「セントラルパークだけじゃなくてぇ、ダーリンが過ごした場所巡りもしたい！　学生時代のダーリンが、垣間見られるかも知れない。キャンパスや、住んでた所、ダーリンがよく行ったカフェや歩いた道……見てみたい」
「ふふ。パリも楽しかったけどお前の話を聞いてたら、ＮＹも楽しそうだ。一緒に行こうな？」
「うん。パリ、楽しかったね。明後日でもう一年か。早いね」
「途中で数ヵ月離れてたから、一年って感じしねーな。そうだ。今年はさ、何もしなくて良いからな」
「え？　すぅのお誕生日と初の結婚記念日なのに？　お祝いは？　何もしないの？」
「うん。その日はしない。お祝いはな、後のお楽しみだ。明後日も平日で仕事だしな。あ、ケーキもプレゼントもいらないぞ」
「えー僕、明日プレゼント買いに行って当日はディナー支度して、ケーキも焼こうと思ってたのにぃ」
「やっぱりな。そうだろうと思ってたよ。でも気持ちだけで十分だ。あのな、ハニーはあんま自覚がねーけど。お前、かなり疲れがたまってるよ？　オーバーワークで軽くなった体重だって、まだ戻ってないし──あ、大丈夫は無しだ。オレには、大丈夫に見えない。頑張り屋なのは、お前の長所だけどさ。無理ばっかして、もしも大病でもしたら困るぞ。*この前、身に沁みたばっかだろが。オレはな、ケーキやお祝いよりもお前に元気でいて欲しい。それにお祝いは、次のお休みにちゃんとするだろ？」
「うー、ん……」
　ちょっと納得行かない顔で、歯切れの悪い返事。

「あれ？　ハニーは旅行、楽しみじゃねーの？　オレは、すっごく楽しみなんだけど？」
「え？　僕も、すっごい楽しみだよ。決まってるでしょ。でもさー……じゃあ、誕生日のプレゼントだけでもぉ──」
「ふっ、それも言うと思った。じゃあ、プレゼントもらっていい？」
「うん！」
「何でもいい？」
「うん。いいよ」
「なら、旅行までのあと数日間、無理しない。出来るだけ休息を取ること。誕生日と旅行中は、ずっとオレと一緒にいること。オレの言う事をきくこと。いい？」
「すぅ、それでいいの？　本当に？　うん、分かった」
「約束な？　分かったら約束のキス、しろ」
　素直にキスをする彼女と、約束を取り付けた。


*詳しくは２８。 アンドロイドは電気羊の夢を見る。をお読み下さい。