Valentine Day
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バレンタイン
今までチョコレートをあげたい相手なんていなかったけど
今年は違う
手作りなんてものは、しない
自分の好きなチョコレート屋さんで
自分でも買ったことのない高いものを買ってしまった
………………渡せるだろうか
アイゼン先生は、モテるから…
「アイゼン、今日はバレンタインだなあ!!何個もらえるか勝負しようぜ?」
「くだらねえ」
「なんだよー?負けるのが怖いのか??」
「ザビーダ、聞き捨てならないな?」
「おっ、やる気になったな?じゃあ放課後職員室で数えような」
そういって去っていったザビーダ
バレンタイン、荷物ばかり増える日だ
そもそも女子高生の手作りチョコなんて、食中毒が怖すぎるんだ………
はあ…緊張する…
ほんとに持ってきてしまった、チョコレート
朝の教室は既に、チョコレートの交換やらなんやらで騒がしい
「――、―、トシユキ、トシユキ?」
『へっ!!?』
はっと我に帰れば自分の机の横にエレノアが立っていた
「どうぞ、これ、トシユキのぶんです」
差し出されたのは小さな袋に詰められた手作りらしいチョコレート
『えっ、エレノア、もらっていいの?わたし、友達へのチョコレートなんて用意してない…』
「いえいえ、いいんですよ、わたしが渡したくて作っただけですし」
『あっ、そ、そうなんだ…あ、ありがとう』
「で、トシユキ?友達以外へのチョコレートはあるんですか?」
『え!いや、えっっと!』
エレノアがニヤニヤしている前でわかりやすく焦ってしまう
「何よ、面白そうな話してるじゃない」
ベルベットまで来てしまって
『い、いや別に何もないよ!あ、エレノアは、ロクロウにチョコ渡すの?』
咄嗟に話題を変えようと、ロクロウの話をもちかけてみたら
「えっ!いや!えっとですね!!彼には…その…!」
上手いこと話題をそらすことができた
今日の2限は…化学だったな
化学や地学など、理科全般を扱えるアイゼン先生
金髪に、眼鏡の奥に光る碧い瞳
生徒を苗字でなく名前で呼ぶこともあって、男子生徒もだが
女子生徒には絶大な人気を誇る先生
ガラガラとドアが開く音
教室に来たアイゼン先生は、途端にチョコを渡そうとする人たちに囲まれる
「せんせー!チョコーー!」
「ねえせんせいー!これ本命だからー!」
「うるせえおまえら、はやく席つけ」
アイゼン先生の片手には、既にもらったらしいチョコが入った紙袋があった
チョコレートのことばかりで、授業はまったく身に入らなかった
授業が終わり、またアイゼン先生が人に囲まれる
渡せるのは今しかない
なのにどうしてか
立ち上がれない
力を入れようとしても、出るのは手汗ばかりで
気づけばアイゼン先生は、もう教室にはいなかった
やってしまった…
わたす機会なんて、授業の後くらいしか…
ああ…
このチョコ、自分で食べるのか…
まあいっか…食べたことないやつだし…
午後はずっと
渡しそびれた事ばかり考えていた
放課後になっても帰る気になれなくて、ずっと自分の席に座っていた
窓の外を見れば、部活に励む人たちの姿
あの人たちは、きっと意中の人にチョコレートをもらったり、あげたりするのだろうなあ
気を紛らすように、化学のノートを開く
ああ、今日のアイゼン先生の授業はどんなんだったっけ
アイゼン先生の図解はとても分かりやすいから、板書するのも楽しい…
ああ……渡したかったなあ…
「ん、トシユキ、一人で何してるんだ?」
『………!!?』
突然ドアの方から声がしたと思ったら
『あ、アイゼン先生…!』
声の主はチョコレートを渡しそびれた人だった
「帰らないのか?」
ゆっくりと歩きながら近付いてくるアイゼン先生の手には、午前中に見たよりもたくさんのチョコレートが入った紙袋
見たところ、手作りばかり
『先生、すごいですね、その量…』
「ああこれか、拒むわけにもいかないしな―…」
『毎年全部食べるんですか?』
「ん?あー…それ答えた方がいいか?」
苦笑いをして頭をかくアイゼン先生が可愛くて、思わず笑ってしまった
「そうか、トシユキが帰らずに教室に残ってるのは、誰かにチョコレートを渡すためなんだな?」
『えっ、あ、』
にんまりと笑いながら先生はわたしの前の席に横向きに座った
「校庭の誰かをみてたのか?運動部のやつか…」
『ち、違いますよ、先生…別に、わたしは…』
「ん、ああすまんな、プライベートなことをきいたな」
『いえ…』
沈黙が流れて
折角今、先生が目の前にいるのに…
何も言い出せない自分がもどかしい
「なんか、邪魔したな…じゃあ、気をつけて帰れよ」
先生が立ち上がって、立ち去ろうとしたその時
『……っ行かないでくださいっっ…』
気付いたら先生の白衣を掴んでいた
すぐに正気に戻って、慌てて手を離す
『あっ、す、すいません…』
一瞬驚いて先生はふぅ、とため息をついて、座り直した
「で?どこがわからないんだ?」
『え?』
「だから、なにか分からないことでもあるんだろ、わざわざ放課後に化学のノートなんか開いて」
先生はトントンと人差し指でわたしのノートを指差した
『あ、………』
ぼーっとしていてあまりきいていなかった所をきいたりした
アイゼン先生は、とても丁寧に教えてくれた
「あ、お前あの図板書してねえな?仕方ねぇな、ちょっとペン貸せ」
『あっ、はい、どうぞ…』
わたしのペンケースからペンを取ったかと思うと、ノートを自分のほうへ向き直してサラサラと書きはじめた
うつむく先生の揺れる髪が綺麗で
目の前で動く大きな手が格好良くて
先生がこっちを向いていないのを良いことに、見つめてしまっていた
「…………トシユキ。」
『へっ、あっ』
無骨な手を見つめていたら、いつの間にか書き終わっていたようで
「今ボーッとしてただろ」
『す、すいません…』
見とれていたなんて、言えるわけがない
「そろそろ日が暮れるな…、
トシユキ、暗くなる前に、そろそろ帰れ」
『あ、はい…………えっと…先生…あの…』
今しか、無いと思った
「ん?どうした」
今を逃したら、一生後悔すると思ったから
『これ……受け取って貰えますか……?』
鞄から出したのは、もっと前にわたす予定だったチョコレート
赤い箱に、先生の髪色をイメージした金色のリボン
「俺に…?」
『はい、先生に』
戸惑いながらも先生はそれを受け取ってくれた
「お前、本来の相手に渡しそびれて俺に渡したとか、か?」
『ち、違います!!!わたしは、先生の、ために…選んだんです…』
赤くなる顔を隠したくて下を向いた
「ま、まさかトシユキから貰えるとはな…ありがとう」
『みんなから貰ってるような、手作りじゃないですけど…』
「いや…すごく嬉しい…ありがとう…」
『それ、わたしが好きなお店の、です。なので、味は保証、します…』
口元を手で隠す先生の顔が
心なしか赤かったように見えたけど
それはきっと、夕陽のせいだったに違いない
「なあ、これ今食ってもいいか?」
『え?』
先生の発言に耳を疑う
『え、でも先生、食べるなら、手作りのを先に食べないと…賞味期限とか…』
「いいんだよ、そんなこと関係ない。お前から貰ったのを、今俺が食いたいんだ」
そういって先生は箱のリボンをほどいて箱をあける
そして、一つを手に取った
赤いハート型のチョコレート
普通の四角いのもあるから、わざわざそっちを取らなくても良いのに…
なんであんな恥ずかしい型のを買ってしまったんだろう
「うん、うまいな」
そういって先生が笑ってくれたのが嬉しくて
ああ、やっぱり渡してよかったんだって
思えた
思えば随分とおいしそうなチョコレートだ
先生の口に合って良かった…
「………トシユキ、ほら」
『えっ、ちょ、なんですか?』
気づけば違うチョコを指でつまんでわたしの前に差し出していて
「食いたそうな顔してた」
『してません!!恥ずかしいからやめてください…それに、それわたしがあげたやつだから…』
「貰った側が良いって言ってるんだよ、ほら、トシユキ、口開けろ」
こういうとき、下の名前で呼ぶの、ずるいなって思う
そんな、好きな人にそんなことされて
拒めるわけ……
「ほれ」
『あっ、ん』
少し強引に口に放り込まれて
唇に少しだけ先生の指が触れたのが恥ずかしくて
先生は意地悪そうな顔をしていた
『……おいしい』
口のなかで解けるチョコは、妙に甘かった
『チョコレート、渡せて良かったです。それじゃあ、わたし、そろそろ帰りますね』
「おう、外まで送ろう」
『いいですよ別に。先生の取り巻きの女子たちに見られてもめんどくさいですし』
「お前な……」
昇降口と職員室への分かれ道まで隣を歩いた
『じゃあ先生、また明日』
「ああ、気をつけてな」
くしゃくしゃとわたしの頭を撫でる手は
とても優しかった
帰りの電車に揺られながら
さっきまでのことを思い出すと、恥ずかしいのと嬉しいのが交互にやってきたようで
平常心でいられない
でも今日はとっても良い日だった
先生と、あんなにずっと、二人きりでいられたから
それにしても先生、どうしてわたしのチョコ、真っ先に食べてくれたのかな…
忘れられない、バレンタインデーになりそうだ
そしてやっぱり、わたしは先生のこと
好きなんだな、って実感した
職員室に戻るまでの道で
自分がニヤニヤしていないか心配でずっと顔を抑えていた
すこし気にかけている程度だった
午前中の授業のあと、彼女からもしかしたらチョコレートがもらえるんじゃないかなんて期待してたが、
彼女が席をたつ様子はなかった
放課後に女子連中に呼び出され大量にチョコを貰って
職員室に真っ直ぐ帰らずに
自然と彼女の教室に足が向いたのは本当に無意識だった
彼女が居るとは思わなかったが……
彼女のあの態度は……
裾をつかむなんて反則だ
あんな顔されて、期待しない方が無理だ…
「アーイーゼンッ!」
「うおっ、!」
「どーしたアイゼン、なにか良いことあったか?鼻の下のびてるぞ?」
後ろからぶつかってきたのは案の定ザビーダで
「良いこともなにも…まあ、あったな…」
「お前は紙袋一つか…俺は二つだから対決は俺の勝ちだなって…なに!!?あったのか!?」
「いや、忘れろ、今の」
「なんだ?お前、マジか?マジなのか?もしかしてこの間言ってた…」
「煩い黙れ」
「ふーんそうか、お仕事熱心なアイゼン先生がついに生徒に手を出すときが来るとはねえ…」
「……まだ出してねえ…」
「カマかけたつもりだったのにマジで生徒なのかよ…」
トシユキが卒業するまではあと一年ほど…
いやまて、早まるな、俺
まだトシユキの気持ちが決まったわけでは……
いやそもそも、俺の気持ちは…
「アイゼン」
「なんだ、ザビーダ」
「まあなんだ、上手くやれよ」
そうだな
上手くやらせてもらうとしよう……
「あ、そうだザビーダ、俺はこれの他にもう二つ紙袋が職員室にあるから、勝負は俺の勝ちだと思うぞ」
「なんだと!!」
To be continued
今までチョコレートをあげたい相手なんていなかったけど
今年は違う
手作りなんてものは、しない
自分の好きなチョコレート屋さんで
自分でも買ったことのない高いものを買ってしまった
………………渡せるだろうか
アイゼン先生は、モテるから…
「アイゼン、今日はバレンタインだなあ!!何個もらえるか勝負しようぜ?」
「くだらねえ」
「なんだよー?負けるのが怖いのか??」
「ザビーダ、聞き捨てならないな?」
「おっ、やる気になったな?じゃあ放課後職員室で数えような」
そういって去っていったザビーダ
バレンタイン、荷物ばかり増える日だ
そもそも女子高生の手作りチョコなんて、食中毒が怖すぎるんだ………
はあ…緊張する…
ほんとに持ってきてしまった、チョコレート
朝の教室は既に、チョコレートの交換やらなんやらで騒がしい
「――、―、トシユキ、トシユキ?」
『へっ!!?』
はっと我に帰れば自分の机の横にエレノアが立っていた
「どうぞ、これ、トシユキのぶんです」
差し出されたのは小さな袋に詰められた手作りらしいチョコレート
『えっ、エレノア、もらっていいの?わたし、友達へのチョコレートなんて用意してない…』
「いえいえ、いいんですよ、わたしが渡したくて作っただけですし」
『あっ、そ、そうなんだ…あ、ありがとう』
「で、トシユキ?友達以外へのチョコレートはあるんですか?」
『え!いや、えっっと!』
エレノアがニヤニヤしている前でわかりやすく焦ってしまう
「何よ、面白そうな話してるじゃない」
ベルベットまで来てしまって
『い、いや別に何もないよ!あ、エレノアは、ロクロウにチョコ渡すの?』
咄嗟に話題を変えようと、ロクロウの話をもちかけてみたら
「えっ!いや!えっとですね!!彼には…その…!」
上手いこと話題をそらすことができた
今日の2限は…化学だったな
化学や地学など、理科全般を扱えるアイゼン先生
金髪に、眼鏡の奥に光る碧い瞳
生徒を苗字でなく名前で呼ぶこともあって、男子生徒もだが
女子生徒には絶大な人気を誇る先生
ガラガラとドアが開く音
教室に来たアイゼン先生は、途端にチョコを渡そうとする人たちに囲まれる
「せんせー!チョコーー!」
「ねえせんせいー!これ本命だからー!」
「うるせえおまえら、はやく席つけ」
アイゼン先生の片手には、既にもらったらしいチョコが入った紙袋があった
チョコレートのことばかりで、授業はまったく身に入らなかった
授業が終わり、またアイゼン先生が人に囲まれる
渡せるのは今しかない
なのにどうしてか
立ち上がれない
力を入れようとしても、出るのは手汗ばかりで
気づけばアイゼン先生は、もう教室にはいなかった
やってしまった…
わたす機会なんて、授業の後くらいしか…
ああ…
このチョコ、自分で食べるのか…
まあいっか…食べたことないやつだし…
午後はずっと
渡しそびれた事ばかり考えていた
放課後になっても帰る気になれなくて、ずっと自分の席に座っていた
窓の外を見れば、部活に励む人たちの姿
あの人たちは、きっと意中の人にチョコレートをもらったり、あげたりするのだろうなあ
気を紛らすように、化学のノートを開く
ああ、今日のアイゼン先生の授業はどんなんだったっけ
アイゼン先生の図解はとても分かりやすいから、板書するのも楽しい…
ああ……渡したかったなあ…
「ん、トシユキ、一人で何してるんだ?」
『………!!?』
突然ドアの方から声がしたと思ったら
『あ、アイゼン先生…!』
声の主はチョコレートを渡しそびれた人だった
「帰らないのか?」
ゆっくりと歩きながら近付いてくるアイゼン先生の手には、午前中に見たよりもたくさんのチョコレートが入った紙袋
見たところ、手作りばかり
『先生、すごいですね、その量…』
「ああこれか、拒むわけにもいかないしな―…」
『毎年全部食べるんですか?』
「ん?あー…それ答えた方がいいか?」
苦笑いをして頭をかくアイゼン先生が可愛くて、思わず笑ってしまった
「そうか、トシユキが帰らずに教室に残ってるのは、誰かにチョコレートを渡すためなんだな?」
『えっ、あ、』
にんまりと笑いながら先生はわたしの前の席に横向きに座った
「校庭の誰かをみてたのか?運動部のやつか…」
『ち、違いますよ、先生…別に、わたしは…』
「ん、ああすまんな、プライベートなことをきいたな」
『いえ…』
沈黙が流れて
折角今、先生が目の前にいるのに…
何も言い出せない自分がもどかしい
「なんか、邪魔したな…じゃあ、気をつけて帰れよ」
先生が立ち上がって、立ち去ろうとしたその時
『……っ行かないでくださいっっ…』
気付いたら先生の白衣を掴んでいた
すぐに正気に戻って、慌てて手を離す
『あっ、す、すいません…』
一瞬驚いて先生はふぅ、とため息をついて、座り直した
「で?どこがわからないんだ?」
『え?』
「だから、なにか分からないことでもあるんだろ、わざわざ放課後に化学のノートなんか開いて」
先生はトントンと人差し指でわたしのノートを指差した
『あ、………』
ぼーっとしていてあまりきいていなかった所をきいたりした
アイゼン先生は、とても丁寧に教えてくれた
「あ、お前あの図板書してねえな?仕方ねぇな、ちょっとペン貸せ」
『あっ、はい、どうぞ…』
わたしのペンケースからペンを取ったかと思うと、ノートを自分のほうへ向き直してサラサラと書きはじめた
うつむく先生の揺れる髪が綺麗で
目の前で動く大きな手が格好良くて
先生がこっちを向いていないのを良いことに、見つめてしまっていた
「…………トシユキ。」
『へっ、あっ』
無骨な手を見つめていたら、いつの間にか書き終わっていたようで
「今ボーッとしてただろ」
『す、すいません…』
見とれていたなんて、言えるわけがない
「そろそろ日が暮れるな…、
トシユキ、暗くなる前に、そろそろ帰れ」
『あ、はい…………えっと…先生…あの…』
今しか、無いと思った
「ん?どうした」
今を逃したら、一生後悔すると思ったから
『これ……受け取って貰えますか……?』
鞄から出したのは、もっと前にわたす予定だったチョコレート
赤い箱に、先生の髪色をイメージした金色のリボン
「俺に…?」
『はい、先生に』
戸惑いながらも先生はそれを受け取ってくれた
「お前、本来の相手に渡しそびれて俺に渡したとか、か?」
『ち、違います!!!わたしは、先生の、ために…選んだんです…』
赤くなる顔を隠したくて下を向いた
「ま、まさかトシユキから貰えるとはな…ありがとう」
『みんなから貰ってるような、手作りじゃないですけど…』
「いや…すごく嬉しい…ありがとう…」
『それ、わたしが好きなお店の、です。なので、味は保証、します…』
口元を手で隠す先生の顔が
心なしか赤かったように見えたけど
それはきっと、夕陽のせいだったに違いない
「なあ、これ今食ってもいいか?」
『え?』
先生の発言に耳を疑う
『え、でも先生、食べるなら、手作りのを先に食べないと…賞味期限とか…』
「いいんだよ、そんなこと関係ない。お前から貰ったのを、今俺が食いたいんだ」
そういって先生は箱のリボンをほどいて箱をあける
そして、一つを手に取った
赤いハート型のチョコレート
普通の四角いのもあるから、わざわざそっちを取らなくても良いのに…
なんであんな恥ずかしい型のを買ってしまったんだろう
「うん、うまいな」
そういって先生が笑ってくれたのが嬉しくて
ああ、やっぱり渡してよかったんだって
思えた
思えば随分とおいしそうなチョコレートだ
先生の口に合って良かった…
「………トシユキ、ほら」
『えっ、ちょ、なんですか?』
気づけば違うチョコを指でつまんでわたしの前に差し出していて
「食いたそうな顔してた」
『してません!!恥ずかしいからやめてください…それに、それわたしがあげたやつだから…』
「貰った側が良いって言ってるんだよ、ほら、トシユキ、口開けろ」
こういうとき、下の名前で呼ぶの、ずるいなって思う
そんな、好きな人にそんなことされて
拒めるわけ……
「ほれ」
『あっ、ん』
少し強引に口に放り込まれて
唇に少しだけ先生の指が触れたのが恥ずかしくて
先生は意地悪そうな顔をしていた
『……おいしい』
口のなかで解けるチョコは、妙に甘かった
『チョコレート、渡せて良かったです。それじゃあ、わたし、そろそろ帰りますね』
「おう、外まで送ろう」
『いいですよ別に。先生の取り巻きの女子たちに見られてもめんどくさいですし』
「お前な……」
昇降口と職員室への分かれ道まで隣を歩いた
『じゃあ先生、また明日』
「ああ、気をつけてな」
くしゃくしゃとわたしの頭を撫でる手は
とても優しかった
帰りの電車に揺られながら
さっきまでのことを思い出すと、恥ずかしいのと嬉しいのが交互にやってきたようで
平常心でいられない
でも今日はとっても良い日だった
先生と、あんなにずっと、二人きりでいられたから
それにしても先生、どうしてわたしのチョコ、真っ先に食べてくれたのかな…
忘れられない、バレンタインデーになりそうだ
そしてやっぱり、わたしは先生のこと
好きなんだな、って実感した
職員室に戻るまでの道で
自分がニヤニヤしていないか心配でずっと顔を抑えていた
すこし気にかけている程度だった
午前中の授業のあと、彼女からもしかしたらチョコレートがもらえるんじゃないかなんて期待してたが、
彼女が席をたつ様子はなかった
放課後に女子連中に呼び出され大量にチョコを貰って
職員室に真っ直ぐ帰らずに
自然と彼女の教室に足が向いたのは本当に無意識だった
彼女が居るとは思わなかったが……
彼女のあの態度は……
裾をつかむなんて反則だ
あんな顔されて、期待しない方が無理だ…
「アーイーゼンッ!」
「うおっ、!」
「どーしたアイゼン、なにか良いことあったか?鼻の下のびてるぞ?」
後ろからぶつかってきたのは案の定ザビーダで
「良いこともなにも…まあ、あったな…」
「お前は紙袋一つか…俺は二つだから対決は俺の勝ちだなって…なに!!?あったのか!?」
「いや、忘れろ、今の」
「なんだ?お前、マジか?マジなのか?もしかしてこの間言ってた…」
「煩い黙れ」
「ふーんそうか、お仕事熱心なアイゼン先生がついに生徒に手を出すときが来るとはねえ…」
「……まだ出してねえ…」
「カマかけたつもりだったのにマジで生徒なのかよ…」
トシユキが卒業するまではあと一年ほど…
いやまて、早まるな、俺
まだトシユキの気持ちが決まったわけでは……
いやそもそも、俺の気持ちは…
「アイゼン」
「なんだ、ザビーダ」
「まあなんだ、上手くやれよ」
そうだな
上手くやらせてもらうとしよう……
「あ、そうだザビーダ、俺はこれの他にもう二つ紙袋が職員室にあるから、勝負は俺の勝ちだと思うぞ」
「なんだと!!」
To be continued