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ナマエ
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彼女と出会ったのは二ヶ月ほど前の事だった。この姿を見ても怯えることなく「ナンパならお断りです」と言い放った彼女に強く興味をそそられしつこく話しかけ、ようやく向こうからも話し話しかけてくるくらいの関係性にありついたのだった。今日は先に彼女が来てたらしく、カウンターでグラスを傾けてはマスターと楽しそうに談笑している。ドアベルの音に釣られてこちらを見た二人は待っていたと口角を上げたので、軽く手を挙げて彼女の隣に座った。
「真島さん、今日は遅かったですね」
「最近ちょっとごたついててな。なんやマスターと楽しそうに話しとったけど、何話しとったんや?」
仲間はずれにすんなや、なんて戯れるように言ってはみたが腹の底は嫉妬でぐらぐらと煮えたぎっている。好いた女とはいえまだ他人、誰と仲良くしてようが文句が言える立場に無いのが酷く歯がゆい。早くこの女を自分のモノにしたいと焦れったさを紛らわせるように、マスターが出した酒を一気に半分ほど煽った。嫉妬した相手が用意した酒で気を紛らわせるとは何とも間抜けな構図なんだと呆れつつ、自分が彼女にどれだけ本気で惚れているのかを自覚する。
「秘密です。ね、マスター」
「ふふ、そうですね。少なくとも今は、ね」
「えっ、いつかバラすつもりなんですか?!」
「えぇ、お客様が無理して飲もうとした時にでも脅しに使おうかと」
二人の口ぶりから察するに彼女にとって重要なことのようだ。隣で「マスターの卑怯者!」と彼女が騒いでいるのは普段の凛とした姿からは想像もつかない。どうやら彼女は結構酔ってるらしい。マスターにだけ楽しそうに秘密を話したのか、と一度鎮火しかけていた嫉妬にガソリンが注がれた。マスターはどこに出しても恥ずかしくないいい男だと認めているがこれは。普段なら可愛いと思う彼女の笑顔も自分よりマスターを優先しているように見えてきてしまって、だいぶ重症らしい。
「酔い潰れない限り他言しませんよ」
マスターは彼女を窘めつつこちらを見てすっと目を細めた。あぁ、ホンマに腹立つくらいいい男やな。彼女が酔い潰れたら教えると遠回しに教えられてしまえばもう降参するしかない。とはいえ、彼女が自分の許容量を超えて酒を飲むことはないので、一人の時にということだろう。明日にでも来て一番高い酒を注文してやろう。
勝手に客の情報を流すのは褒められたことでは無いが、彼は「客にとって利益」があれば聞かずとも口を割る。とある客が詐欺に引っかかったから助けてやって欲しい、はたまた別の客には一人で帰るのは危ないから駅まで送ってあげてくれだとか。当然面倒ではあるが代わりにこちらの欲しい情報を提供して貰っている礼も兼ねて真島や真島組の面々はこの店を贔屓していた。
「にしても、今日は随分呑んどるやんか」
「新しいお酒挑戦してみたら想像より回りが早くって」
「あぁ、そういうことかいな。ヤケ酒かと思うたわ」
「あはは、心配してくれたんですか?」
これ初めてで、とグラスを軽くつついた。ほんのり頬が赤い彼女がカウンターに肩肘をついてこちらを見上げる。……ホンマにこいつ酔っとるな。色っぽくて思わずぐらりと来てしまったのを隠すように彼女の頭をぐりぐりと撫でてやる。「ぐしゃぐしゃに……ぅ、酔いがまわる……」なんて言い出すから慌てて手を離して顔を覗き込んだ。先程より頬が数段赤くなっていて、気持ち悪さに耐えているのか肩で呼吸をしている。マスターに水を用意してもらい彼女の手にグラスを握らせ、ゆっくりと水を飲む姿をじっと見つめた。こく、こく、と数回喉が動く。唇を離した彼女の手から空になったグラスを回収しその背を撫でた。
「すまん、大丈夫やったか」
「……はい、大丈夫……です」
「駅まで送ったるから今日はもう飲むのやめとき」
「はぁい……」
彼女が半分ほど飲んでいた酒を取り上げ一気に飲み干し違和感を覚えた。初めて挑戦してみた酒、と言っていたがこれは普段から彼女が気に入って飲んでいる酒だ。酔っ払いが間違えただけか、と些細な違和感は置いておいて自分の分の酒も流し込む。
「マスター、こいつ駅まで送ってくるわ」
「おや、お気をつけて。真島さんもそのまま帰りますか?」
「おう、また今度飲みにくるわ」
ジャケットから札を一枚取りだしカウンターに置いて彼女の顔を覗き込み視線を合わせる。酔いは落ち着いたようだが顔がりんごのように真っ赤に染まっていた。酔うと顔が赤くなるタイプやったんか、なんて知らない一面を知れて内心喜ぶ。
「いっつも自分で絶対にふらふらになるまで呑まへん言うてんのに」
「そうですよ、神室町で女が生きるのは大変なんです」
「ヒヒッ、今日はワシがいて良かったな」
素直にこくりと頷いて立ち上がった彼女の肩を抱いて支えた。このまま攫えてしまいそうだな、と考えた己の煩悩を振り払う。そんなことをしたところで彼女は振り向いてくれるどころか真島を嫌うだろう。欲しいのは体だけでなく心も全部だ。紳士であれと自分に言い聞かせながら「ほなまた」とマスターに軽く片手を挙げ、細い腰を支える。店を出ようとする背中にマスターは口を開いた。
「今度はちゃんと酔いに来てくださいね」
言葉の真意を理解するより早く、走って逃げようとした彼女の腰を強く抱き寄せた。
(なんで酔った振りなんてしてたんや)
(……べつに、良いでしょ)
(お持ち帰りされたかった〜とかやったりする?)
(なっ?!そんな訳ないでしょっ!)
(ヒヒッ、分かりやすくて可愛ええ奴)
