short story
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『はあーーーーー、終わった』
定時から一時間
残った書類を片付けた
一瞬忘れかけていた約束を思い出して携帯を手に取る
10分前に受信したメッセージ
送信主は「杉田智和」
<もうちょっとかかる>
『先に行ってるかあ』
今日はわたしの勤め先と、彼が行くスタジオが近いと言うことで
その近くの複合商業施設ビルのレストランでご飯でもということになった
付き合い初めて、何度もデートは経験しているが
何度やっても緊張するものだ
会社を出ると、空は薄曇り
朝の天気予報では「夜は天気が不安定になるでしょう」ということだった。
目的地に向かって歩く途中、予報的中で雨が降りだした
バサ、と用意していた折り畳み傘を開く
湿気に負けそうな髪を守りたい一心で、早足でビルまで歩いた
ビルの入り口に着き、傘を閉じる
服についた水滴を払ったところで
携帯のバイブレーションが鳴った
開けば「七海〜」の文字の通知
既読を付けた途端に電話が鳴った
『はーい、もしもぉし』
「もしもし七海〜、いまどこにいる?」
『ちょうど現地着いたとこだけど、そっちは?』
「いやあねぇ、七海さん、あのね?」
『傘もってないのか』
「い、いやーーー流石っすね」
『頑張って走ってきなよ』
「そんなあ、意地悪言わないでよ、結構距離あるよ?
七海、傘持ってるんでしょ?迎えに来てくれないかな〜なんて」
『うーん、わたしにメリットある?』
「うーーーーん、じゃあ朝まで一緒に居てあげるから」
『ばっっ…』
顔が赤くなるのが伝わるような気がして、無意識に携帯を顔から少し離した
「七海今いやらしいこと考えたでしょ?」
『うるさいなあ!もう!今行くからそこで待ってて!』
「やったあ、出たとこで待ってるよ」
半ば強引に話を切り上げ通話を切った
あんなふざけた言葉に体温を上げて馬鹿みたい
いつもはふざけているくせに、
たまに狙ったように良い声を出すから、声優ってやつは本当に信用出来ない
これで迎えにいってしまう自分もつくづく甘い
よし、朝までゲームするんだ、そう、それ以外はなにもしてやらないぞ
そう意気込んで、傘をさして、また雨の降るほうを歩いていった
ピッ
「おつかれーい」
電話を切ると目の前には親友がいた
「おお、おつかれ中村」
「めっちゃ雨ふってんなあ、あれ、お前傘持ってねえの?今日お前電車だろ、車のってくか?」
いつもなら、頼む!と言うところだが
「いや、ありがたいけどもう迎えを頼んだんだ、にひひ」
「……杉田」
「ん?」
「今めっちゃ気持ち悪い笑顔してる」
「ええっっ」
思わず自分の口角を手でおさえた
「いや、まあ、だいたいわかったわ、じゃあな、お幸せに」
「え、あっ、ちょ、中村!じゃ、じゃあな!」
ピシャッ、ゴロゴロゴロッ
『ひっ』
稲光を感じた途端に大きな音が聞こえた
『雷、近いなあ………』
家にいればなんともないが、外にいるときの雷ほど怖いものはない
ましてや1人
はやく…………はやく着いて……
「おーーい、七海〜〜!」
『あ、智和さ』
ゴロゴロゴロッピッシャァァァァン!!
『ひえっっ!』
全身を突き抜けるような音に身体と思考が止まった
思わず傘を手から落とし、無意識にしゃがみこんだ
「七海!」
智和さんがわたしのほうまで、駆け寄ってくれた、足音が聞こえた
「七海、大丈夫?今のは怖かったなあ、ほら、立てる?」
『あっ、ご、ごめんなさい………智和さん濡れちゃった………?』
落ちた傘を智和さんが拾った
「何言ってんの、七海を濡らしちゃったのは俺だよ、ほら、ずっとしゃがんでると服まで濡れるよ、とりあえず歩こう」
『あ、う、うん………』
智和さんが差し出してくれた手をとって、なんとか立ち上がる
「さー行こうご飯行こう」
『あっ、ごめん、傘もつよ』
「いいよー、俺がもつよ。念願だった相合い傘が叶ったよ、ふふ」
智和さんは、にっと口角を上げた
智和さんの笑顔と、隣にいることで少し安心したけれど、
わたしは相変わらず雷に怯えている
ピシシッ
『ぐぬっ』
小さい雷にも関わらずびくっと肩が跳ねる
「この天気、明日の明け方まで続くって、さっき天気予報で言ってたよ」
『ええっ、そうなの、まあ、屋内にいればそんなに怖くないし…』
「え、なんだ、そうなの。朝まで一緒にいる口実が増えたと思ったのに」
『だまらっしゃい』
智和さんのふざけた言葉があまり気にならないほど、今は雷にしか神経がいかない
「ん、」
『ん?』
智和さんは彼と私の間の、傘を持ったほうの腕を差し出してくる
「手は繋げないから、腕、掴まってていいよ」
『え、あ、うん…ありがとう……』
そっと彼の腕に掴まる
雨で少し冷えた手に、彼の体温が服越しに伝わってくる
雨で、周りの音が聞こえにくい
濡れないように、小さな折り畳み傘に二人で寄り添って
彼の腕に掴まって
たまにくる轟音に肩を揺らして
彼の「大丈夫?」の声に安心する
なんだが、すごくどきどきした。
ビルに着いた
ほっ、として腕を離す
「あれ、もう離しちゃうの?ずっとこうしてていいのに」
『もう大丈夫だから、いいの』
「……そっか」
「やーーー美味しかった」
『美味しかったねー』
食事を終えてビルを出る
「あれ?雨やんでるじゃん、予報はずれたね」
『むしろ外れてくれて嬉しいよ』
「じゃ、まあとりあえず七海の家行きますか」
『えっ、ホントにくるの?』
「いくよいくよーほら、」
『ん?』
既視感のある、腕の出し方
『いや、別にもう問題ないから…』
「理由が無くても俺と腕ぐらいくんでいいのよ?」
ほらほら、と言わんばかりににやついている
腕組みたいのはあなたでしょうが
でも、その気持ちが嬉しくて
わたしはさっきと同じように彼の腕をとった
「ねえ、朝まで何する?」
『ゲームでしょ』
「ていうか、確認だけど七海明日休みだよね?」
『まあ、土曜だからね
そっちこそ休みなの?』
「休みじゃなかったら朝まで一緒にいるなんて言わないよ」
『………そう』
「………行くの、七海の家じゃなくて俺の家にする?」
『………うん』
無意識に、彼の服をぎゅっと握る
「……参ったなあ、片付けてないや」
『何を?』
「へっ!?あ、あれよ?部屋よ?部屋が散らかってるからなーーって、いやいや、そんな七海に見せられないようないかがわしいものがあるなんてそんなこと」
『ふふ、そんなことまで言ってないでしょ』
自分で誘うような素振りをみせておいて
いざとなったら茶化すのはいつものこと
でもそんな彼だから、わたしは好きなんだと思う
『よーーしじゃあ智和さんの家片付けに行くぞ〜〜〜!!』
「あっ、ちょ、まて!!!」
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