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ナマエ
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「いらっしゃいませ」
ドアに取り付けられたベルが澄んだ音をたてる。お客様がいらっしゃったようだ。パンを袋に入れる手を止めて売り場に目を向けると常連さんだった。真っ赤なスーツを身にまとった男性である。真っ赤といっても目に痛い赤では無くボルドーのような落ち着いた色。気品溢れる姿に似合い言葉使いや仕草まで美しい。そのためこっそり私は心の中で王子様、と呼んでいた。
彼は静かに店内を見渡すとぴたりと動きを止めた。その視線の先には丹精込めて作ったトノサマンパン。トノサマンの顔を模した中にはチョコクリームが入っている。私のお店で子ども人気ナンバーワンを誇っている。
トノサマンと見つめ合う紅い王子様。和と洋の異文化交流を感じる。
「……ぐぬぬ」
トノサマンに穴があきそうなほど睨みつける彼。買うが恥ずかしいのだろうか。確かに男の人がキャラクターもののパンを買うのは少し恥ずかしいかもしれない。私からしたらギャップ萌えでとても嬉しいのだが、彼はそうはいかないらしい。
引かれる後ろ髪を振りほどくように首を振って他のパンにトングを伸ばした。
私は一つ、思いついたことを実行しようと裏方に足を運ぶ。
「会計を頼む」
その声でレジに入ればトレーを片手に待っている彼。ひぇ、背が高い。何時も会計の時に思うのだが、クールビューティという言葉が似合う彼は案外体格が良い。しっかりとした肩幅、綺麗な逆三角形の体型である。うっかり見惚れてしまうが、今は仕事中だ。
「ありがとうございます。えっと、」
スイーツ系のパンからお惣菜系のパンまで幅広い種類が乗せられている。一人でこの量を食べるらしい。霞を食べて生きているイメージが勝手にあったので、新たな一面を知れた気がして嬉しかったのを覚えている。
手際よく計算すれば彼は滑らかな動きで財布を取り出し一枚札を取り出す。なんの疑問も持たず受け取ると一万円札。お釣り大変だな、の一言が脳裏を掠める。
「一万円お預かりします。お釣りは……」
いつもなら直ぐに答えが出せるのに……!
王子様の前でかっこ悪い姿なんて見せたくない。その思いとは裏腹に頭は真っ白になって答えが遠のく。そんな私に気がついたのかはっと息を飲むと彼は言葉を付け足す。
「釣りはいらん。いつも世話になっている礼だ」
「えぇええ!?!!!?いやいやいやいや、」
そんな訳にはいかない。一応経営者としてのプライドもある。対価も無しに易々と受け取る訳にはいかないのだ。
しばらく押し問答が続いた。結果は負けだ。とんでもなく口論に強かった。なんだこの人は……何者なんだ……
「……でも、このままでは私の気が済まないんです。だから」
丁度いい。こちらからプレゼントする口実にもなった。金額としては釣り合わないが、彼もこれなら断れまい。
そう思って、先程透明な袋に入れたトノサマンパンを手渡す。
「先程からこちらを気にされていましたので。受け取って頂ければ嬉しいです」
言葉の裏には「優しさを断るなんて野暮なことしないですよね」という圧を込めた。ちょっと狡いかもしれないが、彼の方が圧倒的にずるいので気にしない。
「……」
パンを詰め込んだ袋の上に優しく乗せ、持ち手を揃えて差し出す。彼を見上げると眉間のシワが何重にも増えている。あれ、間違ってたかな。
「違いましたか…?」
「い、いいいいや、そういうわけではなく、」
慌てて否定された。でも、この反応の理由は分からなくて更に首を傾げてしまう。あ、子ども扱いされてるような気がして嫌だったとか。それは有り得る。
「……その、なぜバレていたのだろうかと……驚いて……」
「あぁ、お店入ってきてからお客様、ずっとトノサマンのこと気にしてらしてましたから」
嫌では無かったことに緊張の糸が解ける。そのせいか口も軽くなって余計なことまで本音が零れてしまう。
「お客様、いつも来てくれてますよね。私すごい嬉しくて、それに王子様みたいでかっこいいなぁって」
計算が出来なくて慌てている私には気がつくのに、彼自身のことは気がつけないみたいだ。可愛いの一言に尽きる。きっと自分に向けられている好意に気が付かない鈍感さんだったりして、とまた余計な妄想が増えた。
「……そ、そうだったのか、その、わ、私も貴方の笑顔が素敵だと思っていた……のだ、」
……????
彼の視線が熱っぽい。頭がくらくらしてくる。言葉の意味を理解するより早く心臓が脈打つ。
「お、王子様、というのは恥ずかしいのだが、もし良ければその、友達から、」
この先の言葉を聞く前に勝手に言葉が口をつく。
「喜んでっ!!!!」
ドアに取り付けられたベルが澄んだ音をたてる。お客様がいらっしゃったようだ。パンを袋に入れる手を止めて売り場に目を向けると常連さんだった。真っ赤なスーツを身にまとった男性である。真っ赤といっても目に痛い赤では無くボルドーのような落ち着いた色。気品溢れる姿に似合い言葉使いや仕草まで美しい。そのためこっそり私は心の中で王子様、と呼んでいた。
彼は静かに店内を見渡すとぴたりと動きを止めた。その視線の先には丹精込めて作ったトノサマンパン。トノサマンの顔を模した中にはチョコクリームが入っている。私のお店で子ども人気ナンバーワンを誇っている。
トノサマンと見つめ合う紅い王子様。和と洋の異文化交流を感じる。
「……ぐぬぬ」
トノサマンに穴があきそうなほど睨みつける彼。買うが恥ずかしいのだろうか。確かに男の人がキャラクターもののパンを買うのは少し恥ずかしいかもしれない。私からしたらギャップ萌えでとても嬉しいのだが、彼はそうはいかないらしい。
引かれる後ろ髪を振りほどくように首を振って他のパンにトングを伸ばした。
私は一つ、思いついたことを実行しようと裏方に足を運ぶ。
「会計を頼む」
その声でレジに入ればトレーを片手に待っている彼。ひぇ、背が高い。何時も会計の時に思うのだが、クールビューティという言葉が似合う彼は案外体格が良い。しっかりとした肩幅、綺麗な逆三角形の体型である。うっかり見惚れてしまうが、今は仕事中だ。
「ありがとうございます。えっと、」
スイーツ系のパンからお惣菜系のパンまで幅広い種類が乗せられている。一人でこの量を食べるらしい。霞を食べて生きているイメージが勝手にあったので、新たな一面を知れた気がして嬉しかったのを覚えている。
手際よく計算すれば彼は滑らかな動きで財布を取り出し一枚札を取り出す。なんの疑問も持たず受け取ると一万円札。お釣り大変だな、の一言が脳裏を掠める。
「一万円お預かりします。お釣りは……」
いつもなら直ぐに答えが出せるのに……!
王子様の前でかっこ悪い姿なんて見せたくない。その思いとは裏腹に頭は真っ白になって答えが遠のく。そんな私に気がついたのかはっと息を飲むと彼は言葉を付け足す。
「釣りはいらん。いつも世話になっている礼だ」
「えぇええ!?!!!?いやいやいやいや、」
そんな訳にはいかない。一応経営者としてのプライドもある。対価も無しに易々と受け取る訳にはいかないのだ。
しばらく押し問答が続いた。結果は負けだ。とんでもなく口論に強かった。なんだこの人は……何者なんだ……
「……でも、このままでは私の気が済まないんです。だから」
丁度いい。こちらからプレゼントする口実にもなった。金額としては釣り合わないが、彼もこれなら断れまい。
そう思って、先程透明な袋に入れたトノサマンパンを手渡す。
「先程からこちらを気にされていましたので。受け取って頂ければ嬉しいです」
言葉の裏には「優しさを断るなんて野暮なことしないですよね」という圧を込めた。ちょっと狡いかもしれないが、彼の方が圧倒的にずるいので気にしない。
「……」
パンを詰め込んだ袋の上に優しく乗せ、持ち手を揃えて差し出す。彼を見上げると眉間のシワが何重にも増えている。あれ、間違ってたかな。
「違いましたか…?」
「い、いいいいや、そういうわけではなく、」
慌てて否定された。でも、この反応の理由は分からなくて更に首を傾げてしまう。あ、子ども扱いされてるような気がして嫌だったとか。それは有り得る。
「……その、なぜバレていたのだろうかと……驚いて……」
「あぁ、お店入ってきてからお客様、ずっとトノサマンのこと気にしてらしてましたから」
嫌では無かったことに緊張の糸が解ける。そのせいか口も軽くなって余計なことまで本音が零れてしまう。
「お客様、いつも来てくれてますよね。私すごい嬉しくて、それに王子様みたいでかっこいいなぁって」
計算が出来なくて慌てている私には気がつくのに、彼自身のことは気がつけないみたいだ。可愛いの一言に尽きる。きっと自分に向けられている好意に気が付かない鈍感さんだったりして、とまた余計な妄想が増えた。
「……そ、そうだったのか、その、わ、私も貴方の笑顔が素敵だと思っていた……のだ、」
……????
彼の視線が熱っぽい。頭がくらくらしてくる。言葉の意味を理解するより早く心臓が脈打つ。
「お、王子様、というのは恥ずかしいのだが、もし良ければその、友達から、」
この先の言葉を聞く前に勝手に言葉が口をつく。
「喜んでっ!!!!」
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