ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
──桜影にて、守るもの── 夜の公園に、静かに桜が降っていた。 白く淡い花びらが、街灯の光に照らされて、まるで雪のように舞っている。「……綺麗だね」 ぽつりと、なまえが呟いた。 その声は、いつもの軽やかさより少しだけ柔らかく、どこか遠くを見ているようだった。「見惚れてる場合か。時間だ」 昴が短く言う。「うん、分かってるよ」 そう返しながらも、なまえは一枚の花びらを指先で受け止めた。「……儚いね」 その言葉に、昴が一瞬だけ視線を向ける。「そんな顔するな」「え?」「消えそうな顔」 少しだけ低く、静かな声。 なまえは一瞬きょとんとしてから、ふっと笑った。「僕は消えないよ」 間を置いて、「ちゃんと、ここにいる」 そう言って、自分の胸を軽く叩く。 昴はそれを見て、小さく息を吐いた。「……ならいい」 短い言葉の奥に、確かな安堵が滲む。 ● ○ ● ○「チビ助、感傷に浸るのは後にしなさい」 無線越しに穂積の声が飛ぶ。「現場はまだ動いてるわよ」「了解、室長」 なまえの声がすっと切り替わる。 柔らかさが消え、芯のある静けさに変わる。「小笠原さん、状況」「対象、移動開始。南口へ」「早いな……」 藤守が低く唸る。「ほな、追うで」「待て」 明智が制す。「不用意に突っ込むな。誘導されてる可能性がある」「じゃあどうするんや」 短い沈黙。 その間を縫うように、「僕が行く」 なまえが一歩前に出た。「なまえ、待て」 昴の声が鋭く入る。「単独は――」「大丈夫」 振り返らずに言う。「様子見るだけ。無茶はしない」 その言葉に、ほんの一瞬の間。 昴は、知っている。 “無茶はしない”と言う時の彼女が、時々それを守れないことを。「……行くなら、オレも行く」「だめ」 即答だった。「昴は正面で待ってて」「なまえ」「お願い」 振り返る。 その目は、強くて、でもどこか優しかった。「僕、ひとりじゃないでしょ?」 その一言で、空気が止まる。 藤守も、明智も、黙る。「ちゃんと、みんながいる」 少しだけ、笑う。「だから大丈夫」 昴は、言葉を飲み込んだ。 代わりに、小さく息を吐く。「……三分」「え?」「三分で戻れ。戻らなかったら、オレが行く」「了解」 なまえは頷き、闇へと滑り込んだ。 ● ○ ● ○ 桜の花びらが、はらはらと舞う。 静かな裏道。 気配を殺しながら進む。(……いる) 足音。 息遣い。 気配を読む。 そして――「そこ」 低く、鋭く。 影が動いた瞬間、なまえは一気に踏み込む。 野獣のような動き。 無駄がない。「……チッ」 相手が逃げようとする。 だが、その一瞬。「逃がさない」 掴む。 押さえ込む。 地面に叩きつける音が、桜の静寂を裂いた。 そのまま拘束。 呼吸を整える。「確保」 無線に乗せる。 少しだけ、息が荒い。 けれど――「……間に合った」 小さく、呟く。 ● ○ ● ○「無茶はしてねーな」 戻ってきたなまえに、昴が言う。「したくても、三分しかなかったからね」 軽く笑う。 その頬に、花びらが一枚。 昴は無言でそれを取った。「ありがと」「……震えてる」「え?」「手」 言われて、初めて気付く。 ほんの少しだけ、震えていた。「……ああ」 なまえは苦笑した。「やっぱり、ちょっと怖かったみたい」 正直な言葉。 強がらない。 それが、彼女の強さ。 昴はその手を、そっと握った。「……言え」「ん?」「怖い時は、言え」 短い言葉。 でも、真っ直ぐだった。「……うん」 なまえは、静かに頷いた。 そして少しだけ、力を込めて握り返す。「ありがとう」 その声は、さっきよりも少しだけ、あたたかかった。 桜がまた、ひとひら落ちる。 今度は消えずに、二人の間に残った。 夜の中で、確かにそこにあるもののように――。──桜影にて、守るもの──End.
このサイトの読者登録を行います。 読者登録すると、このユーザーの更新履歴に新しい投稿があったとき、登録したアドレスにメールで通知が送られます。