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忘れてください!



「気をつけろよ、津村。こういうタイプは酔ったらキス魔になるから。まぁそん時はビンタでもしてやれ」



そう笑いながら言ったのは確か添田課長だった。
…添田課長。

キス以上の事されちゃった場合はどうすればいいんですか!!





時を遡ること10時間前。
僕は仲の良い同期たちと居酒屋に飲みに来ていた。

自分の好きな仕事だからそう言う方面での愚痴なんてものは出ないけれど、もう少し自分に自信がつくような仕事もしてみたい、なんて贅沢な愚痴を互いにこぼしていた。


酒も進み、いい感じにほろ酔いになっていると見覚えがある二人を見つけた。

一人は企画課の課長、添田誠さん。
もう一人は僕の所属する第二企画室の室長、本橋亮二さんだった。


「添田課長、本橋さん、お疲れ様です」
「あれ、お前達も飲みに来てたのか。よし。お兄さんが奢ってやろう」


と、添田課長に誘われ何故か一緒に飲むことになった。
爽やかな男前で社交的な添田課長と、分厚い眼鏡にボサボサの髪で顔の半分くらいが隠れている少し、いや大分暗めの本橋さん。
普段あまり見ない取り合わせだったし、酒の力も借りてか僕は2人を不躾にじろじろと見ていた。


「なんだ、津村。じぃっと見て。俺に惚れたか?」
「違います。お二人が一緒って初めて見たので珍しくて」


間髪入れず否定した僕に、添田課長は苦笑する。


「そんな力一杯否定しなくても。まぁお前らからしたら珍しいと言えば珍しいだろう。俺は出世欲バリバリのザ・サラリーマンって感じだけど、コイツはそんな事一切ないからなぁ。死なん程度に給料もらえりゃそれでいい、みたいな奴だから。同期って言わなきゃ分からんだろうし」

「へぇーそうなんですか。同期なんだ」


本当に言わなければ2人が同期だとは気が付かない。僕は添田課長と話している間も相槌すら打たず黙々と酒を飲んでいる本橋さんを改めて観察してみた。
やっぱりこんな席でも始終俯きがちで表情を読み取ることはできないし、話しかけても「うん」とか「そうだね」ぐらいしか返ってこない。
普段から職場でも仕事での会話以外はほとんどしないから、本橋さんがどんな人で、何が趣味でどんなものが好きだとかは誰も知らない。

でも仕事柄デスクワークが多いわりに、ちょっとダサいシャツの下は案外しっかりしているように思える。それに背も高いし、何よりも僕が気になったのは…


「本橋さんって顎のライン綺麗ですね。いいなぁ…。僕なんて25なのに未だに丸いんですよ。それにヒゲも綺麗に生えないし」


本橋さんの頬から顎にかけてのラインは男として理想的と言ってもいい。
もう30歳は越えているだろうに余計な肉などつかずしなやかだ。
素顔を見たことはないけれど、本橋さんも添田課長に劣らず男前なのかもしれない。
自分がいつまでも子どものような顔立ちだから余計にそう言うことには敏感になる。

「あぁコイツはちょっと特殊だからな。でも津村、お前のそれはそれで可愛いぞ」

そう言いながら、僕の方に身を乗り出した添田課長は頬を人差し指でぷにぷにとつつく。
それに僕は「可愛いとか嬉しくない」と更に酒を煽った。

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