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──チビ助の所轄事件簿。── 要請が来たらしく、彼女と如月が室長に呼ばれた。オレは二人より先に彼女の、おもにプロジェクト関係の仕事に差し障りがないか打診されていた。コロシのヤマらしい。当分の間、警護予定もないのでその旨を伝えておいた。 「昨夜の清水谷公園のヤマ。要請が来てるんだけど。チビ助とそれから如月、行ってくれる? 麹町署に帳場がたつから。まあ、向こうに行ったら所轄の誰かと組むことになると思うけど、如月。チビ助はこういう案件は慣れてないから、頼むわよ」 二人はその日から清水谷公園で発見された男女の刺殺事件にかり出された。詳しくは知らないが、遺体が損壊されていたと聞く。闇が深そうな*ヤマのようだ。室長から聞いた時点で、すでに一抹の不安がよぎっていた。空いた彼女の席を見ながら、オレは彼女が心配だった。彼女が優秀な刑事だということも、四六時中オレがついているわけにもいかないことも分かっている。それでも、犯人確保までにどの位掛かるか、どんなやつと組むのかも分からないし、これから彼女の苦手な夏に向かう。それを考えればつい心配になる。(あいつが聞いたら[過保護もいいとこだ]と笑われるかも知れないな) ──と、そこで室長に少し呆れ交じりの声で話し掛けられた。「何よ、昴。そんな心配そうな顔して。大丈夫よ。チビ助は根性あるし、如月もいるんだから。アンタが行きたいところなんでしょうけど無理よ。今回のヤマのトップは警部なんだからね。自分より上の階級が来ちゃ、指揮だってやり難くなるでしょう」「でも室長、今回はなんで、チビと如月ですのん? いつもは、如月と俺か、明智さんですやん」「それは俺も思ったな。ボス。コロシの、しかも今回の現場はその……色々と、あるようですし。チビのことですから、根性で頑張るでしょうが。チビも女ですよ? きついんじゃないですかねえ」「名指しでご指名だったのよ。だーから、大丈夫よ。チビ助は。まあね。アンタ達が心配なのも、分からない訳じゃないけどねえ。私達がずっと守ってやれるなら、それもいいでしょうけど。そうじゃないでしょう? それなら、目が届くうちに経験を積ませてやらなきゃね。それにさ。あれでいて、あの子はねえ。変なとこばかり悪目立ちしてるから、見落とされがちになってるだけで。アンタ達が思うよりずっと優秀よ。警察学校だって高卒者で首席卒業だし、検挙率も高い。総監や総理のご令嬢、それからプリンセスや、宮代夏樺の保護、戮メンバーの逮捕と、実績だって凄いやつが十分にあるのよ」「確かに。彼女、昇進試験も一発合格して、二十四で巡査部長だしね。二十代後半で、警部補。三十代前半で警部なんて事もありえるかも」「そうそう。小笠原の言う通り。なんせさ、この私が発掘してきた子よ。チビ助なら*ノンキャリでも、三十二歳あたりで警部なんてのも夢じゃないわよ。ふふふ~ん」 そう、鼻高々という風に室長はごきげんで鼻歌まで飛び出した。一方、藤守がちょっと不服そうな顔になった。*ヤマ:事件の事*ノンキャリ: キャリアは、国家公務員採用第1種試験に合格して上級職員として採用された人達で、ノンキャリアは、それ以外の都道府県の警察官採用試験を受けて警察官になった人達の事。キャリアのスタート階級は警部補、ノンキャリアは巡査からと出世の速度などに違いがある。
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