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「なまえ、何を言ってる?」「後藤! お前が、なまえを呼び捨てにすんな! このパジャマが!」「男の過ぎた嫉妬程、見苦しいものはないな」 後藤の言葉に『ん~、辛辣ぅ』と言って彼女は、三味線を弾くふりをしながら口で伴奏を始めた。ぺぺんぺん~♪ ぺぺんぺん~♪ 『口でけなして心で褒めて 人目しのんで見る写真』と節をつけ歌った。「あら、都々逸(どどいつ)?」 室長が聞くと彼女がにこっとしながら頷いた。「都々逸とは、粋だなぁ。しかし若いのに、よく知ってましたねぇ」 と桂木さんは感心する。そら、黒澤、如月の[合コントリオ]──特に、そら──が『都々逸って?』と言い出した。小笠原が、いつものように説明するのかと思ったが『君たち、三人寄るとうるさ過ぎる、嫌だ。自分でググれ』で済ました。仕方なく、桂木さんが簡単に教えてやった。 一方、彼女のおふざけはまだ続く。『恋に焦がれて鳴く蝉よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす』また有名な都々逸を先ほどのように節をつけ歌った。 歌いながら後ろを向き、しなやかにしゃなりしゃなりと数歩前へ行くと、ふと足を止めて振り返る。振り返る姿は、どこか見返り美人の絵画を連想させた。横顔は悲しげな、それでいてせつなげな、そんな表情だった。彼女が涙をそっと拭く仕草をする。着物の袖で拭いているように錯覚して見える。パントマイムというやつか。 一連の動作は、まるで一人芝居のようだ。皆、目を惹き付けられている。間が出来ると、海司が拍手しながら言う。「おぉー、相変わらずスゲーな。なまえ劇場は! でも、懐かしいなぁー超久々だ」 海司が言ったのを合図に、そこでガラリと雰囲気が変わる。彼女はどこかの舞台女優にでもなったように、振りを交えながら続けた。「禁断の実を食べてしまわれるなんて。お痛わしいこと……可哀想なお兄様……。なのに、嗚呼、何と残酷な悪戯でしょう。まさか、お兄様までが、まさか……あの方を好きになってしまうなんて……」 ショックで戸惑い、悲しんでいる所に誰かが来たようだ。視線がいるであろう方角で止まった。「お兄様……こちらにいらしたのですか。まぁ今、何と? ……わたくしに諦めろと仰るのですか? そんな、そんな事……いやですわ! いいえ、お兄様、違います。禁断の実を食べてしまわれても、お兄様はお兄様ですもの。なまえは今も、お兄様が大好きですわ。でも……いくら大好きな、誠二お兄様でも、昴様だけは……あの方だけは、譲れませんわ。あの方は、わたくしのこの身よりも大切な方……分かって下さい。お兄様! ……そう、ですか、分かってはいただけないのですね……。いいわ。お兄様、わたくし、絶対に負けなくってよっ!」 悲し気な顔から一転、キッと強い視線を向け宣戦布告した。そこで一旦途切れる。間が出来るとすかさず、合コントリオが『ねぇ海司、なまえ劇場って? 何、何?』説明しろとせっつく。いつもは『うるさいぞ』と怒りそうな桂木さん、石神、室長の[鬼軍曹ブラザーズ]も、何の事かと海司の説明を待つ。──因みに、室長にバレたら、ひん剥かれて吊るされそうな、このあだ名やそら達のあだ名はなまえがつけた。今のところ、オレと彼女しか知らない── 海司が、みんなに説明する。「コイツ、声色得意でしょう? ガキの頃、たまに興が乗った時だけ[声色を使った即興一人芝居]をやってたんスよ。これがまた結構、面白いんスよ。で、それを裕子先生やうちの家族で【なまえ劇場】って言ってたんス」『へぇー』とみんなが納得する。
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