例えば、
ユキ、ジュン、アキラ、カオル、ユウキ、ヒカル、チヒロ、ケイ、ナギサ、ハルキ、ミチル、シノブ、ハルヒ、レイ、レン、リン、ミライ、ヒナタ、ユウリ、マコト、マスミ、ミソラ、ハヅキ、カヅキ、ヒロ、ユウ、シュウ、ハル、ナツキとか?
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──最強最終兵器?(改訂版)──
彼女のお願いの成功率は97% は行くと思う。だけど相手に無理強いしたり、ごり押したりはしない。彼女はごり押しが得意な押しが強いというよりも、どちらかといえば気を使うタイプだ。
けれど、それが彼女の癖なのか会話をする時、相手と目を合わせて話す事が多い。
頼み事をする時もこれまた然り。彼女のくりっとした黒い瞳で、じっと見つめながらお願いをされると大抵の奴は了承してしまう。
斯く言う僕もその1人だ。
嫌だと言ってしまいたいのに、あの目が曲者なのだ。あの瞳が[ダメ?]とでも、語り掛けるみたいに見つめてくる。返事を躊躇してると、その瞳が捨てられた仔犬のように少し悲し気に……時に、少し寂し気に揺れる。
気付けば『分かったよ』の言葉が出てる。
アレには男連中のみならず、明智さんの奥方や彼女の幼なじみの女の子なども、あの目に弱いらしい。
それどころか、あの悪魔にでさえ『仕方ない。分かった』と言わせている事が多々ある。
──あの男は普段、どうしているんだろう──
四六時中一緒にいてお願いされる事も、一番多い筈。
何でも聞き入れてる? それとも、うまく断る術を心得ているのか?
そんな技があるなら、是非知りたい。
「一柳さん、突然だけど聞いていい?」
「ああ、何だ? 小笠原」
「君、彼女……チビの頼み事を断る技、持ってるの?」
俺がそう口にすると藤守、如月、明智さん、室長までもがパッと俺達に注目して『あ、それ知りたい!』と声を合わせた。
特に室長はデスクから腰を浮かし身を乗り出して、自らも彼に問い掛けた。
「昴、そんな技があるなら教えなさい!」
彼はいつものポーカーフェイスを崩す事無く、少し考える仕草をした。
「……頼み、事ですか?」
「そうや。チビのあのくりくりお目々の[お願い]ちゅーやつや」
「あの、チビ助のお願いはねえ……はあぁぁ」
「非常に断り辛い。うちの奥さんもアレには弱いらしい」
「っていうか、断れないですよー。俺断ってる人、見た事ないですよ? 藤守さんあります?」
「なんや、如月もかい? 俺もないわ。あ、小野瀬さんはよう、お断りしてますやん。『ダメ、今は手一杯で出来ないよ』ちゅーて。チビのお願いも断れてるんちゃいますの?」
「いやー実は俺も、ねぇー。アレには弱い。断ろうとすると罪悪感に苛まれるよね。アレ」
「あら、ちょっとぉ。小野瀬が何でいるのよ?」
「休憩だよ、休憩。そういえば、噂のおチビちゃんがいないね? 珈琲を淹れてもらおうかと思ったんだけど」
「ああー、チビは近くまで、お使いに行ってますよ」
「それは、残念だな」
小野瀬さんと如月がそんなやり取りをしてる脇で彼は、思い起こすみたいに考え込んでいた。
「お願い事ねー……」
彼は思考の波にのまれるように独り言をブツブツと呟き始めた。
「……そーいえば、オレなまえに[お願い]されねーなー。アイツ、あんまわがまま言わねからか? ん? ……いや、される前に分かるんだ。うん、そうだ。だから『お願い』より、いつも『ありがとう』なんだ。……つーか、そもそもたまにお願いされてもあの顔と甘い声で甘えられると、もう可愛くてなー」
ブツブツと言い始めたと思ったら、ポーカーフェイスが崩れて心なしか口元がゆるみデレた。
いつもはビシッと決めてるのに、彼は彼女の事になるとたまにこうなる。きっと彼の脳内では彼女の事を考えただけでも、別名を幸せホルモンと言われるセロトニン、それから愛情ホルモンのオキシトシン、快感物質のドーパミンが分泌されてるに違いない。
そんな事を思いながら彼を眺めていると、彼はボソッと結論を呟いた。
「……アレは断れねーだろ」
(何だ……やっぱり断れないのか)
そう思っていると室長が未だに、自分の世界に浸る彼を呼び覚まそうとする。
「……る、……ばる、昴っ!!」
最後のでかい声に彼は、ハッと我に帰った。
「え? あ……」
「アンタ、本当に【チビバカ】ねえ。考えてる事がだだ漏れよ」
(【チビバカ】か……。確かに彼は【チビバカ】だと思うけど。そういう室長も十分【チビバカ】じゃないか)
「室長、その【チビバカ】って親バカみたいなのですかー?」
(如月、それ以外に何があるって言うの?)
みんなの会話にひとり突っ込みを入れてると、明智さんが頷き納得している。
「だろうな。気持ちは分かる」
「あー、あんな可愛い彼女ならバカにもなりますよねー。いいなぁー。一柳さん、オレに下さいよ」
「如月、お前はバカか。誰がやるかっ! アイツはオレのなの!」
「つまり、彼氏である昴君もおチビちゃんの[お願い]は断れないんだ……」
「最強ちゅー事やね」
藤守のその一言に俺を含めた全員が『うん』と深く頷く。
「チビって、分かっててやってんですかねぇー」
「何よ? 如月、それってチビ助が、確信犯かって事を言いたい訳?」
「いやー。アレはそうやないんちゃう?」
「あの子、案外ヌケてる所あるからねえ。何も考えてないと思うわよ」
「ヌケてるって──室長。人の彼女つかまえて、ひでー言い方ですね」
「何言ってんのよ。昴。あの子は、かなりの天然な上にヌケてるでしょうよ。それが事実よ、事実」
室長の言葉に一柳さんが苦笑いする。
「ま、天然な所はありますけどね。アイツはそんな計算高くねーよ。どっちかつーと、後先考えねーで突っ走るタイプだ」
「だね」
僕もその意見には同意だ。
すると、室長が『フフフ』とゾッとするような声で、口角を上げニヤリと笑い出した。あの顔は良からぬ事を考え付いたに違いない。
「最強ね。なら今度からお願い事はチビ助に行かせよう。これは使えそうだわ」
藤守が、その悪い顔を見て『悪魔や』と漏らす。横で如月が『うわーん、悪魔がここにいるよー。チビ、可哀そう』と怯える。
(如月は、自分もいつもいじめてるくせに。こいつは自覚がないのか)
そう思いながら僕もぼそりと続けた。
「パワハラ魔王。チビがかわいそうだ」
彼も心配したようで釘を刺す。
「あんまりヘンなお願い事はダメですよ!」
「だって、アンタ。うちの最終兵器になりそうじゃない。つかえるもんは使わないとねえ」
悪魔がしゃらりと言う。