罰ゲーム
伏せたまつげがとても長くて、そんな所にもドキドキする。
初めて触れた他人の唇はとても柔らかくて、ちょっと、いやだいぶ気持ちよかった。
(僕、キスしてる。堀川くんと、キスしてるんだ)
呆然とする頭の中でその事実だけがぐるぐると回る。
目を閉じることが出来なくて、ゆっくりと離れていく堀川くんの綺麗な顔にピントが合ったとき、心臓が更に悲鳴を上げた。
そして、目を開けた堀川くんが薄く笑った瞬間、反対に僕の目からはポロポロと涙が零れ落ちた。
あぁ、分かってしまった。
この胸の痛みの正体を。
「え、ちょっ、一葉?」
「…ご、……ごめっ」
堀川くんは焦ったように僕の顔を覗き込んだ。
僕はその視線から逃げるように俯き、ただひたすら「ごめんなさい」と謝った。その間も僕の涙は止まらなかった。
堀川くんとキスをしてしまった。
こんなことまで僕なんかにさせてしまった。
僕があの日、告白なんてしなければ堀川くんはこんなことしなくても良かったのに。
なのに、僕は「嫌われたくない」なんてそんな醜いエゴで堀川くんを裏切ったんだ。
「どうしたの?一葉。嫌だった?」
「ち、ちがっ…ご…ごめんなさ…ごめんなさい」
僕が謝って距離を取ろうとするたび、堀川くんが距離をつめてくる。
そして差し伸べられた手を僕は叩いてしまった。
はっと我に返り堀川くんを見ると涙の幕のかかった目でも分かるくらいびっくりした顔をしていた。
あぁ、やってしまった。
嫌われる。
堀川くんに嫌われてしまう。
「っ…ごめんなさい!」
「一葉!!」
僕は呼び止める堀川くんに振り返りもせず、ただひたすら家を目指して走った。