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0距離の人



「勝久、お風呂が湧いたよ」
「うん。…なぁ、田崎さん、聞いていい?」
「何だい?」

俺はこの生活になってずっと疑問に思っていることがあった。
この機会に聞いてみてもいいかもしれない。

「田崎さんってさ、俺をどうしたいの?俺とどうなりたいの?」
「…え?…えぇっ?!」

そう。この男、俺を監禁しているというのに何もしてこない。
別に何かして欲しいというわけではないけれど普通、何かするもんじゃないのか?
そう思って尋くと、田崎はめちゃくちゃ挙動不審になって、顔を真っ赤にした。

「どうしたいって…え?え?」
「なんかないの?キスしたいとかセックスしたいとか」
「セ…!!」

直接的な単語を用いて言うと、今度は青ざめた。
その顔色を見た瞬間、俺はわかってしまった。
普段、人の感情の機微だったりなんなりに疎い俺でもその顔はわかるよ。
しかもそれを見てちょっとショックを受けている俺がいる。


「…あーなんかごめん。俺てっきり田崎さんが俺のこと好きなんだと思って勘違いした。今の忘れて」

田崎が俺を好きだと言うのなら、そう言う関係になってやっても構わない、と上から目線だが思えるくらいには俺は田崎のことを好きになりつつあった。
優しいし、飯はうまいし、俺の生活の面倒を見てくれるし。

が、とんだ勘違い野郎だったわけだ。
恥ずかしすぎるぞ、俺。
俺はそそくさと逃げるように風呂場へ行こうとした。

「ま、待って!!」
「フガっ!!」

田崎は俺の足の鎖を思いっきり引いた。
必然的に俺は顔面から倒れた。
柔らかいラグが引いてあってよかったけども。

「痛って…何すんだよ」
「だって!勝久が僕より先にあんな事言うから!!」
「?」

意味が分からずキョトンとすると、「はぁ!その顔も可愛い!!」と俺の足にしがみついたまま悶えた。
ちょっと気持ち悪い。


「僕は勝久が大好きで大事で、本当に大事に大事にしていきたいと思っていたから!それに勝久はそう言うことあんまり好きじゃないんだと思っていたから、だから、だから…!」

田崎はそう言いつつ、さらには、はぁはぁしながら迫ってきた。

「ちょ、きもいよ」
「いいんだね。僕とそういうことをしてもいいと思ってくれてるんだね!!嬉しいよ!勝久!!」

やばい奴だとは思っていたが、本当にこいつはやばい奴だ。そしてとうとう田崎との距離が0になった。



おわり
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