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「独占欲強くて嫌になった?」「ううん、ならない。大好き」「そっか……でもお前の事だから、いっぱいいっぱいになったら余裕無くなって、また忘れちゃうんだろうな」「うぅ……すいません」「フッ……良いよ。仕方ねーから、忘れたら何度でも言ってやる。でもその場合、その後のおしおきは覚悟しろよ。な? なまえちゃん」 彼女がちょっと困ったように『……うん』と頷いた時、一陣の風が桜を揺らした。花びらが散々に舞う。(確か、去年もこんな事があったな。桜吹雪の中のなまえはとても綺麗で……。それでいて儚げで、今にも消えてしまいそうに見えたっけ。それが、妙にオレを不安にさせたんだ) 今年は彼女の手をしっかり握っているせいか、そんな不安を感じる事もなく『綺麗……』と呟く彼女と舞う花びらを、ゆったりした気分で眺めた。 ふと彼女がオレに視線を向け『ねぇ、ちょっとかがんで?』と言うので少しかがんでやると、彼女がオレに向かい腕を伸ばした。「花びらついてる」 そう言って髪についた花びらを取り、ふんわりと笑顔をくれた。オレもフッと微笑んでから『ありがと……じゃ、お礼だ』呟いて、顔を近付けると彼女が瞳を閉じた。彼女の柔らかな唇にキスを落とす。 いつもと変わらない調子で何気なく、キスしたのに……。 桜の道で、そっと触れるように交わしたキスは、何故かきゅんと切なく胸に響いた。それでいて妙にドキドキとさせ、オレを甘酸っぱい気分にさせた。(桜のせい、か? 何だか、不思議な感じだ……) そんな思春期のガキみたいな自分に戸惑うと同時に、照れて頬が熱くなる。誤魔化すように口を開く。「オレ、桜が咲き始める頃が最高って思う……」「うん。昴は、桜の季節が好きなんだよね?」「そう、好きなんだ。桜って、やっぱり良いだろ。今、桜の下でお前とキスしたら、もっと好きになった」「ね……今の昴のキス。優しくて、胸がきゅんとしたよ。僕、今のキス……きっとずっと忘れない」「ん、気が合うな。実はオレもだ。……そうだ。毎年なまえに、桜の下でキスしよう」「毎年?」「そう、毎年」「ふふ……毎年か。あっ、もしもこの時期に滅茶苦茶、すごいケンカをしてたら? どうするの?」「それでもするよ」「んーそれって、約束だから? 怒っててもするって事?」「いや、そんな義理みたいなキスじゃなくて、ちゃーんと愛を込めてするよ。そんな大ゲンカは、なるべくしたくねーけど。ケンカしてても、愛を込めて仲直りのキスをする」「そっか。へへ……それ、嬉しいかも」「そん時は、外ちゅう解禁な」「んー……じゃあね、誰もいない所でこっそり、なら良いよ。……だって誰かに見られたら、やっぱりちょっと恥ずかしい」「クスッ……こっそり密やかに?」「ん、二人だけの内緒のキス……だよ」 そう言って彼女が背伸びをしたので、顔を傾けてもう一度キスをする。唇が離れると彼女が『すき……』と小さく、吐息交じりに囁いた。その唇の動きを目で追ってから視線をずらし、瞳を見つめる。 彼女の唇も、瞳も、彼女の全てが愛しい。切ない程に想いがつのって行く。 付き合い出してから二度目の春を迎える今も、この気持ちは少しも薄れていない。 愛しさを込めて彼女の頬を撫でると、彼女がオレの手にそっと触れる。 頬から手を離し、その手を握りしめた。オレより小さい彼女の手に、指を絡めてしっかりと繋ぐ。彼女は繋いだ手に視線を落とした後で、顔を上げフッと微笑んだ。その笑みに微笑み返し『行くか』と一言。コックリと彼女が頷き、ゆっくりと二人で店までの道を歩き始める──。──花明かりの下で、密やかに君と交わす口づけ。──End.
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