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覚えてやがれ!



「今日の、飲み会で…」
「うん?」
「津村にちょっかいかけてただろう。いっぱい触ってた」
「あぁ…あれ」


なんだそんなことかとでも言うように誠は笑った。
そのことにカチンときて俺は奴を睨みあげる。


「…どうせ俺は可愛くないよ。背は普通にあるほうだし、性格もつんけんしてるし、ほっぺただって、丸かったのなんて中学までだし、そのほっぺたに津村みたいに食いモンあんなに詰まんないし、目だって悪いからたまに目つき悪いって言われるし、それから、それから…」
「ああもう、ストップ。停まれ」


誠は俺の喋り続ける口を掌で塞いだ。
俺はもごもごと抗議の声を上げた。


「はぁ…お前…なんでそんな可愛いの?」
「ふぐっ?!」


そういうと誠は今度は正面から俺を抱きしめた。


「お前は十分可愛いよ。可愛すぎて抱き殺しそうになる」
「だ、抱きころっ…」
「俺が津村を触りまくったのは、本橋に発破を掛けるためと、ついでにお前に嫉妬させるためだよ」
「は?なんで?」


理由が突飛過ぎてよく分からない。
俺は誠の膝の上に飛び乗り、「意味が分からん」と襟首を掴みあげた。
それに誠は苦笑して俺にまた一つキスをした。


「お前だってもう分かってると思うけど、本橋は津村が好きなんだよ。だから、ぼやぼやしてると他の男に取られるぞ、と態度で忠告してやったんだよ」

津村というのは俺の同期で、とても社会人には見えないようなちんまりした奴だけど、とてもいい奴だ。もともと他人とつるむことを得意としない俺だけど、津村とだけは結構仲良くしている。
一方、本橋さんという人は俺と津村の働く第二企画室の室長だ。

俺が弟を見るような目で津村を見ていたら、いつも本橋さんから視線を感じた。
津村に対しての欲のこもった目と俺に対しての嫉妬と言うか、険悪な感じの視線だったのが印象に残っている。

「あ、やっぱり本橋さんってそうなんだ。津村鈍感だからなんかかわいそうだな」
「…鈍感って、それお前が言うか」
「は?なんだよ」

訝しく思い、誠に尋ねるが奴は曖昧に笑った。



「で、もう一つの理由の俺に嫉妬させるってどういう意味だよ」

こっちがメインと言ってもいい。
嫉妬…確かにしたけど。コイツの思惑通りだったとしたらこれもムカつく。

「まんまの意味。お前と俺とじゃ、働いてる階すら違うし、それにお前って会社ですれ違っても目合わせないだろう。俺がどれだけそれでショック受けてるかなんて知らんだろう。だからちょっとお仕置き」


誠は言い終わるとキスを再開させた。
このまま快感に流されてなしくずしにしてしまっては駄目だ。
俺はさっきとは反対に誠の口を押さえた。


「ちょ、と待て。しょ、ショック受けてたなんて知らねぇよ。大体俺が、会社にいるときお前を見ないのは…」
「はに?(何?)」
「あ…」

(…言ってもいいだろうか。引かれたりしないかな…)


俺はもともとゲイで、でも誠は違う。
もし、本当のこと言って嫌われたら、そう思うと怖くなる。
今まで何度となくそういう理由で捨てられてきたから、怖くて仕方がなかった。

俺が黙ったまんま誠の口から手をはずすと、今度は誠が俺の手を両手で包んでくれた。


「望、言ってごらん。俺はちゃんと聞いててやるから」


そう言った誠の顔がとても優しくて、泣いてしまいそうになった。
俺は俯いて小さな声で告げる。


「おれ…お前見てると…」
「うん」
「…駄目なんだ」
「…それは。嫌いってこと?」
「ちがう!!」


怒らせたと思って慌てて顔を上げると、ものすっごい極上の笑顔で奴は俺を見ていた。


「言って、望」

うー。やっぱりコイツには逆らえない。

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