『やっぱり仕分けた方が良いですか?前、全部読むって』
「読むさ、読むとも。私への想いを蔑ろにするわけにはいかん。ただ、ちょっと量がな…」
眉間に皺を寄せながらそう言った
『嫌ですよ、私がテュオハリムの、その、一緒にいるなんて公表したら、誰になにを言われるか…』
「だからそういうところが卑屈だと……いや、君が不安になるならいっそ…」
『いっそ?』
テュオハリムは何か言いかけて、途中で口をつぐんだ
「いや、何でもない。こんなところでする話ではないな」
『そうですか
そろそろ着きますね、シャキッとしてください』
「言われなくとも」
地区長との面会は無事に終わった
レナ人のダナへの移住が、一部ではあるが、ようやく本格的に始まる
レナ人の反発は確かにある。だが、このレネギスの安全が保証できない以上、強く出れないのもレナ人の本音であった
「はあ、疲れたな。第一地区長殿は少々話が長すぎる。加減というものを覚えてほしいものだ」
テュオハリムは肩を回しながらふぅ、とため息をついた
『お疲れ様でした、今日の予定は終わりですね。出来れば明日の第五地区の移住説明会の資料を確認してもらいたかったですが、まあ、会は午後ですし明日の午前中でも大丈夫ですかね』
私はスケジュールの書いてある端末を確認した
「もう全部明日で良い、いいから、今日は早く帰ろう」
『あ、ええ、はい』
珍しくテュオハリムは帰宅への足を急いだ
その早足に私も続いた
テュオハリムの自宅、といっても、事務所と繋がった小さな建物だ
なんだかんだあって一緒に住んでいるが、ファン達に怪しまれないのは助かっている
「はあ、ただいま帰ったぞ、我が憩いの場所よ」
『馬鹿言ってないで、今日使った荷物ちゃんと片付けといてね』
「ヤスユキ、そこ、荷物置いて、こっちに」
テュオハリムが部屋の真ん中で手招きする
なんだろうかと不思議に思いながらも、私は荷物を置いてテュオハリムのもとに歩み寄る
「今日も、お疲れ様」
『っ!』
優しく囁いたかと思うと、テュオハリムはぎゅうと私を抱き締めた
「てゅ、テュオ、どうしたの急に」
『恋人を抱き締めるのに理由がいるのかね?』
「そ、そういうわけじゃないけど…」
はあ、落ち着くと呟きながら彼は頭をぐりぐりと私の首筋に埋める
身長差のせいで、彼に抱き締められるとわたしの頭まですっぽりと覆い被さられてしまう
彼のさらりとしたウェーブの赤髪がくすぐったい
私もそっと彼の背中に手を回した
「…不安がよぎったのだよ」
彼は小さな声で話し始めた
「地区長殿、レナ人地区に対してダナ地区を割り振るようなことは出来ないのかと最初言っていただろう?
おそらく、無意識だ。彼のなかではまだ、ダナはレナに隷属しているんだ。」
『…はい』
「言葉を選んで諭したつもりだが、その後わたしはダナ人に殺されやしまいかとまで言い始めるではないか、はあ、まったく…」
彼の小さなため息が、わたしの耳元を横切った
『地区長さまの言葉に気分を害されたのですか?』
「違う……って、敬語に戻っているぞ、ああ、仕事の話をしているせいか」
『ごめん、癖で』
「いやね、地区長殿の考え方は仕方ないことだと思う。これはもう永い年月をかけてレナに染み付いた'常識'なんだ。これからまた永い年月をかけて塗り替えるしかない」
『…うん』
「ダナ人に殺されやしまいか、これを、私は彼に、絶対にないと約束することが出来なかった」
私を抱き締めるテュオハリムの力が、少しだけ強くなった
『テュオに責任はないよ、レナの一人をダナの一人がどう思うか、ただそれだけ。私たちは、それが円滑にいくようサポートするだけ。そうでしょう?』
私はテュオハリムの背中をぽんぽんとたたいた
テュオハリムは「んんん」と唸るだけ
『それに、キサラがいるから大丈夫ですよ。混乱が起きづらいように、最初の移住地区はメナンシアに置いたわけですし。
きっとヴィスキントのレナ人達とキサラがうまくやってくれます』
「…そうだな」
テュオハリムの息遣いが少しだけ落ち着いた
『辛くなったら、今みたいにいつでも私に逃げてきていいですから』
「ふ、君には敵わんな
キサラに対しても思っていたが、君も本当に…」
テュオハリムは体を離して私を見つめた
「ありがとう、ヤスユキ」
少し潤んだ瞳とわずかに揺れる彼の前髪に見とれていたら
そっと顔が近づき口づけされた
「なあ、ヤスユキ。全部終わったら、結婚しようか」
『……!?っえ!?』
テュオハリムは私の肩に手を置いて目を細めて笑ってそう言った
『きゅ、急にどうしたんですか?、っ?け、けっこん?わたしが?だれと?』
突然の言葉に私は驚き戸惑った
「この私以外に誰がいるというのだ。なんだ君、私以外に慕う輩でもいるのかね?」
顎に手を当てながら不満そうな目で私をみる
『いるわけない!私はテュオ一筋だって!……っ』
我ながら恥ずかしい台詞が飛び出す
「ふふ、安心したよ。今は口約束ですまないがね。これで多少は自信がついたかね?」
自信がついたかね?と言いながらテュオハリム自身が一番自信げだ
『ふふ、ありがとう、テュオ。嬉しい。』
「いずれ時が来れば、正式に、盛大に婚姻を申し込ませてもらおう。イルルケリス家の人間として恥じないような、ね」
『えええ、いや、そこそこでいいよ…』
大きな御家との婚姻とか、ちょっと、そういう意味での恐ろしさあるけれど
今は純粋に彼の気持ちがうれしかった。
「さあ、もう寝よう、今日は本当に疲れた。今日は君が添い寝してくれると信じているぞ?」
『しょうがないなあ……ところでテュオ、ちょっと話が戻るんだけど』
「何かね?」
『全部終わったら、っていつ?レナ人の移住が軌道に乗ったら?全部おわったら?ダナとレナが共存出来たら?』
「そうさな……」
『はは、噓でしょ』
どうやら私たちの道のりはまだまだ遠そうだ。
「ああ、わかっている。もう出る時間か?」
『はい』
「では、行こうか」
アルフェン一行との旅を終えたあと、テュオハリムは休む間もなくレナとダナの共存に向けて動き始めた。
アルフェンとシオンのように少しはゆっくりすればいいのにと思ったものの、「動いていないと落ち着かない」と言って聞かなかった。
じっとしていると罪ばかり思い出して死にたくなるのだという。
動くことで、自分の生きる意味を、生きていい意味を実感できるのだという
彼に罪なんてないのに
そう言っても、「レナ人にダナへの罪が消えることはない」とおそらく彼は言うだろう
『すみません、留守をお願いします。』
「ええ、任せてください!テュオハリム様とヤスユキさんもお気をつけて。」
『ああ、あとごめんなさい、昨日テュオハリム様が使ったグラス洗っておいてもらって良いですか?夜中にワインあけてたみたいで、グラス置きっぱなしなのもさっき気づいて…』
「承知しました、やっておきますよ。完璧秘書のヤスユキさんでも、夜中にされちゃあお世話しきれませんよね!」
はははと笑いながら同僚に雑務を頼んだ
私はというと、アルフェン一行との旅のあと、テュオハリムと共にダナとレナの共存に向けて動いていた
表向きはただの秘書
テュオハリムは弁が立つし、得意のたらし技で皆を飲み込むことで目的はとても順調に進んでいる
ただ細かいことが少々苦手なのと、たまに卑屈になるので、私が彼自身をサポートしているのだ
「ヤスユキ」
『なんですか、テュオハリム様』
「私と2人きりではないか、テュオと呼んでおくれよ」
『…誰が聞いてるか分からないじゃないですか』
「うむ…そうか。」
テュオハリムは少し不満そうに私から視線を外した
テュオハリムと私の関係は公にはしていない
テュオハリム自身の人気が下がるし、面倒だし、なにより世間に私自身が「テュオハリムの女」として批評されるのが怖い
「私も大概であるから人のことを言えたものではないが、君は相当卑屈だな」
『何の話ですか?』
「私の女としてもっと堂々としてよいということよ」
『っっは…!?』
テュオハリムは笑みを浮かべながら、歩調を落とす私を尻目にさっさと歩き出す
「私も面倒なのだぞ、レナの事務所にも、ダナのそれにも、陳情書に混ざって愛を綴った文が絶えん。」
『やっぱり仕分けた方が良いですか?前、全部読むって』
「読むさ、読むとも。私への想いを蔑ろにするわけにはいかん。ただ、ちょっと量がな…」
眉間に皺を寄せながらそう言った
『嫌ですよ、私がテュオハリムの、その、一緒にいるなんて公表したら、誰になにを言われるか…』
「だからそういうところが卑屈だと……いや、君が不安になるならいっそ…」
『いっそ?』
テュオハリムは何か言いかけて、途中で口をつぐんだ
「いや、何でもない。こんなところでする話ではないな」
『そうですか
そろそろ着きますね、シャキッとしてください』
「言われなくとも」
地区長との面会は無事に終わった
レナ人のダナへの移住が、一部ではあるが、ようやく本格的に始まる
レナ人の反発は確かにある。だが、このレネギスの安全が保証できない以上、強く出れないのもレナ人の本音であった
「はあ、疲れたな。第一地区長殿は少々話が長すぎる。加減というものを覚えてほしいものだ」
テュオハリムは肩を回しながらふぅ、とため息をついた
『お疲れ様でした、今日の予定は終わりですね。出来れば明日の第五地区の移住説明会の資料を確認してもらいたかったですが、まあ、会は午後ですし明日の午前中でも大丈夫ですかね』
私はスケジュールの書いてある端末を確認した
「もう全部明日で良い、いいから、今日は早く帰ろう」
『あ、ええ、はい』
珍しくテュオハリムは帰宅への足を急いだ
その早足に私も続いた
テュオハリムの自宅、といっても、事務所と繋がった小さな建物だ
なんだかんだあって一緒に住んでいるが、ファン達に怪しまれないのは助かっている
「はあ、ただいま帰ったぞ、我が憩いの場所よ」
『馬鹿言ってないで、今日使った荷物ちゃんと片付けといてね』
「ヤスユキ、そこ、荷物置いて、こっちに」
テュオハリムが部屋の真ん中で手招きする
なんだろうかと不思議に思いながらも、私は荷物を置いてテュオハリムのもとに歩み寄る
「今日も、お疲れ様」
『っ!』
優しく囁いたかと思うと、テュオハリムはぎゅうと私を抱き締めた
「てゅ、テュオ、どうしたの急に」
『恋人を抱き締めるのに理由がいるのかね?』
「そ、そういうわけじゃないけど…」
はあ、落ち着くと呟きながら彼は頭をぐりぐりと私の首筋に埋める
身長差のせいで、彼に抱き締められるとわたしの頭まですっぽりと覆い被さられてしまう
彼のさらりとしたウェーブの赤髪がくすぐったい
私もそっと彼の背中に手を回した
「…不安がよぎったのだよ」
彼は小さな声で話し始めた
「地区長殿、レナ人地区に対してダナ地区を割り振るようなことは出来ないのかと最初言っていただろう?
おそらく、無意識だ。彼のなかではまだ、ダナはレナに隷属しているんだ。」
『…はい』
「言葉を選んで諭したつもりだが、その後わたしはダナ人に殺されやしまいかとまで言い始めるではないか、はあ、まったく…」
彼の小さなため息が、わたしの耳元を横切った
『地区長さまの言葉に気分を害されたのですか?』
「違う……って、敬語に戻っているぞ、ああ、仕事の話をしているせいか」
『ごめん、癖で』
「いやね、地区長殿の考え方は仕方ないことだと思う。これはもう永い年月をかけてレナに染み付いた'常識'なんだ。これからまた永い年月をかけて塗り替えるしかない」
『…うん』
「ダナ人に殺されやしまいか、これを、私は彼に、絶対にないと約束することが出来なかった」
私を抱き締めるテュオハリムの力が、少しだけ強くなった
『テュオに責任はないよ、レナの一人をダナの一人がどう思うか、ただそれだけ。私たちは、それが円滑にいくようサポートするだけ。そうでしょう?』
私はテュオハリムの背中をぽんぽんとたたいた
テュオハリムは「んんん」と唸るだけ
『それに、キサラがいるから大丈夫ですよ。混乱が起きづらいように、最初の移住地区はメナンシアに置いたわけですし。
きっとヴィスキントのレナ人達とキサラがうまくやってくれます』
「…そうだな」
テュオハリムの息遣いが少しだけ落ち着いた
『辛くなったら、今みたいにいつでも私に逃げてきていいですから』
「ふ、君には敵わんな
キサラに対しても思っていたが、君も本当に…」
テュオハリムは体を離して私を見つめた
「ありがとう、ヤスユキ」
少し潤んだ瞳とわずかに揺れる彼の前髪に見とれていたら
そっと顔が近づき口づけされた
「なあ、ヤスユキ。全部終わったら、結婚しようか」
『……!?っえ!?』
テュオハリムは私の肩に手を置いて目を細めて笑ってそう言った
『きゅ、急にどうしたんですか?、っ?け、けっこん?わたしが?だれと?』
突然の言葉に私は驚き戸惑った
「この私以外に誰がいるというのだ。なんだ君、私以外に慕う輩でもいるのかね?」
顎に手を当てながら不満そうな目で私をみる
『いるわけない!私はテュオ一筋だって!……っ』
我ながら恥ずかしい台詞が飛び出す
「ふふ、安心したよ。今は口約束ですまないがね。これで多少は自信がついたかね?」
自信がついたかね?と言いながらテュオハリム自身が一番自信げだ
『ふふ、ありがとう、テュオ。嬉しい。』
「いずれ時が来れば、正式に、盛大に婚姻を申し込ませてもらおう。イルルケリス家の人間として恥じないような、ね」
『えええ、いや、そこそこでいいよ…』
大きな御家との婚姻とか、ちょっと、そういう意味での恐ろしさあるけれど
今は純粋に彼の気持ちがうれしかった。
「さあ、もう寝よう、今日は本当に疲れた。今日は君が添い寝してくれると信じているぞ?」
『しょうがないなあ……ところでテュオ、ちょっと話が戻るんだけど』
「何かね?」
『全部終わったら、っていつ?レナ人の移住が軌道に乗ったら?全部おわったら?ダナとレナが共存出来たら?』
「そうさな……」
『はは、噓でしょ』
どうやら私たちの道のりはまだまだ遠そうだ。
1/1ページ