死角の告白
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『ねえ』
と、わたしが声をかける。
かけられた相手はこちらを振り向こうともしない。
『………ねえ』
気づいてすらいない様子だ。
『ねえ!!!!!』
「おっ、すまん、なんだ」
やっと気づいて返事をしたがこちらを向く様子は一向にない。
彼、アイゼンは、今朝船員の一人が吊り上げたものをまじまじと観察しているのだ。午後になる今まで。
『あーーーいーーーぜーーーんーーー!!!』
「なんだ、今俺は忙しいんだ」
『そんな布切れのせいでですか!!』
「そんな布切れとはなんだ!!これは数千年前に作られた歴史的繊維の可能性が高い、ものすごい価値があるものかもしれないんだぞ!!!」
『そうかもしれないけどさーーーあーー!』
今日は、約束があるのに
「トシユキ、そのへんで諦めとけよ、副長は一度そうなったら引かないのはお前もよくわかってるだろ、」
そう言いながらベンウィックが宝物部屋に入ってきた。
「ちょうど良かったベンウィック、そこのうるさい奴を外にやってくれるか」
落ち着いた声でアイゼンが言う
『ちょっと!!アイゼン!!!いくらあたしでも怒るよ!!くそ!一発殴ってやる!!』
「副長、今の言い方はないっすよ!!トシユキも落ち着けって!!」
ベンウィックは暴れるわたしを抑えて捕まえながら部屋を出た。
『ベンウィック…あたしアイゼンに嫌われてるのかなあ…』
「なに言ってんだトシユキ、トシユキが副長のお気に入りなのは周知の事実だろうが…。落ち込むなよ、あの人はお宝が好きなのさ、夜にもなれば元に戻るって」
『うん…』
ベンウィックはわたしを慰めてくれたが、なんとも納得がいかない。
わたしは一年前、親に捨てられていたのをアイフリード海賊団に拾われた。まさか船に死神がいるなんて、驚いたけど、その死神はとてもわたしに優しくしてくれた。その死神はとても物知りで、たくましくて、わたしは好奇心でずっと側にいようとした。
死神は、呪いのせいでわたしと近付きすぎないようにしてたけど、わたしは彼の側にいても、机の足に小指をぶつけるとか、棚の上の本が落ちてきてコツンと頭にぶつかるとか、そのくらいの呪いしか被害がなくて、そうわかると死神は迷いなくわたしの近くに来てくれた。
ベンウィックの言う通り、わたしはアイゼンのお気に入りかもしれない、けど、恋人とかそういうわけじゃない。わたしはそういう意味でアイゼンが好きだけど、彼もそうとは…わからない。
確信がなにもない。出会って一年ほど。彼は聖隷、わたしは人間。今の関係には不安しかない。
『今日の約束…忘れてるのかなあ…』
潮風にあたりながら海を眺めていた。
夕飯時になっても、アイゼンは宝物部屋から出てこなかった。船員は「副長らしい」と言ってなにも気にしていない。
ベンウィックはわたしの方を見て、心配している風に笑ってくれたけど、わたしの心はなにも解決しなかった。
見張り以外が寝静まった頃、わたしはまた潮風にあたりながら海を眺めていた。夜の海。とても静かだ。夜に甲板に出ていると見張りに「遅いから中にはいれ」と言われるから、見張りからの死角で海を眺める。
近くに陸が無いので、あるのは月明かりだけ。
『明日は満月かなあ』
月のせいでずいぶん明るい。
カン、カン、
後ろから足音が聞こえた
「なんだ、お前こんなところにいたのか」
アイゼンだった
『あら副長さん、布切れ眺めは終わったんですか?』
「そう言うな…
その…昼間は悪かったな。約束もあったのに」
『覚えてたの…』
「覚えてたさ、俺はそういうことは忘れないぞ」
『じゃあなんで…』
「今日の、『××海底神殿記』を一緒に読む約束、だっただろう?今朝釣れた例の布が、もしやその××神殿のかもと俺の勘が働いたんだ、そしたらな、ほんとうにそのようなんだ!これはほんとうにすごいんだ!だから、この布のことも含めてこの文献を…」
『あっはははっ…!
アイゼンはほんとにすごいなあ…真の海賊って感じだ』
「なっ何故笑う…」
『アイゼンが面白いからだよ』
「なんだと…」
アイゼンは不服そうに顔をしかめる
『……』
「……怒っているのか」
アイゼンは困ったような顔で私を見た
ああ、わたしは今彼を困らせている…
(昼間の仕返しは…もういっか)
『怒ってないよ、アイゼンがただの約束すっぽかし野郎じゃなくて安心したの』
沈黙
海の音だけが二人の間を流れる。
『ねえ、アイゼン』
「なんだ」
『わたしのこと好き?』
「………………………………それは人間としてということか?」
わたしは一瞬ぽかんとして、彼の顔を見る
アイゼンは心なしか顔が赤いような気がする。
わたしが彼の顔を見ていると顔を背けられた
『………女としてに決まってるでしょ』
わたし何を言ってるんだろう
恥ずかしい
顔が熱くなる
「っトシユキ」
アイゼンに突然腕を捕まれる
『あっ…あい…ぜん…?』
アイゼンが今まで見たことないくらい真っ直ぐにわたしを見つめてくる
彼の蒼い瞳に自分が映っている
「俺は…お前が好きだ、ずっと、俺を好んでくれて、後を着いてきてくれるお前に甘えて、自分から近付くのを怠ってた…」
突然抱き締められて頭が真っ白になる
『あっ…アイゼン…だめだよ…こんな…見張りに見られるよ…』
「お前ここが死角だと知ってて居るんだろう…俺が知らないとでも思ってたか…馬鹿…」
アイゼンの腕が緩む。
気づいたら見つめあっていた
「トシユキ…俺は…人間を愛していいのか…まだ…自信がない…、だが、女として、お前を愛してるのは事実だ、
トシユキ、これから俺の、その、俺の女として、そばにいてくれるか?」
思わず頬を熱いものがつたった
『はい…』
アイゼンはそっとわたしの唇に自分のそれを重ねた
唇を話したあと、彼の顔を見るのが恥ずかしくて、彼の肩に抱きついた。
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