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『はあーーーー……』
わたしは一人、アイフリード海賊団の事務処理に追われていた
食糧関連、金銭収支、船体破損箇所、医療品残量…
さっきから文字と数字ばかり眺めていて気が滅入る
今日は彼が、アイゼンがいる日なのに
船を離れてベルベットたちと旅をしているアイゼンだが、仲間連中が港の宿に泊まるときには、たまにアイゼンだけ船に戻ってくる
わたしとの時間を考えてくれているのであろう
ベルベットたちには一応わたしとアイゼンの関係は隠しているので、海を渡っているときは別々の部屋で寝ている
が、こうしてアイゼンだけ船に戻ってきたときは、決まってわたしの部屋で一緒に寝ていた
なのに
『仕事が終わらん…』
アイゼンは今頃どうしているだろうか
とうに時計の針は12時をまわっている
『ベンウィックたちと一緒に寝たかな…』
さっさと終わらそう、このままではわたしの身体がもたない
『ああーーっ、おわっった』
書類の山を片付け終えたのは、先程時計を見てから随分経ったあと
文字を見ていたせいで、疲れているのにちっとも眠くない
『寝ないわけにはいかないしな…』
戸棚から琥珀心水を出してグラスに注ぎ、それを持って自室に向かった
別室で寝ているであろうが、もしものことがある
わたしは部屋のドアをそっと開けた
『…………いた』
彼はわたしの布団で、まるで自分のベッドを使っているかのように横たわっていた
枕元の手元灯だけが微かに点いている
ベッドの側の小さな机にグラスを起き、そっとベッドに腰かけた
「………遅かったな」
『……っ、アイゼン、起きてたの?』
「いや、正直に言うと部屋に入ってからは寝ていた、小一時間ほど前に目が覚めた」
『へえ、そう、アイゼン、ちゃんと寝なきゃダメだよ、ずっと戦闘続きでしょ?』
低いトーンで返事をしながら、グラスの心水を飲んだ
「それはお前もだろ…こんな時間まで起きてて…ていうかなんで飲んでんだ」
『事務処理して文字ばっかり見てて、頭が冴えちゃって寝れそうになかったから』
「お前そんな量で酔える女じゃねえだろ」
『うるさいなあ』
少しだけ声を大きくして、グラスの心水をグッと飲み干した
「ほら、布団はいれ」
『あっ、ちょっと』
腕を引かれ、半ば強引に布団に入れられる
彼の体温で、布団が温かい
『…………ごめん、待ってた?』
「まあ、待ってなかったと言えば嘘になるが」
『ごめんね』
「別に謝らなくていい」
彼の優しい腕が腰に回った
少しだけ不満そうな顔で彼を見たら、
「別になにもしねえよ」
と言われた
「……悪いな、事務処理、お前だけに任せて」
『アイゼンが居なくなったから仕事量倍だよ…ベンウィックたちアホだから全然仕事覚えてくれないし…』
「……悪い」
『いいの、アイゼンは船長のために動いてるんだし』
「……おう」
『今日はなんだか随分優しいのね』
「目の前で好きな女が疲れきってんだ、優しくもなるさ」
『アイゼンだって、ベルベットたちとの旅で疲れてるでしょ?無理しなくていいのよ』
「無理なんてしてない、お前こそ、最近俺に遠慮してないか?」
『えっ…』
思わず言葉に詰まる
確かに、旅をして苦労もしているアイゼンの負担にならないようにないように、気を付けていた
無理、してるの、かな
「俺は疲れているだろうから、とか、ずっと考えてただろ、お前」
『………うん』
「やっぱりな…」
アイゼンは呆れたようにため息をついた
『じゃあアイゼン、あたし、ちょっと甘えてもいい?』
上目遣いに彼を見たら、彼は嬉しそうに笑って
「いいぞ」
と言った
アイゼンの首と肩の隙間に顔を潜り込ませる
彼の髪が触れて、それでいて温かくて
ここで甘えるのが本当に好きだった
彼は優しくわたしの頭を撫でてくれる
「こうするの、ちょっと久しぶりだな」
『うん…』
彼の肌の温もりが心地よい
『あー、いいにおい』
まるで動物みたいに鼻をすんすんとするわたしに彼は、やめろ嗅ぐなと少しだけ抵抗した
『だって、アイゼン、いいにおいなんだもん』
香水でもシャンプーでもない、彼のにおい
愛しい彼がすぐそこにいることが、こんなにも安らかな気持ちにさせる
今まで彼に対して遠慮していたことや、気遣っていたことが少しずつ解けていくみたいで
『……あたしね、ベルベットたちと旅してるアイゼンに、あたしっていう負担をかけちゃいけないなって、ずっと思ってたの』
「………くだらねえな」
『アイゼンは優しいね…まんまと甘やかしてもらっちゃった…
あたしのこと気にして、わざわざ船に帰ってこなくてもいいんだよ?ロクロウたちとゆっくり宿で休めば…』
瞬間、肩を掴まれ顔を離されて、顎をぐい、とひかれる
「自意識過剰なやつだ、俺は別にお前のために船に帰ってきてるわけじゃない……
…俺がお前に会いたいから、触れたいから、帰ってきてるんだ」
『アイゼン…』
「俺にとって、お前が甘えてくることはなんのストレスでもないし、負担でもない、むしろ俺も癒されるんだ、だから、難しいことは考えるな」
『うん…わかった…』
ふっ、と目を閉じれば彼からの優しいキス
もっと近付きたくて足を絡めたら
理性が吹っ飛ぶからやめろと言われた
「もう寝ろ、おやすみ、トシユキ」
『うん、おやすみ、アイゼン』
抱き締め合いながら、
お互いの体温を感じながら、わたしたちは眠りについた
明日からも、なんだか頑張れそうだ