ゆめか、うつつか
「悟」
「えっ?」
久しぶりに名前で呼んだからか、悟はばっと顔を上げた。
今度は俺がにじり寄って、悟のほっぺたに唇を落とした。
「んなっ!ミヤ!!」
「さっき口にチューしたからおあいこだ」
俺はニッコリと笑う。
それを見た悟は顔を真っ赤にして俺に抱きつこうとしたが、俺はそれをひらりとかわし、ソファに身を沈めた。
あぁなんていい夢なんだろう。
悟が俺を好きとか、そんなのあるわけないのに、俺にとってなんて都合のいい夢なんだ。
あの声の主が悟だったらいいのになんて心のどこかで思っていたのかもしれない。
俺だってずっと悟に好かれたかった。
あの親友じゃない発言で怒ったのは悔しかったからじゃない。
悲しかったからだ。
俺は少なくとも一番に悟のことを考えていたし、悟にもそうであってほしいと思ったからだ。
“悟”を“早川”と呼ぶようになって、傷付いたのは俺の方。
だから今日の夢は凄く幸せだ。
いつものあの名前を呼ばれる夢よりも凄く嬉しい。
何か夢の外側で焦ったような声が聞こえたけれど、俺は起きないぞ。もっと余韻に浸らせろ。
俺は暖かい気持ちのまま、ゆっくりと深い眠りに落ちていった。
おわり