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ナマエ
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「真島さん……」
本当は頼りたくなかった。でも、頼るしかなくなってしまった。スマホを掴み、大好きな彼の名前をタップした。耳に当てたスマホに意味もなく空いている片手を重ねる。きっと今は仕事中だ。それでも彼は危ない目に合った時にすぐ駆け付けられるように何時でも出れるようにしてると言っていたから、きっとこの電話にも出てくれるはず。緊急事態ではないけれど、異常事態であることは間違いない。彼が来てくれるまで、大人しく部屋で待っていることは出来───
ガチャ。
扉を開ける音に慌てて振り向く。何が起きたか事態を把握したと同時に携帯から流れていた電子音が止まって今一番聞きたかった彼の声が響く。慌てて外に出ようとする“私”の手を掴み、電話口に叫んだ。
「ま、真島さん!分身しちゃった!!たすけて!」
▼
真島さんが到着するまで、私はというと外に出ようとする私をもう一人の私と一緒に羽交い締めにしていた。ちなみにもう一人の分身はベッドで丸くなってすやすや眠っている。
全部で三人、本体の私含め四人だ。それぞれ個性があるようで、外に出ようとしている私は活発、一緒に活発を抑えてくれているのは保守派、惰眠を貪っているのはマイペースという具合に別れたらしい。到着した真島さんは一先ずじたばたと暴れる活発をとっ捕まえその腕の中に捕らえた。抑えていた私と保守派は息を吐いて、ソファに座る。彼は活発を抱えて向かい合うように床に座った。ちなみにマイペースは眠そうに後ろからとてとてついてきて、隣にいる保守派に寄りかかってぼんやり彼を見つめている。
何から話そうか悩んでいたところで、活発が嬉しそうに彼に抱きついた。思わず彼女の口を塞ぐ私を彼は何が起きたかさっぱり分からないと言わんばかりに首を傾げた。私には彼女の言葉ははっきりと聞こえるのだが、どうやら真島さんには聞こえていないらしい。だとしても、こうなるから呼びたくなかったんだ。
本体である私の感情が分身それぞれに分散したらしい。そのせいで彼女達の行動は一つの欲に素直になってしまった。要するに考えてることが全て彼女達の行動に現れてしまうのだ。だから、私の嬉しいという気持ちを代表して活発が行動に移した。嘘では無いし、傷付けるようなことでもない。でも、普段なら絶対にしないような行動を取っているのがたまらなく恥ずかしい。この後分身達が消えるまでこの苦行を耐えなくてはならないと思うと目眩がしてくる。
活発を後ろから抱き締めるようにして引き剥がして、胴体に足を絡めて全身で羽交い締めにした。顔が熱くて暑くて、逃げるようにその背に隠れる。隣の保守派が慰めるように背中を撫でてくれた。我ながら優しい子である。
「……ほぉ。何となく状況が掴めてきたわ」
極めて冷静に、しかし愉しそうに彼が呟いた。少し嫌な予感、いや期待にぞわりと肌が粟立つ。多分分身も皆、その予感に一斉に動きを止めたのだろう。気がつけば彼はソファを背にして床に座っていて、その首に後ろから巻きついた活発を境にマイペースは膝の上を陣取り、保守派は腕に抱きつく。
「ヒヒッ、生きてる間にこないな天国味わえるとはなぁ……」
私も見たことないでれでれの顔をしている彼に無性に腹が立つ。本体の私よりもそっちがいいのか。彼女達を活発だとか呼んでいるが、今の私に同じような肩書きを付けるなら嫉妬だ。生産性の無いことをぐるぐると考えている間に、撫でられているマイペースがうっとりとした表情を浮かべながら彼の両頬をそっと両手で包んで───まって、アイツどう考えてもキスしようとしてる。
「ストップ!」
マイペースの口を後ろから塞いだ。幾ら分身であろうと彼が私以外とキスするのは許せない。七つの瞳がこちらを見上げる。マイペースだけは少しにやっと笑ってこちらを見ている。コイツ……!!自分自身に嫉妬、という字面が間抜けに思えて、活発が膝立ちしている横に慌てて座った。斜め下にいる彼が楽しそうな声を上げる度、胸の辺りが苦しくなってくる。この子達が消える条件は何となく分かるし、出てきた理由も分かってる。だからこそ、彼に頼まなくてはいけないのは理解していても、素直に頼めない。悶々と悩んでいる間も分身達は『好き』『もっと撫でて』『ちゅーしたい』と好き勝手言っている。
「ほんで、この子達はどないしたら消えるんや」
「……あぁ、消す気あったんですね」
「そりゃそうやろ。あんま長いこと出しとると何があるか分からへんし」
その割には随分堪能してましたけど、と毒づきたいのを必死に堪えた。本当は私だってもっと甘えたいし甘やかされたいしベタベタしたいし、それにそれに。嫉妬が大きく膨らむとそれに比例して分身の行動がさらに大胆になるようで、今度は保守派がキスをしようとしていたので思いっきり頭を叩いた。
「あっ、叩かんでもええやんか!可哀想になぁ……痛かったやろ?」
「うるさい、真島さんは黙ってコイツら消すの手伝ってください」
「いて、ってもうコイツら呼びになっとるやんけ……」
温いこと抜かす彼の頭もついでに叩く。何が起こるか分からないって言ってたのに。眉を八の字にした彼は叩かれた分身の頭を撫でた。ちなみに撫でられている私は大層満足なようで、見るのも恥ずかしいくらいの笑みを浮かべている。分身達にほほ笑みかけるのも撫でる手を止めることも無く彼は口を開いた。
「ほんで、全員抱いたらええんやっけ」
「だっ……?!そんなこと言ってないでしょ!」
ヒヒヒッと悪戯っぽく笑う彼のぶっ飛んだ発言に思わず大声で反応してしまった。分身達はその言葉にそわりと期待を滲ませるので全員まとめて引き剥がして背後に庇う。このままコイツらが彼に引っ付いていたら目の前で始まってしまう。後ろから邪魔しないでだとか文句が聞こえ、思わず振り返って叱るものの効果は無かった。
「全員まとめて可愛がったるで?」
くいっと指先を曲げ、首を傾げながら彼が囁く。わざとらしく情事を仄めかすような甘ったるい声色にくらりときてしまった。当然ながら私達のキュンとくるポイントは同じなので、本体分身共に顔を真っ赤にして思考停止した。後ろ手に抑えていた活発が思い切り飛びついたものの彼は難なく抱きとめた。彼が猫を可愛がるみたいに優しく活発の頭を撫でると私の背後に居た二人も続いて抱き着く。ずるい、私だって。だからと言って捻くれ者の私は素直に抱きつけない。もやもやとただ息苦しさに耐えていると猫を持ち上げるみたいに活発を抱えた彼がこちらに視線だけをこちらに寄越して問いかける。
「なぁ、この子らが何言うてるか通訳してくれや」
拒否したい。反射で断ってしまいそうになるのを何とか堪える。コイツらが消えるのに必要なことだ。彼を見てしまうと通訳なんてろくに出来そうにないので、少し横を向いた。聞こえる声は全て本音で心当たりがある。その中でも理由は違えど言えないで抑圧されていた本音だ。それを本人に伝えることになるとは思っていなかったのもあって、恐る恐る口を開く。
「……ソイツは、会えて嬉しいってひたすら言ってる」
「ヒヒッ、そうなんか〜。可愛ええのぉ」
ぽふん。
伝えられたのをきっかけに消えたようだ。方法は間違っていないことが確定したと同時に、あと二人分の言葉を伝えなくてはならないことに絶望する。何の羞恥プレイなんだ。一番マシだった活発の言葉でさえ恥ずかしくてたまらなかったのに。先の長さを憂いていると次は保守派が彼の膝の上に乗ったようだ。頼むで、と声を掛けられたので渋々頷く。
「……困らせたくない、でも本当はもっと一緒にいたい、会いたいって」
「そないなこと遠慮せんでええのにぃ。ワシ何時でも駆け付けるで」
「仕事はしてください」
冷たく言い放った言葉が彼に刺さったのと保守派が消えたのが同時だったようで、二倍真島さんは悲しそうに唸った。照れ隠しなのは気がついているはずだが、彼は何時も知らないふりして傷付いた演技をする。狡い人だ。
さて、最後に残ったのはマイペースである。実の所コイツが一番ヤバイ。マイペースと名を付けていたが、コイツは七つの大罪で言うところの色欲に当たる。ずっと聞こえていた声さえも耳を塞ぎたくなるほどだったのに、それを伝えろとなるともうこの場で腹を切って死んでしまいたいくらいだ。どうしようと頭を抱えていると彼女が早速本音を零し始める。真島さんは何を言っているか分からないながらも、「ふんふん、ほんで?」と相槌を打っている。
「……ちょっと待ってください」
どう伝えるのがマシだろうか。これはだめ、あれもダメ、候補が消えていく度にカーペットに書いたバツが増えていく。耐えられる羞恥の限界点はとうの昔に超えていて、キャパオーバーした分の照れは熱となって体を火照らせていた。背中はじっとりと汗ばんでいるのに、喉は乾いて仕方ない。
はぁ、と落ち着く為に吐いた息が熱っぽくて思わず口元を抑えた。こんな、興奮してるみたいな───ここまで考えて気がついてしまう。この状況が寧ろ心地よくて、気持ちよくて堪らないと体が訴えていることに。そんな馬鹿な、といくら理性で否定しても事実は覆らない。足元に増えていたバツ印は段々と形を崩し、ただの線の塊になっていく。
『いじわるされたい』
ふと流れ込んできた音にはっと顔を上げた。ぱちりと真島の膝の上の彼女と目が合った。幸せそうに緩んでいた頬が私を揶揄うような笑みに変わりその唇が動く。
───やっと気がついたね。
恐怖に似た何かが電流のように背筋をなぞった。そんな私を見て気を良くしたのか彼女は満足気に微笑むと彼の首に腕をかけ引き寄せ唇を重ねる。そのまま名残惜しそうに唇を離すとこちらに視線だけ向け、悪戯っぽくウィンクを一つ飛ばし跡形もなく消えた。引き剥がそうと伸ばした手は空を掴み、その場に私は膝から崩れ落ちる。怒涛の展開に二人して何も言えず、顔を見合わせた。
「……最後の子ぉは、積極的やったなぁ」
「……ですね」
だんだんと状況が掴めてきたのか真島さんの表情が困惑から愉快に変わっていく。嫌な予感がしたので逃げようとしたが、彼に叶うはずがなく向かい合うように膝の上に乗せられてその腕の中に捕らえられてしまった。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる私をにまにまと笑いながら左右それぞれの頬を摘む。
「ほんで、あの子何言ってたか教えてくれや」
「おひょわいまふ」
「え〜、そんないけずなこと言わんでやぁ」
断ります、と聞き取れたかは分からないがむにむにと頬で遊びながら笑う彼の瞳は全てを慈しむように優しくて全部許せてしまう。子ども扱いされても、揶揄われても、分身に取られてしまって悔しくても、ヘンテコな格好の彼の一途な愛を向けられてしまえば嬉しさで上書きされてどうでも良くなってしまうから狡い。むすっとしてる私に甘やかすように唇を落としたり撫でたりしてた彼がふと思い出したように口を開いた。
「せや、最後の子ぉはなんで消えたんや?」
「……多分、“私が自覚すること”が条件だったみたいで、そういう事です」
「ほーん、そんで何自覚したん?」
「秘密です」
いけずぅ、といい歳したオッサンが唇を尖らせて訴える。普通なら見苦しいのだろうけど、私からすれば可愛く見えてしまうから重症だ。両手で彼の頬を撫でてそのまま口付ける。ぱちぱちと彼が数回瞬きをした後、口角が徐々に上がっていく。襲い来る大声に備え耳を塞ぐと案の定。
「あー!!もう、ホンマ可愛ええな!!!」
嫉妬したんか、とご機嫌な彼にぎゅうぎゅうなでなでされる。少し鬱陶しく思いながらも、不思議と荒れていた心が落ち着いてきた。その穏やかさに目を閉じ、彼の胸に体を預け背に手を回した。同じように彼の手が背中に回って、ぎゅうと抱きしめられる。
「にしても、意地悪されたい思うてるとはなぁ」
「あ、いや、その、それはちが───いやまって、私それ伝えましたっけ」
「……あー、ミスった。何でもあらへんわ。」
「今何隠したんですか?!ねぇ!!」
和やかで甘い空気はどこかに消し飛んで、必死に問い詰めたが、結局彼の口を割らせることは出来なかった。ついでに彼の腕から抜け出ようと力を入れても全く歯が立たず、諦めてまた体を預ける。しばらくして彼の幸せそうな鼻歌が聞こえてきて、もうどうでも良くなってしまった。
(あれ、そもそもなんで私分身できたんだろう)
(そんなん簡単や。ワシの熱くて濃〜いの奥にたんまり注───いてっ)
(変なこと言わないでください!)
(えー、他の理由なんかあるんか?)
(……)
(やろ?)
(……恐怖を覚えました)
本当は頼りたくなかった。でも、頼るしかなくなってしまった。スマホを掴み、大好きな彼の名前をタップした。耳に当てたスマホに意味もなく空いている片手を重ねる。きっと今は仕事中だ。それでも彼は危ない目に合った時にすぐ駆け付けられるように何時でも出れるようにしてると言っていたから、きっとこの電話にも出てくれるはず。緊急事態ではないけれど、異常事態であることは間違いない。彼が来てくれるまで、大人しく部屋で待っていることは出来───
ガチャ。
扉を開ける音に慌てて振り向く。何が起きたか事態を把握したと同時に携帯から流れていた電子音が止まって今一番聞きたかった彼の声が響く。慌てて外に出ようとする“私”の手を掴み、電話口に叫んだ。
「ま、真島さん!分身しちゃった!!たすけて!」
▼
真島さんが到着するまで、私はというと外に出ようとする私をもう一人の私と一緒に羽交い締めにしていた。ちなみにもう一人の分身はベッドで丸くなってすやすや眠っている。
全部で三人、本体の私含め四人だ。それぞれ個性があるようで、外に出ようとしている私は活発、一緒に活発を抑えてくれているのは保守派、惰眠を貪っているのはマイペースという具合に別れたらしい。到着した真島さんは一先ずじたばたと暴れる活発をとっ捕まえその腕の中に捕らえた。抑えていた私と保守派は息を吐いて、ソファに座る。彼は活発を抱えて向かい合うように床に座った。ちなみにマイペースは眠そうに後ろからとてとてついてきて、隣にいる保守派に寄りかかってぼんやり彼を見つめている。
何から話そうか悩んでいたところで、活発が嬉しそうに彼に抱きついた。思わず彼女の口を塞ぐ私を彼は何が起きたかさっぱり分からないと言わんばかりに首を傾げた。私には彼女の言葉ははっきりと聞こえるのだが、どうやら真島さんには聞こえていないらしい。だとしても、こうなるから呼びたくなかったんだ。
本体である私の感情が分身それぞれに分散したらしい。そのせいで彼女達の行動は一つの欲に素直になってしまった。要するに考えてることが全て彼女達の行動に現れてしまうのだ。だから、私の嬉しいという気持ちを代表して活発が行動に移した。嘘では無いし、傷付けるようなことでもない。でも、普段なら絶対にしないような行動を取っているのがたまらなく恥ずかしい。この後分身達が消えるまでこの苦行を耐えなくてはならないと思うと目眩がしてくる。
活発を後ろから抱き締めるようにして引き剥がして、胴体に足を絡めて全身で羽交い締めにした。顔が熱くて暑くて、逃げるようにその背に隠れる。隣の保守派が慰めるように背中を撫でてくれた。我ながら優しい子である。
「……ほぉ。何となく状況が掴めてきたわ」
極めて冷静に、しかし愉しそうに彼が呟いた。少し嫌な予感、いや期待にぞわりと肌が粟立つ。多分分身も皆、その予感に一斉に動きを止めたのだろう。気がつけば彼はソファを背にして床に座っていて、その首に後ろから巻きついた活発を境にマイペースは膝の上を陣取り、保守派は腕に抱きつく。
「ヒヒッ、生きてる間にこないな天国味わえるとはなぁ……」
私も見たことないでれでれの顔をしている彼に無性に腹が立つ。本体の私よりもそっちがいいのか。彼女達を活発だとか呼んでいるが、今の私に同じような肩書きを付けるなら嫉妬だ。生産性の無いことをぐるぐると考えている間に、撫でられているマイペースがうっとりとした表情を浮かべながら彼の両頬をそっと両手で包んで───まって、アイツどう考えてもキスしようとしてる。
「ストップ!」
マイペースの口を後ろから塞いだ。幾ら分身であろうと彼が私以外とキスするのは許せない。七つの瞳がこちらを見上げる。マイペースだけは少しにやっと笑ってこちらを見ている。コイツ……!!自分自身に嫉妬、という字面が間抜けに思えて、活発が膝立ちしている横に慌てて座った。斜め下にいる彼が楽しそうな声を上げる度、胸の辺りが苦しくなってくる。この子達が消える条件は何となく分かるし、出てきた理由も分かってる。だからこそ、彼に頼まなくてはいけないのは理解していても、素直に頼めない。悶々と悩んでいる間も分身達は『好き』『もっと撫でて』『ちゅーしたい』と好き勝手言っている。
「ほんで、この子達はどないしたら消えるんや」
「……あぁ、消す気あったんですね」
「そりゃそうやろ。あんま長いこと出しとると何があるか分からへんし」
その割には随分堪能してましたけど、と毒づきたいのを必死に堪えた。本当は私だってもっと甘えたいし甘やかされたいしベタベタしたいし、それにそれに。嫉妬が大きく膨らむとそれに比例して分身の行動がさらに大胆になるようで、今度は保守派がキスをしようとしていたので思いっきり頭を叩いた。
「あっ、叩かんでもええやんか!可哀想になぁ……痛かったやろ?」
「うるさい、真島さんは黙ってコイツら消すの手伝ってください」
「いて、ってもうコイツら呼びになっとるやんけ……」
温いこと抜かす彼の頭もついでに叩く。何が起こるか分からないって言ってたのに。眉を八の字にした彼は叩かれた分身の頭を撫でた。ちなみに撫でられている私は大層満足なようで、見るのも恥ずかしいくらいの笑みを浮かべている。分身達にほほ笑みかけるのも撫でる手を止めることも無く彼は口を開いた。
「ほんで、全員抱いたらええんやっけ」
「だっ……?!そんなこと言ってないでしょ!」
ヒヒヒッと悪戯っぽく笑う彼のぶっ飛んだ発言に思わず大声で反応してしまった。分身達はその言葉にそわりと期待を滲ませるので全員まとめて引き剥がして背後に庇う。このままコイツらが彼に引っ付いていたら目の前で始まってしまう。後ろから邪魔しないでだとか文句が聞こえ、思わず振り返って叱るものの効果は無かった。
「全員まとめて可愛がったるで?」
くいっと指先を曲げ、首を傾げながら彼が囁く。わざとらしく情事を仄めかすような甘ったるい声色にくらりときてしまった。当然ながら私達のキュンとくるポイントは同じなので、本体分身共に顔を真っ赤にして思考停止した。後ろ手に抑えていた活発が思い切り飛びついたものの彼は難なく抱きとめた。彼が猫を可愛がるみたいに優しく活発の頭を撫でると私の背後に居た二人も続いて抱き着く。ずるい、私だって。だからと言って捻くれ者の私は素直に抱きつけない。もやもやとただ息苦しさに耐えていると猫を持ち上げるみたいに活発を抱えた彼がこちらに視線だけをこちらに寄越して問いかける。
「なぁ、この子らが何言うてるか通訳してくれや」
拒否したい。反射で断ってしまいそうになるのを何とか堪える。コイツらが消えるのに必要なことだ。彼を見てしまうと通訳なんてろくに出来そうにないので、少し横を向いた。聞こえる声は全て本音で心当たりがある。その中でも理由は違えど言えないで抑圧されていた本音だ。それを本人に伝えることになるとは思っていなかったのもあって、恐る恐る口を開く。
「……ソイツは、会えて嬉しいってひたすら言ってる」
「ヒヒッ、そうなんか〜。可愛ええのぉ」
ぽふん。
伝えられたのをきっかけに消えたようだ。方法は間違っていないことが確定したと同時に、あと二人分の言葉を伝えなくてはならないことに絶望する。何の羞恥プレイなんだ。一番マシだった活発の言葉でさえ恥ずかしくてたまらなかったのに。先の長さを憂いていると次は保守派が彼の膝の上に乗ったようだ。頼むで、と声を掛けられたので渋々頷く。
「……困らせたくない、でも本当はもっと一緒にいたい、会いたいって」
「そないなこと遠慮せんでええのにぃ。ワシ何時でも駆け付けるで」
「仕事はしてください」
冷たく言い放った言葉が彼に刺さったのと保守派が消えたのが同時だったようで、二倍真島さんは悲しそうに唸った。照れ隠しなのは気がついているはずだが、彼は何時も知らないふりして傷付いた演技をする。狡い人だ。
さて、最後に残ったのはマイペースである。実の所コイツが一番ヤバイ。マイペースと名を付けていたが、コイツは七つの大罪で言うところの色欲に当たる。ずっと聞こえていた声さえも耳を塞ぎたくなるほどだったのに、それを伝えろとなるともうこの場で腹を切って死んでしまいたいくらいだ。どうしようと頭を抱えていると彼女が早速本音を零し始める。真島さんは何を言っているか分からないながらも、「ふんふん、ほんで?」と相槌を打っている。
「……ちょっと待ってください」
どう伝えるのがマシだろうか。これはだめ、あれもダメ、候補が消えていく度にカーペットに書いたバツが増えていく。耐えられる羞恥の限界点はとうの昔に超えていて、キャパオーバーした分の照れは熱となって体を火照らせていた。背中はじっとりと汗ばんでいるのに、喉は乾いて仕方ない。
はぁ、と落ち着く為に吐いた息が熱っぽくて思わず口元を抑えた。こんな、興奮してるみたいな───ここまで考えて気がついてしまう。この状況が寧ろ心地よくて、気持ちよくて堪らないと体が訴えていることに。そんな馬鹿な、といくら理性で否定しても事実は覆らない。足元に増えていたバツ印は段々と形を崩し、ただの線の塊になっていく。
『いじわるされたい』
ふと流れ込んできた音にはっと顔を上げた。ぱちりと真島の膝の上の彼女と目が合った。幸せそうに緩んでいた頬が私を揶揄うような笑みに変わりその唇が動く。
───やっと気がついたね。
恐怖に似た何かが電流のように背筋をなぞった。そんな私を見て気を良くしたのか彼女は満足気に微笑むと彼の首に腕をかけ引き寄せ唇を重ねる。そのまま名残惜しそうに唇を離すとこちらに視線だけ向け、悪戯っぽくウィンクを一つ飛ばし跡形もなく消えた。引き剥がそうと伸ばした手は空を掴み、その場に私は膝から崩れ落ちる。怒涛の展開に二人して何も言えず、顔を見合わせた。
「……最後の子ぉは、積極的やったなぁ」
「……ですね」
だんだんと状況が掴めてきたのか真島さんの表情が困惑から愉快に変わっていく。嫌な予感がしたので逃げようとしたが、彼に叶うはずがなく向かい合うように膝の上に乗せられてその腕の中に捕らえられてしまった。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる私をにまにまと笑いながら左右それぞれの頬を摘む。
「ほんで、あの子何言ってたか教えてくれや」
「おひょわいまふ」
「え〜、そんないけずなこと言わんでやぁ」
断ります、と聞き取れたかは分からないがむにむにと頬で遊びながら笑う彼の瞳は全てを慈しむように優しくて全部許せてしまう。子ども扱いされても、揶揄われても、分身に取られてしまって悔しくても、ヘンテコな格好の彼の一途な愛を向けられてしまえば嬉しさで上書きされてどうでも良くなってしまうから狡い。むすっとしてる私に甘やかすように唇を落としたり撫でたりしてた彼がふと思い出したように口を開いた。
「せや、最後の子ぉはなんで消えたんや?」
「……多分、“私が自覚すること”が条件だったみたいで、そういう事です」
「ほーん、そんで何自覚したん?」
「秘密です」
いけずぅ、といい歳したオッサンが唇を尖らせて訴える。普通なら見苦しいのだろうけど、私からすれば可愛く見えてしまうから重症だ。両手で彼の頬を撫でてそのまま口付ける。ぱちぱちと彼が数回瞬きをした後、口角が徐々に上がっていく。襲い来る大声に備え耳を塞ぐと案の定。
「あー!!もう、ホンマ可愛ええな!!!」
嫉妬したんか、とご機嫌な彼にぎゅうぎゅうなでなでされる。少し鬱陶しく思いながらも、不思議と荒れていた心が落ち着いてきた。その穏やかさに目を閉じ、彼の胸に体を預け背に手を回した。同じように彼の手が背中に回って、ぎゅうと抱きしめられる。
「にしても、意地悪されたい思うてるとはなぁ」
「あ、いや、その、それはちが───いやまって、私それ伝えましたっけ」
「……あー、ミスった。何でもあらへんわ。」
「今何隠したんですか?!ねぇ!!」
和やかで甘い空気はどこかに消し飛んで、必死に問い詰めたが、結局彼の口を割らせることは出来なかった。ついでに彼の腕から抜け出ようと力を入れても全く歯が立たず、諦めてまた体を預ける。しばらくして彼の幸せそうな鼻歌が聞こえてきて、もうどうでも良くなってしまった。
(あれ、そもそもなんで私分身できたんだろう)
(そんなん簡単や。ワシの熱くて濃〜いの奥にたんまり注───いてっ)
(変なこと言わないでください!)
(えー、他の理由なんかあるんか?)
(……)
(やろ?)
(……恐怖を覚えました)
