業魔のトラウマ
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俺は今、一人の女に執着している
しかし、そいつはなかなか振り向いてくれない
そいつとの出会いは突然だった
漂流していた一人の女を引き上げたと思ったら、此処に置いてくれと女は言った
「生きたい」のだという
彼女の暮らしていた小さな島は業魔病━━穢れに犯され、生き残った人間達は船で島を脱したが、船上でも業魔が出現し、生き残るために船から飛び降りたという
『お願いします!家事全般なら出来ます!ほかの仕事も、すぐ覚えます!此処に置いてください!』
「だがなぁ嬢ちゃん…どっかの街に降ろしてやることも出来るぜ?こんな不法集団…しかも男所帯にいるよりは…」
アイフリードが半笑いでそう言ったのをよく覚えている
『えっ、あ、えっと……』
「まあまあ船長!いいじゃないですか!」
ベンウィックのその一声で、其の女、トシユキはバンエルティアに乗った
死神の呪いの説明をしても、彼女の意思は揺らがなかった
トシユキは家事が得意だった
「お前、これひとりでやったのか?」
汚れと生ゴミで汚く散らかっていた台所は綺麗になり、埃まみれで私物の広がった大広間もさっぱりとしていた
『ちょっと……疲れました』
「お前……本当にすごいな、あれ、なんか良いにおいが…」
ベンウィックが鼻をひくひくさせた
『ああ、カレー、煮込んでます。船長に飯も頼むって言われたので』
「お…お前マジか…」
しれっとそんなことをいうトシユキに対して、アイフリード海賊団の船員達は少しだけ恐れを抱いた
俺が彼女に堕ちたのは、彼女が幾分船に慣れたときだった
彼女は、俺のカーラーン金貨に興味をもったのだ
『……副長、副長がいつも持ってるそれ…何なんですか?』
「ん?これか?これはカーラーン金貨と言ってな、特殊な…」
『なんで毎日コイントスしてるんですか?』
「ん?ま、まあ…もう癖みたいなもんだな。死神の呪いの話は前にしただろ?そのせいで、何度やっても裏しかでないんだ」
『えっ…そ、そんなことが…?』
トシユキは信じられないという顔をしたので、4,5回コイントスを目の前でしてやった
『わぁっ…!ふふっ』
「………!」
そのときだった
いつも大人しく無表情で仕事をこなす彼女が
誰かと話すときも、小さく笑うだけの彼女が
白い歯を見せてくしゃっと笑ったのだ
普段と違う彼女を見て
俺は、またこの顔が見たい
俺のそばで、今みたいに笑ってほしいと思ったんだ
「なぁ、トシユキ」
『はい、なんですか副長』
俺はそれ以来トシユキにやたらと話しかけるようになった
聖隷術を見せてやったり、古い遺跡の話をしてやったり
しかし、あのときのような笑顔はなかなか見られなかった
「副長、トシユキにご執心だよなあ」
「ほんとほんと、でもトシユキが無表情すぎて、副長が不憫だぜ。」
「愛想が悪い訳じゃないんだけど、なんていうか、感情をあまり外に出さないよな」
船員はアイゼンとトシユキに対して、こう口ずさんだ
ゼクソン港につき、アイフリード海賊団が各々自由な時間を過ごすときがあった
『………』
「どうした、トシユキ、おまえはどこかいかないのか?」
『………なにすればいいか、わからなくて。掃除でもしてればいいですかね?』
「あぁ?こんなときまでそんなことしてなくていいんだよ……そうだ、俺と一緒にくるか」
『いえ………副長の時間を割くのはだめです』
あくまでトシユキは無表情だ
「………ったく、じゃあ言い方を変えよう。俺はトシユキと一緒に行きたいんだが、俺のためにお前の時間を割いてくれないか?」
『っ…!』
トシユキは少しだけ目を見開いたあと
小さく頷いた
「ローグレスに行こうと思うんだが」
『……王都、ですね、わたし行ったことないです』
「ふっ、そうか、じゃあ俺が案内してやらないとな」
賑わうゼクソン港を足早に、門を抜ける
「ダーナ街道を抜ければすぐローグレスだ、少し業魔も彷徨いてるが、まあ大丈夫だろう…………、トシユキ、どうした?」
気付くと隣のトシユキは、少しだけ体を震わせていた
『あっ、す、すいません、なんでもないです、早く行きましょう?』
いつもなら腕試しがてら業魔を蹴散らしながら行くのだが、トシユキがいるし、そうはいかない
いつの間にかコートの裾をつかんでいるトシユキがなんとも可愛らしく見えたが、当人には余裕が微塵も感じられない
斜め後ろを見ると、一匹の業魔が此方を狙っているように見えた
『ふ……副長…………業魔、此方見てません?』
「そうだな………トシユキ、少し走るぞ」
『へっ、!あっ、』
ばたんっ
手を引いて走ろうとしたその瞬間、トシユキは石に躓いて転んでしまった
それを見計らってか、業魔が隙ありとばかりに飛び上がってきた
『っっ、……!』
「トシユキ!危ない!」
飛びかかってきた業魔を紙一重で殴り飛ばす
「トシユキ、立てるか?」
『はぁ、はぁ………』
どうやら足がすくんで動けないように見える
呼吸も乱れ、過呼吸気味だ
他の業魔も、にじりにじりと寄ってきている
「トシユキ、掴まれ」
『え?』
ひょい、とお姫様だっこをして、街道を駆け抜けた
こいつ軽すぎだろ、なんて思いながら
なんなくローグレスの門をくぐり抜け、木陰のベンチにトシユキを降ろす
「すまん、大丈夫か?」
『謝るのはわたしのほうです……ごめんなさい……』
うつむいて潤んだ瞳を隠しながら涙声で話すトシユキ
「すまん、怖い思いをさせたな」
『ごめんなさい………あのとき、全然、足動かなくて……いつもなら、早く走れるのに………つまみ食いしたベンウィックさんを走って捕まえられるくらいなのに……』
「慣れないことをさせた俺の責任だ」
震える肩を抱いて頭を引き寄せると、トシユキは大人しく俺の胸に寄りかかってきた
嗚咽混じりに鼻をすするトシユキの背中をさすってやる
思わぬ収穫だ、なんてこんな状況で不謹慎なことを考えながら
他の船員が誰もいないところで、トシユキを独り占めしているのは悪い気分ではなかった
『……わたし、業魔に村をやられて、逃げ出した船のうえでも、殺されそうになったから………多分、トラウマになってるんだと思います…』
「…俺が守ってやるよ」
『え?』
驚いたように顔をあげたトシユキの目は真っ赤だった
「お前に近付く業魔は、俺が全部蹴散らしてやるよ。俺が、ずっとお前のそばに居てやるから、俺が、ずっとお前を守る」
『ふ、副長…………??え、えっと、そ、それ、告白みたいに聞こえるんですけど……?』
「告白だが」
『えっ、えええ!!』
トシユキは咄嗟に体を離した
目だけでなく頬まで真っ赤にして
「なんだよ、散々俺の胸で泣いておいてその反応は」
『こ、困ります副長……わたし、そんな………そういうの……』
「……トシユキ」
『っ…、』
そっとトシユキの手を取る
「俺の、側にいてくれないか」
小さく頷いた彼女が、そっと笑った
それは、あのとき見た笑顔とは少し違ったが
彼女の笑顔を、ずっと見ていたいと、やはり思ったんだ
たまらず彼女をぎゅっと抱き締めて
『いっ、痛いですよ副長……』
「名前で呼んでくれ」
『そ、そんな、恥ずかしいですよ』
「二人きりの時だけでいい、だから」
『………わかりましたよ、アイゼン、さん』
彼女の笑顔を守ろう
彼女が業魔におびえないように
彼女が涙を流さないように
俺が、側にいて彼女を守ろう
そう、誓ったんだ
しかし、そいつはなかなか振り向いてくれない
そいつとの出会いは突然だった
漂流していた一人の女を引き上げたと思ったら、此処に置いてくれと女は言った
「生きたい」のだという
彼女の暮らしていた小さな島は業魔病━━穢れに犯され、生き残った人間達は船で島を脱したが、船上でも業魔が出現し、生き残るために船から飛び降りたという
『お願いします!家事全般なら出来ます!ほかの仕事も、すぐ覚えます!此処に置いてください!』
「だがなぁ嬢ちゃん…どっかの街に降ろしてやることも出来るぜ?こんな不法集団…しかも男所帯にいるよりは…」
アイフリードが半笑いでそう言ったのをよく覚えている
『えっ、あ、えっと……』
「まあまあ船長!いいじゃないですか!」
ベンウィックのその一声で、其の女、トシユキはバンエルティアに乗った
死神の呪いの説明をしても、彼女の意思は揺らがなかった
トシユキは家事が得意だった
「お前、これひとりでやったのか?」
汚れと生ゴミで汚く散らかっていた台所は綺麗になり、埃まみれで私物の広がった大広間もさっぱりとしていた
『ちょっと……疲れました』
「お前……本当にすごいな、あれ、なんか良いにおいが…」
ベンウィックが鼻をひくひくさせた
『ああ、カレー、煮込んでます。船長に飯も頼むって言われたので』
「お…お前マジか…」
しれっとそんなことをいうトシユキに対して、アイフリード海賊団の船員達は少しだけ恐れを抱いた
俺が彼女に堕ちたのは、彼女が幾分船に慣れたときだった
彼女は、俺のカーラーン金貨に興味をもったのだ
『……副長、副長がいつも持ってるそれ…何なんですか?』
「ん?これか?これはカーラーン金貨と言ってな、特殊な…」
『なんで毎日コイントスしてるんですか?』
「ん?ま、まあ…もう癖みたいなもんだな。死神の呪いの話は前にしただろ?そのせいで、何度やっても裏しかでないんだ」
『えっ…そ、そんなことが…?』
トシユキは信じられないという顔をしたので、4,5回コイントスを目の前でしてやった
『わぁっ…!ふふっ』
「………!」
そのときだった
いつも大人しく無表情で仕事をこなす彼女が
誰かと話すときも、小さく笑うだけの彼女が
白い歯を見せてくしゃっと笑ったのだ
普段と違う彼女を見て
俺は、またこの顔が見たい
俺のそばで、今みたいに笑ってほしいと思ったんだ
「なぁ、トシユキ」
『はい、なんですか副長』
俺はそれ以来トシユキにやたらと話しかけるようになった
聖隷術を見せてやったり、古い遺跡の話をしてやったり
しかし、あのときのような笑顔はなかなか見られなかった
「副長、トシユキにご執心だよなあ」
「ほんとほんと、でもトシユキが無表情すぎて、副長が不憫だぜ。」
「愛想が悪い訳じゃないんだけど、なんていうか、感情をあまり外に出さないよな」
船員はアイゼンとトシユキに対して、こう口ずさんだ
ゼクソン港につき、アイフリード海賊団が各々自由な時間を過ごすときがあった
『………』
「どうした、トシユキ、おまえはどこかいかないのか?」
『………なにすればいいか、わからなくて。掃除でもしてればいいですかね?』
「あぁ?こんなときまでそんなことしてなくていいんだよ……そうだ、俺と一緒にくるか」
『いえ………副長の時間を割くのはだめです』
あくまでトシユキは無表情だ
「………ったく、じゃあ言い方を変えよう。俺はトシユキと一緒に行きたいんだが、俺のためにお前の時間を割いてくれないか?」
『っ…!』
トシユキは少しだけ目を見開いたあと
小さく頷いた
「ローグレスに行こうと思うんだが」
『……王都、ですね、わたし行ったことないです』
「ふっ、そうか、じゃあ俺が案内してやらないとな」
賑わうゼクソン港を足早に、門を抜ける
「ダーナ街道を抜ければすぐローグレスだ、少し業魔も彷徨いてるが、まあ大丈夫だろう…………、トシユキ、どうした?」
気付くと隣のトシユキは、少しだけ体を震わせていた
『あっ、す、すいません、なんでもないです、早く行きましょう?』
いつもなら腕試しがてら業魔を蹴散らしながら行くのだが、トシユキがいるし、そうはいかない
いつの間にかコートの裾をつかんでいるトシユキがなんとも可愛らしく見えたが、当人には余裕が微塵も感じられない
斜め後ろを見ると、一匹の業魔が此方を狙っているように見えた
『ふ……副長…………業魔、此方見てません?』
「そうだな………トシユキ、少し走るぞ」
『へっ、!あっ、』
ばたんっ
手を引いて走ろうとしたその瞬間、トシユキは石に躓いて転んでしまった
それを見計らってか、業魔が隙ありとばかりに飛び上がってきた
『っっ、……!』
「トシユキ!危ない!」
飛びかかってきた業魔を紙一重で殴り飛ばす
「トシユキ、立てるか?」
『はぁ、はぁ………』
どうやら足がすくんで動けないように見える
呼吸も乱れ、過呼吸気味だ
他の業魔も、にじりにじりと寄ってきている
「トシユキ、掴まれ」
『え?』
ひょい、とお姫様だっこをして、街道を駆け抜けた
こいつ軽すぎだろ、なんて思いながら
なんなくローグレスの門をくぐり抜け、木陰のベンチにトシユキを降ろす
「すまん、大丈夫か?」
『謝るのはわたしのほうです……ごめんなさい……』
うつむいて潤んだ瞳を隠しながら涙声で話すトシユキ
「すまん、怖い思いをさせたな」
『ごめんなさい………あのとき、全然、足動かなくて……いつもなら、早く走れるのに………つまみ食いしたベンウィックさんを走って捕まえられるくらいなのに……』
「慣れないことをさせた俺の責任だ」
震える肩を抱いて頭を引き寄せると、トシユキは大人しく俺の胸に寄りかかってきた
嗚咽混じりに鼻をすするトシユキの背中をさすってやる
思わぬ収穫だ、なんてこんな状況で不謹慎なことを考えながら
他の船員が誰もいないところで、トシユキを独り占めしているのは悪い気分ではなかった
『……わたし、業魔に村をやられて、逃げ出した船のうえでも、殺されそうになったから………多分、トラウマになってるんだと思います…』
「…俺が守ってやるよ」
『え?』
驚いたように顔をあげたトシユキの目は真っ赤だった
「お前に近付く業魔は、俺が全部蹴散らしてやるよ。俺が、ずっとお前のそばに居てやるから、俺が、ずっとお前を守る」
『ふ、副長…………??え、えっと、そ、それ、告白みたいに聞こえるんですけど……?』
「告白だが」
『えっ、えええ!!』
トシユキは咄嗟に体を離した
目だけでなく頬まで真っ赤にして
「なんだよ、散々俺の胸で泣いておいてその反応は」
『こ、困ります副長……わたし、そんな………そういうの……』
「……トシユキ」
『っ…、』
そっとトシユキの手を取る
「俺の、側にいてくれないか」
小さく頷いた彼女が、そっと笑った
それは、あのとき見た笑顔とは少し違ったが
彼女の笑顔を、ずっと見ていたいと、やはり思ったんだ
たまらず彼女をぎゅっと抱き締めて
『いっ、痛いですよ副長……』
「名前で呼んでくれ」
『そ、そんな、恥ずかしいですよ』
「二人きりの時だけでいい、だから」
『………わかりましたよ、アイゼン、さん』
彼女の笑顔を守ろう
彼女が業魔におびえないように
彼女が涙を流さないように
俺が、側にいて彼女を守ろう
そう、誓ったんだ