short story
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『ねえ、杉田さん』
「どうしたの?七海」
わたしは、はっきりと言ってやった
『そのニット帽にそのサングラスは合わないと思います』
杉田さんはあからさまにテンションを下げる
久々に重なった休日
どこか出掛けようということになって、
人の多い駅で待ち合わせた
彼は、仮にも人気声優
街中で騒ぎになったりしたら大変なのである。
暑い夏の時期
風邪もひいていないのにマスクを着けるのは拷問だと言って、最近サングラスに変わったのだが………
「ねえ、さっきの冗談だよね?」
『冗談じゃないです。ほんとです。』
「そ、そう……」
そんなに変かなあ、と呟きながら
彼は駅のホームでスマホに反射する自分自身を見ていた
『あ、じゃあ帽子買いに行きましょ』
「え?帽子?」
『だって、目的地未だに決まってないじゃないですか。このままだとあてもなく電車で涼むことになりそだも………ですもん。』
「……敬語無理してない?」
『万が一のために外では敬語にしとこうって言ったの誰ですか』
そう、もし彼が他人に杉田智和だとばれたとき
敬語で話していれば、仕事仲間やマネージャーだと勘違いしてもらえたり、誤魔化せるだろうという、杉田さんの安易な提案。
というか、私自身杉田さんよりだいぶ年下なので敬語じゃないと浮くってのもあるのだが
「いやね、この間はあんな提案したんだけど、せっかく二人なのに敬語にされるの、ちょっと切ないなあって」
『えー、じゃあもう敬語じゃなくていい?』
「もう敬語じゃないじゃん………」
そんなことを言い合いながら、私たちは電車に乗り込んだ
行き先は、杉田さんのいきつけの帽子やさんだ
杉田さんと付き合い始める前、
電車に杉田智和なんかが乗って、なんで騒ぎにならないんだ?とひたすら疑問に思っていた
実際誰も気づかないのをみて、最初はすごく驚いた
本人も、なるべく車内で声は出さないようにしているらしいが
だから、実は電車のなかでは少し寂しい
杉田さんと話すことが出来ないから
『はぁ〜〜〜〜』
外でかいた汗が冷房でひいていくのを感じながら、車内の広告を眺めた
すると、つり革を持っていない方の手に微かな温もりが重なった
杉田さんの手だった
『っっ、……!?』
この人はなんてリスキーなことを……
「七海、顔が怖いよ」
ひそひそとそう私にささやいて
手を握る力が少しだけ強くなった
『…もう』
この人は危機感がないなあと思いながらも
彼の手を握り返した
「あれ、ここ来るの初めてだっけ?」
『うん、来たこと無い』
暗めの照明の店内には、帽子がずらり
『帽子いっぱい……あたし帽子かぶらないからなあ…』
「じゃあ七海にもなんか買ってあげるよ」
『その前に杉田さんのね』
「はいはい」
二人で帽子をみた
これいいなと彼が言って、
それ、今被ってるのとほぼ同じじゃないですかと私が返したりして
『ほら、こういうハットにするとかっこいいんじゃない?』
「えー、そんなの、イベントとか撮影のときにしか被れないよ」
『だって、ニット帽だと杉田智和感満載だよ?コアなファンと鉢合わせしたら絶対バレるよ?』
「うーーーん……」
なんで渋るのよ
だってそのほうがかっこいいじゃない
なんてことは恥ずかしくて言えない
『ねえ、ほら、この赤いライン入ってるやつとかどう、良い感じよ』
「七海はこういうのが好きなの?」
『え?』
興味深げに杉田さんがきいてくる
『あ、あたしの好みだと…まあ、そうかな、黒地に赤いのとか、結構好きだよ』
「ふーん………」
サングラス越しに企むような瞳が見えた
「ねえ、じゃあ七海にはあれを被ってほしいな」
『ん?』
彼が指差したのは、唾の大きい黒い帽子
そこに小さな赤い飾りが付いている
……お、おそろいカラー
『……』
「あれ、やだ?」
『…いやじゃないよ、かわいいし、す、杉田さんが選んでくれたし………でも』
「でも?」
『………おそろいみたいじゃん、恥ずかしいよ』
「…っっ、ふふっ、七海、顔赤いよ」
『ち、ちょっと、誰のせいよ!!』
「かわいいなあ、でも嫌じゃないならよかった。買ってくる」
『え、あ、ちょっ』
杉田さんは二つの帽子を持って楽しそうにレジに向かった
良い歳した大人にはしゃがれて恥ずかしかったけど
ちょっと嬉しい
「ほら、七海、かぶって」
『杉田さんもちゃんと買った方にかぶり直して』
「うん、似合ってるよ」
『杉田さんも』
ほんと?やったあ、と彼は目を細くして小さい口の口角を上げた
『……かっこいいよ』
「?」
『ニット帽も杉田さんらしいけど、その帽子かぶってると、かっこいいよ』
「………ありがとう、七海
君もとっても素敵だよ」
お互い少しだけ顔を赤くした
「ねえ、この後はどこいく?」
『どこでもいいよ』
杉田さんは私の手をとって歩き出す
「お腹すかない?」
『杉田さんがお腹すいてるんでしょ』
「バレたか」
サングラス越しに、無邪気に笑う杉田さんが見えた
『じゃあ、歩いてて良さそうなお店あったら入りましょ』
「日差し暑くない?大丈夫?」
『杉田さんが帽子くれたから大丈夫。心配ならサングラス貸してくれない?』
「はあ?ダメに決まってるでしょ。杉田智和だーー!!って騒がれて走るはめになるよ?いいの?」
『いいよ、他人のふりするから』
「七海酷いよー薄情者ーーーー」
二人で笑いあいながら、夏の日差しの照りつける道を歩いていった
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