春を待つ
「どうしたんですか?基さん」
途中で止まって、ただ慎也を見つめる俺に慎也は訝しげに首を傾げた。
「お前になっちゃうな。…なんでだろう」
「は?なにがですか?」
慎也は俺の言葉にぽかんと口を開ける。その顔も何だか間抜けで可愛い。
俺はその顔を見てへらりと笑った。
「…正也の顔が……全部お前になるんだ。」
そう俺が呟いた瞬間、視界が急に反転した。
(あれ、俺相当酔ってんなぁ…)
と思ったけれど、そうじゃなかった。
俺は慎也に押し倒されていた。
「何してんの、お前」
「…基さんが悪いんですよ。そんな潤んだ目で俺を見るから。正也の顔が俺のになるなんて言うから…」
「しん…や?」
俺の首筋に顔を埋めているからか、慎也の表情は見えない。けれど、いつものような余裕のある話し方じゃない。どこか焦れているような、泣きそうな声だった。
触れる唇や息がとても熱い。
それは多分、酒の所為だけじゃない。
「あなたの中から完全に正也を追い出したい。体だけでいいと思ってた。けど、心も欲しい。
…あなたが好きです。あなたを俺だけのものにしたい」
「慎也?なに…どうした…んだよ」
俺がそう尋ねても慎也は俺の体を弄る手を止めなかった。
「や、ちょっと…慎也っ」
酒を呑んでいるからか体が上手く動かず、抵抗らしい抵抗も出来ない。
けれど一度でも男から受ける快感を知ってしまった俺の体はぞくぞくと熱くなり始めていた。
それをいいことに慎也の手は俺の体を這い回る。
丁度、慎也の指が的確に俺の乳首を指で捉えた時、声が上がった。