罰ゲーム
―3時間前。
僕とニカは廊下に張り出された試験の順位表を揃って眺めていた。
「…私が勝ったわね、いっちゃん。約束…覚えてる?」
そう言いながら綺麗に微笑む美少女は立花二華(フタカ)。
彼女は僕の双子の片割れで、僕はニカと呼んでいる。
今日も短いスカートからすんなりと伸びる脚が目に眩しい。
当然イヤらしくない意味で、というよりも、脚長くていいなぁと見ていたらニカが顔がくっつきそうなくらい僕に近付いて来た。
いつもの事だからそのままにしていると、僕たち同様順位表を見に来ていた回りの生徒がざわつき始めた。
あぁ、ニカの一挙一動に目を奪われているんだな。
うんうん分かる。ニカは可愛いから。
何てことを考えていれば、当のニカはドスのきいた声で皆を睨付けながら言った。
「見てんじゃないわよ、愚民共。いっちゃんはねぇ見せもんじゃないのよ「わわっ!!」
何て事を!!
僕は慌ててまだ何か言いそうなニカの口を押さえた。
「…皆が見てるのは僕じゃなくてニカでしょ。それから口が悪いよっ。女の子でしょ。ほら行くよ。
あの、お騒がせしてごめんなさい」
前半はニカに、後半は回りの人に言うとぺこりと頭を下げてニカと一緒にその場から離れた。
もう一度だけ皆の方を振り返って見ると一斉に顔を赤らめて逸らしたのが見えた。
「もう、ニカがあんなこと言うから皆怒っちゃったじゃないか」
早歩きで校舎を横切りながら小声で言うと、ニカは憐れむような目で僕を見た。
その目が気になり、立ち止まる。
「な、なに?」
「…あいつらも可哀想に…いっちゃんは鈍ちんだもんね。でもそこが可愛いんだけど」
意味が分からず首を傾げると、溜め息をついて「それも私が居ないときにしちゃダメよ」と注意された。
その言い方に、僕の方がお兄ちゃんなのに、なんて思わないでもなかったけど、ニカが何だかさっきのことを忘れているようなので、このまま話が逸れたままになればと期待した。
が、
「いっちゃん、それはそうと約束、覚えてるよね」
やっぱり…しっかり覚えているようだ。
いたずらを思いついた少年みたいな笑顔のニカに僕が敵うわけない。
「…覚えてます…」
僕は観念して項垂れた。
ニカと僕の約束。
それは『今度のテストで点数の悪い方が良い方の言うことを一つ聞く』というものだった。
急にそんな子供じみた遊びをニカが言い出すなんて不思議に思ったけど、面白そうなので話に乗った。いつもの成績からすれば、勝つのは僕のはずだった。もちろんそれに驕ることなくちゃんと勉強した。
しかし、結果はニカの方が20点ほど上だった。
「…ニカ、いつもは全力出してないの?」
「まさかぁ。いつも私は全力よ。でも今回は勝負だもの、頑張ったの」
そう堂々と言ってのけるニカに僕は感心する。
僕にはこんな向上心とか誰かに勝ちたいなんていうものは最初から備わっていないから。
多分僕の分のそういう気持ちは母さんのお腹の中でニカが全部吸いとったんじゃないかと思っている。
なんだかんだ言っても、ニカが僕より良い点数を取ったことには変わりない。
それにここで駄々をこねたってしょうがない。
「…わかった。ニカが勝ったことに間違いない。僕にしてほしいことって何?」
その言葉を聞いてニカはさらに笑顔になった。
「ふふ、いっちゃんのそういう潔のいいとこ大好きよ。
いっちゃんにしてほしいことはね……」